『選択は一つで足りない』
【ユーリ視点】
吹雪の音が、心臓の鼓動よりも大きく響いた。
本部が崩れつつある音。
アニエスの荒い呼吸。
イゴールの静かな眼差し。
すべてが、俺を急かしている。
(本部に戻るか……
アニエスを助けるか……
二つの道が……重くのしかかる……)
未来予測の線が乱れ、
選ぶ度に兵が死ぬ映像が脳裏に流れた。
(どちらかを選べば……
どちらかが死ぬ……)
その瞬間、強烈な吐き気に襲われた。
(こんな……選択……
選べるわけがない……!)
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【アニエス視点】
「ユーリ!! 聞こえる!?
本部が落ちたら、誰も助けられない!!
私のことは気にしないで!!」
叫んだ。
でも――ユーリの背は動かない。
(迷ってる……
どっちを選んでも……誰かが死ぬと思ってるから……)
胸が締めつけられた。
(そんなの……あなた一人に背負わせられない……!)
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【イゴール視点】
イゴールは腕を組み、
静かにユーリを観察していた。
「選べないか。
それが凡夫の限界だ」
「……黙れ」
「本部か、女か。
どちらかを捨てねば、生き残れぬ」
その声音は冷たく固い氷を思わせる。
「ユーリ。
お前の“完璧主義”はここで死ぬ。
戦場で選択肢は常に一つ。
捨てるか、救うか。
いずれかだ。」
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【ユーリ視点】
(……違う……
違う……!!)
胸の奥で、何かが弾けるような感覚がした。
(選択肢が一つしかないなんて……
そんなのは戦場じゃない……
ただの強制だ……!)
息が熱くなる。
(俺は……
俺はずっと、“正解”だけを探し続けてきた……
でも……
本当は――)
未来予測の線が再び浮かぶ。
だが今度は、一本ではなかった。
二本。
三本。
無数。
(未来は一本じゃない……!!
見える……
“別の流れ”が……!!)
吹雪の中で、
その“第三の線”が輝いた。
(そうだ……
なぜ二択にするんだ……?)
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【アニエス視点】
ユーリの肩が震え、
彼はゆっくりと振り返った。
その目に宿っていたのは――恐怖でも絶望でもなく、
「覚悟」 だった。
「アニエス……
お前も本部も――両方救う」
「え……?」
「選ばない。
俺は……全部やる」
(そんな……!)
「できるわけ……!」
「できる」
彼は雪を踏みしめ、凛と立つ。
「“未来予測”は……一本の答えを示す力じゃない。
無数の道から――
“正解へ到達する手順”を探す力だ」
(……それは……もう予測じゃない……
戦場を……“設計”してる……!)
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【イゴール視点】
イゴールの目がわずかに見開かれた。
「……ほう。
やっと気づいたか」
杖の先で雪を軽く突く。
「未来予測とは“選択肢を絞る能力”ではない。
“選択肢を増やせる者”こそが本当の能力者だ」
イゴールは笑った。
「第一段階――突破だ。
ユーリ・コールドウェル」
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【ユーリ視点】
(本部へ戻るには時間が足りない。
アニエスを守るためには、この場から離れられない。
だが――
道が一つではない)
「アニエス、聞け。
俺はお前を連れて“凹地を脱出”する」
「脱出……?
でも本部が……!」
「その後で、“風の逆流”を利用して本部へ戻る」
「逆流を……使う!?」
「イゴールが作った風圧は、
本来なら本部を壊すためのものだ。
だが方向と角度を調整すれば――
“俺たちを本部まで運ぶ風道になる”」
(そんな……風すら……武器に……!)
「アニエス。
お前は俺の後ろに付け」
「わかった……!」
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【イゴール視点】
イゴールは深く頷いた。
「それが、“第三の選択”だ」
風が唸る。
本部の方向へ巨大な渦が伸びていく。
「ユーリ。
お前の戦争は――
ここからだ。」
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ユーリは風道へ一歩踏み出す。
アニエスがその背を追う。
イゴールの口元がわずかに吊り上がる。




