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『凍土補給戦記(フローズン・ロジスティクス)』  作者: 済美 凛


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33/40

『選択は一つで足りない』

【ユーリ視点】


 吹雪の音が、心臓の鼓動よりも大きく響いた。


 本部が崩れつつある音。

 アニエスの荒い呼吸。

 イゴールの静かな眼差し。


 すべてが、俺を急かしている。


(本部に戻るか……

 アニエスを助けるか……

 二つの道が……重くのしかかる……)


 未来予測の線が乱れ、

 選ぶ度に兵が死ぬ映像が脳裏に流れた。


(どちらかを選べば……

 どちらかが死ぬ……)


 その瞬間、強烈な吐き気に襲われた。


(こんな……選択……

 選べるわけがない……!)



---


【アニエス視点】


「ユーリ!! 聞こえる!?

 本部が落ちたら、誰も助けられない!!

 私のことは気にしないで!!」


 叫んだ。

 でも――ユーリの背は動かない。


(迷ってる……

 どっちを選んでも……誰かが死ぬと思ってるから……)


 胸が締めつけられた。


(そんなの……あなた一人に背負わせられない……!)



---


【イゴール視点】


 イゴールは腕を組み、

 静かにユーリを観察していた。


「選べないか。

 それが凡夫の限界だ」


「……黙れ」


「本部か、女か。

 どちらかを捨てねば、生き残れぬ」


 その声音は冷たく固い氷を思わせる。


「ユーリ。

 お前の“完璧主義”はここで死ぬ。

 戦場で選択肢は常に一つ。

 捨てるか、救うか。

 いずれかだ。」



---


【ユーリ視点】


(……違う……

 違う……!!)


 胸の奥で、何かが弾けるような感覚がした。


(選択肢が一つしかないなんて……

 そんなのは戦場じゃない……

 ただの強制だ……!)


 息が熱くなる。


(俺は……

 俺はずっと、“正解”だけを探し続けてきた……

 でも……

 本当は――)


 未来予測の線が再び浮かぶ。

 だが今度は、一本ではなかった。


 二本。


三本。


無数。


(未来は一本じゃない……!!

 見える……

 “別の流れ”が……!!)


 吹雪の中で、

 その“第三の線”が輝いた。


(そうだ……

 なぜ二択にするんだ……?)



---


【アニエス視点】


 ユーリの肩が震え、

 彼はゆっくりと振り返った。


 その目に宿っていたのは――恐怖でも絶望でもなく、


「覚悟」 だった。


「アニエス……

 お前も本部も――両方救う」


「え……?」


「選ばない。

 俺は……全部やる」


(そんな……!)


「できるわけ……!」


「できる」


 彼は雪を踏みしめ、凛と立つ。


「“未来予測”は……一本の答えを示す力じゃない。

 無数の道から――

 “正解へ到達する手順”を探す力だ」


(……それは……もう予測じゃない……

 戦場を……“設計”してる……!)



---


【イゴール視点】


 イゴールの目がわずかに見開かれた。


「……ほう。

 やっと気づいたか」


 杖の先で雪を軽く突く。


「未来予測とは“選択肢を絞る能力”ではない。

 “選択肢を増やせる者”こそが本当の能力者だ」


 イゴールは笑った。


「第一段階――突破だ。

 ユーリ・コールドウェル」



---


【ユーリ視点】


(本部へ戻るには時間が足りない。

 アニエスを守るためには、この場から離れられない。

 だが――

 道が一つではない)


「アニエス、聞け。

 俺はお前を連れて“凹地を脱出”する」


「脱出……?

 でも本部が……!」


「その後で、“風の逆流”を利用して本部へ戻る」


「逆流を……使う!?」


「イゴールが作った風圧は、

 本来なら本部を壊すためのものだ。

 だが方向と角度を調整すれば――

 “俺たちを本部まで運ぶ風道になる”」


(そんな……風すら……武器に……!)


「アニエス。

 お前は俺の後ろに付け」


「わかった……!」



---


【イゴール視点】


 イゴールは深く頷いた。


「それが、“第三の選択”だ」


 風が唸る。

 本部の方向へ巨大な渦が伸びていく。


「ユーリ。

 お前の戦争は――

 ここからだ。」



---


ユーリは風道へ一歩踏み出す。


アニエスがその背を追う。


イゴールの口元がわずかに吊り上がる。



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