『予測が線になるとき』
【ユーリ視点】
世界が、静かだった。
風が形を持ち、
雪が軌道を描き、
未来が“つながる線”として見えていた。
(――これが……俺の……)
氷走隊の二体が跳躍する。
その軌道は不規則で、瞬間的で、
常識では追えないはずだ。
だが今は違う。
線だ。
たった一瞬先までの、細い光の線が見える。
(右は二歩先で滑る。
左は着地の瞬間、体勢が崩れる……!)
足が勝手に動いた。
ガッ!!
右側の氷走隊の着地に合わせ、
踵で雪を蹴り上げて視界を塞ぐ。
相手の刃が空を切った瞬間、
左腕の肘を面頬へ叩きつける。
バキッ!!
一体が雪へ沈む。
残り一体が右後方から跳んでくる。
(追える……!)
跳躍の軌道線に合わせて、
右足を滑らせるように半回転。
風を切る音のわずかな“ズレ”を掴み、
拳を放つ。
ドガッ!!
氷走隊の身体が弾かれ、
風の渦へ溶けるように沈んだ。
雪が静まり返る。
(……やった……?
俺は……氷走隊を、圧倒した……?)
胸の奥が熱く脈打った。
---
【アニエス視点】
(信じられない……!)
氷走隊の動きは、
訓練された精鋭でさえ追うのがやっとだ。
その軌道を、ユーリが――
ほとんど“見切っている”。
(ユーリの動きが……
ユーリじゃないみたい……
でも――ユーリのまま……!)
彼の横顔は、
凍える世界の中でただ一人、
確かに強い光を宿していた。
「アニエス、大丈夫か?」
息が詰まるほどの迫力を感じた。
「ええ……あなたの方が大丈夫じゃなさそうよ……
そんな無茶して……!」
「無茶じゃない。
今なら……“見える”んだ」
「見える……?」
「未来が、少しだけ」
アニエスは息を呑んだ。
(未来が……?
あの能力が……ここで……?)
---
【イゴール視点】
イゴール・ストルコフは、
凍土の中央でその光景を見つめていた。
「……来たか」
声は低く、しかし満足げだった。
「断片的な未来予測ではない。
“連続する予測”……
ユーリ・コールドウェル、お前はついにその領域へ入った」
氷の杖を雪へ突き立て、
風を感じ取る。
「恐怖、責任、執念……
それらを力へ変換する兵站官。
ようやく――“戦場で生きる形”になったな」
イゴールは微笑む。
「だが、それでも足りない」
風の揺れが再び増す。
本部方向から黒煙が上がっていた。
「時間はもう残されていない。
本部は崩壊寸前。
ユーリ、お前が決断しなければ――
北方軍は終わる」
---
【ユーリ視点】
胸の奥が疼いた。
(そうだ……
アニエスを救っても……
本部が落ちたら終わりだ……)
風が変わる。
本部方向で爆音が続く。
「中佐!! 本部通信から最終警告!!
外周が突破されつつあります!!」
「……やはり、時間切れか」
イゴールがこちらに歩み寄ってくる。
「ユーリ。
お前は今、“正解のない戦場”に立っている」
「黙れ……!」
「救うか。捨てるか。
守るか。攻めるか。
効率か、感情か。
未来か、今か。」
凍土を割るような声。
「その二律背反を超えた時――
ユーリ・コールドウェルは“完成”する。」
「……!」
「さあ、選べ」
その言葉は、
刃より冷たかった。
---
【アニエス視点】
(ユーリ……
あなたの心は――
どこへ向かうの……?)
氷走隊の死骸の間で、
ユーリの手が小刻みに震えていた。
恐怖ではない。
葛藤だ。
(本部か……私か……
そんな選択……させたくない……!)
アニエスは叫んだ。
「ユーリ!!
私のことは気にしないで!!
本部へ戻って!!
あそこが落ちたら……全部終わりよ!!」
ユーリは振り返らない。
(聞こえてる……
なのに……動けない……?)
---
【ユーリ視点】
(俺は……
何を選ぶ?)
吹雪に、アニエスの血が落ちる音。
本部で戦う兵たちの叫び。
イゴールの冷たい眼。
すべてが、
同時に胸へ突き刺さる。
(俺は……
俺は――)
未来予測が乱れ、
風の線が揺れた。
(……選ばなければ。
選ばなければ、誰も救えない……!)
息を吸い込む。
(決めろ!!)
---
イゴール「――それでいい。
選べ、ユーリ・コールドウェル。
結末は、お前の手で決めろ。」




