『揺らぐ未来、立つ意志』
【凍土・ユーリ視点】
六体の氷走隊が、
白い刃の弧を描きながら同時に跳躍した。
(速い……!
だが、さっきより“見える”……)
風の揺れ。
雪の回転。
氷走隊の足が踏みしめる一瞬の影。
それらが線になり、
線が面になり、
面が――流れになる。
(これが……“未来予測”ではなく……
戦場での“感覚”……?)
氷走隊の一体がアニエスへ跳ぶ。
「アニエス!!」
俺は雪を蹴り、身を投げた。
ガンッ!!
刃と腕の装甲がぶつかり、
凍る衝撃が骨まで響く。
「きゃっ……!」
「下がれ!!」
アニエスの腕を掴み、後方へ押し込む。
氷走隊が体勢を立て直し、
一斉に襲い掛かってくる。
(だが……もう“全部”は追わない。
追うのは、一本だけだ)
六体の動きの中から――
“最初に風を切った一体”の軌道だけを見る。
そこが他の五体の基準になる。
(いた……!)
俺は足をずらし、
その一体を迎え撃つように身を回す。
ザシュッ!!
氷の刃が頬を裂いたが、
俺の拳がその面頬を砕き、地面へ叩き落とす。
「中佐!! 一体撃破!」
(……できる……!
やれる……!)
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【アニエス視点】
(何……この動き……!
さっきまでのユーリじゃ……ない……!)
氷走隊の跳躍を、
ユーリの身体が“自然に”読んでいる。
データでも予測でもなく、
反応でもなく。
(……これは……“戦っている人間”の動き……!)
ユーリが息を吐きながら叫ぶ。
「アニエス! 後退して!!
お前を守る戦い方しか、俺にはできない!!」
胸が熱くなる。
(そうじゃない……
それでも……
あなたが“守るために”戦える人だって……
私は知ってる……!)
「ユーリ! 背中!!」
アニエスは銃を構え、
氷走隊の一体に弾丸を撃ち込む。
氷の背が砕け、風が一瞬揺れた。
「助かった!」
「気にしないで!
あなたの背中は……私が守る!!」
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【イゴール視点】
凹地の中央で、
イゴールは静かに腕を組んでいた。
「……やはり、面白い」
氷走隊が二体、雪へ沈む。
ユーリの動きはまだぎこちない。
だが――確実に“戦士”へ近づいている。
「彼は恐怖を原動力にして動いている。
しかも、その恐怖を他者のために使っている……」
アニエスがユーリと背中合わせに立つ。
「仲間の存在を、力に変えたか。
それが“意志の兵站”だ」
氷走隊の残り四体が、風の渦へ跳び込む。
「さあ、ユーリ。
次を見せてみろ」
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【凍土・ユーリ視点】
視界が白く染まる。
風の芯の位置が、わずかに揺れた。
(……来る……!
四体が、一度に……!)
その瞬間――
未来が“揺れた”。
ほんの一秒。
ほんの一瞬。
四つの影が、
どの順で襲いかかるか――
断片が見えた。
(……これが……俺の……)
氷走隊が雪を切り裂く。
「アニエス! 右後ろ!!」
アニエスが反応し、銃を振り向ける。
「了解!!」
ダンッ!
一体の顔面が吹き飛んだ。
(繋がった……!)
次の一体が飛び込む。
(左側から二段目!)
俺は体を半身にして避け、逆の足で氷走隊の顎を蹴り上げた。
ガッ!!
雪煙が舞い、氷走隊が崩れ落ちる。
(“見えて”いる……!
未来が……断片的にだが……!)
アニエスが叫ぶ。
「ユーリ!! あなた今……!」
「分からない……!
だが……見えるんだ!!」
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【イゴール視点】
イゴールは静かに笑った。
「そうだ……それでいい。
私はその“片鱗”を見たかった」
彼は氷の杖を地面に突き立てる。
「だが、まだ甘い」
風向が変わる。
吹雪が一箇所に収束していく。
「ユーリ・コールドウェル――
お前の“未来予測”はまだ未完成だ」
残り二体の氷走隊が、
風に乗って消えた。
(消えた……!?)
イゴールははっきりと告げた。
「本物は――“消える”。」
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【凍土・ユーリ視点】
(しまっ――)
背後で、氷が割れる音。
「ユーリ!! 後ろ!!」
振り向く暇もなく、
冷たい刃が俺の背へ迫る。
(見えない……!
消えた……!?
これが――イゴールの……!)
アニエスが飛び出した。
「だめ!!」
「アニエス!!」
ザシュッ!!
氷の刃が彼女の外套を裂き、
赤い雫が吹雪へ散った。
「っ……!!」
視界が赤く染まる。
(アニエスが……!
俺を……庇った……!?)
胸の奥で、何かが弾けた。
(……許さない……!!)
その瞬間――
風の流れが、世界の線が、すべて“静止”した。
氷走隊の次の跳躍の位置が、
風の屈折点が、
イゴールの立ち位置が――
全部、見えた。
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イゴール「――ほう。
“覚醒”の兆しか。」
ユーリ「イゴール……
これは……終わらせる……!」




