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『凍土補給戦記(フローズン・ロジスティクス)』  作者: 済美 凛


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3/40

『不自然な燃焼率』

翌朝。

 俺――ユーリ・コールドウェルは、夜明け前から前線の稼働報告を確認していた。


 だが、その数値を見た瞬間、思わず眉が動く。


「……これはおかしい」


 暖房車両の燃料消費が、明らかに“少なすぎる”のだ。


 本来なら八時間で半分以上減るはずの燃料が、

 たった三割しか消費されていない。


 副官が首を傾げた。


「省エネ技術でも使ったのでしょうか……?」


「いや、この気温で燃料が減らないなど“有り得ない”

 むしろ――」


 俺は端末を指でなぞる。


「“消費を誤魔化している”と考えるほうが自然だ」


「そ、そんな……!」


 そこへ足音が近づき、扉が開く。


「ユーリ! 来たわよ!」


 アニエス少佐だ。今日も寒風を切って来たらしく、髪に氷の粒がついている。


「どうした?」


「昨日、敵の車両をひと台捕獲したの。

 でね、整備兵が言ったのよ……“燃料タンクの底に変な膜がある”って」


「膜?」


「ええ。“薄すぎる油膜”よ。

 どう見ても普通の燃料じゃない」


 俺は画面とアニエスの報告を照合し、結論を出した。


「……敵は燃料に“何かを混ぜて”いる」


「混ぜる……って、どういうこと?」


「消費を少なく見せかけるためだ。

 つまり、奴らの補給線はすでに限界に近い」


 アニエスの表情が険しくなる。


「じゃあ敵は“余裕がある”ように見せかけてるだけなの?」


「その通りだ。

 だがこれは、まだ“序章”だ」


 俺は地図を広げ、計算結果を指し示す。


「アニエス。

 敵補給線が崩れる地点は……ここだ」


「ここ? 私たちの索敵範囲の端じゃない」


「だからこそ見逃しやすい。

 だが燃焼データの異常はすでに“破綻の前触れ”だ」


 アニエスは歯を食いしばった。


「偵察を飛ばすわ。

 敵の補給が本当に止まるか、確かめる」


「ああ。急げ。

 崩れる時は一気だ」


 アニエスが部隊に指示を飛ばし、偵察班が雪原へ向かった。


 


 ――数時間後。


《報告!

 敵補給車列、エンジン停止多発!

 燃料切れと推定!》


「やっぱり来た……!」


 アニエスが声を上げた。


「完全に当たったわ、ユーリ!」


「誤魔化しは、本物の数字に勝てない」


 だが、報告は続いた。


《ただし……敵が短距離部隊を増援に投入。

 こちらの奇襲隊、押し返されています!》


 アニエスが顔色を変える。


「まずいわ! 敵、すぐに立て直してきたの!?」


「……動きが早すぎる。

 あの状況で即応できるのは、普通ではない」


 俺は端末を握りしめた。


 敵の補給が破綻する地点を読んだのは正しい。

 しかし――


“破綻する瞬間に合わせて、敵が予備戦力を投入していた”


 その事実が、胸に不気味な影を落とす。


「ユーリ……まさか、敵は“あなたの予測”に気づいてる?」


「分からない。だが……」


 喉の奥が冷たくなる。


「これは“偶然”ではない。

 誰かが……俺の計算を逆手に取っている」


「……氷の悪魔、イゴール・ストルコフ?」


「まだ確証はない。だが……これは“敵の本当の戦い方”だ」


 燃料偽装、補給線の誤魔化し、そして破綻を予測した瞬間に仕掛ける反撃。


 ただの兵站戦ではない。


“心理の兵站”が始まった。





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