『侵入の白刃、揺らぐ凹地』
【本部内部・ユーリ視点】
「侵入者一体、本部中央通路へ!!
氷走隊です!!」
警報が赤く瞬き、
通路から凍気が流れ込んできた。
床の雪が“音もなく”溶けずに広がる――
それほど空気が冷たい。
「第二・第三班! 通路を封鎖しろ!!」
「くっ……動きが……速すぎる!!」
銃声が響く。
しかし弾は、氷走隊の身体をかすめるだけ。
(風が乱れすぎて……動きが読めない……!)
氷走隊は風の線を“滑る”。
その線が歪んでいる今、
軌道は誰にも予測できない。
――ガンッ!
装甲扉が一枚吹き飛んだ。
「中佐!! このままでは司令室に!!」
「分かっている……!」
計算では間に合わない。
判断も追いつかない。
(……どうする……?
イゴールは“内部に冷気を流し込む”戦術も組んでいたのか……
これは……本部機能そのものを凍らせる気だ……)
その時、頭に“ある違和感”が刺さった。
(……風の線……
侵入してきた氷走隊の動き……
“ある一点”を避けている……?)
その一点とは――
本部中央の暖房管(大容量ヒートパイプ)。
(そうか……!
氷走隊は低体温ゆえ、極端な熱には弱い……!
だから風の乱れがあっても“暖かい線”を避けて動く!!)
俺は振り返って叫んだ。
「暖房管!
本部中央パイプの温度を――
一時的に最大出力へ!!」
「え!? で、でもそんなことをしたら……!」
「いい! 全部やれ!!
氷走隊の動きが止まる!!」
技術兵が慌ててパネルを操作。
ゴォォォッ!!
本部中央へ、熱風のような空気が走る。
次の瞬間、通路から金属を削るような悲鳴。
「中佐!!
侵入個体の動きが鈍った!!
凍気が……後退していく!!」
「よし――今だ!!
射撃隊、前へ!!」
「撃てッ!!」
ダンッ!! ダダンッ!!
氷走隊の身体が吹き飛び、凍りついた血が雪の上に散った。
(ふぅ……
これで一体は……!)
しかし、その瞬間。
「ち、中佐!! 本部外周から新たな反応!!
氷走隊五体……いえ、六体!!
本部へ向かって“走って”きます!!」
(六体……!?
本部を完全に落としに来た……!)
胸が熱くなる。
(アニエス……!
急げ……!
今の本部は……薄い……!)
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【凹地・アニエス視点】
吹雪が肌を切り裂くように叩きつけ、
視界が白一色になった。
「少佐!! もうすぐ“風の中心”です!!」
「はぁ……っ……分かった……!」
足場は滑り、雪は深い。
防寒服の中に冷気が刺さる。
それでも――進む。
(ユーリが言った“凹地の中心”……
ここを押さえれば、本部に風が逆流しなくなる……!)
しかし。
白い霧の中で、黒い影が立っていた。
風の中心。
その真ん中で。
イゴール・ストルコフ。
「よく来たな、アニエス・ローレンツ」
氷走隊が左右で身構える。
アニエスは息を呑む。
「あなた……
ここが“風の核”であること……最初から分かってて……!」
「もちろんだ。
ユーリの読みは素晴らしい。
だが……“ここに私がいる”という読みだけは、外したな」
(ユーリ……!
あなたの逆算を……奴はさらに逆算してる……!)
兵たちが震える声で言う。
「少佐……! どうします……!」
アニエスは銃を構え、歯を食いしばった。
「退けるわけないでしょう……
ここを押さえなきゃ、本部が落ちる!!」
イゴールは微笑む。
「見事だ。
だが――私の目的は“風の中心”ではない」
「え……?」
「私は“ここで彼女が戦う”状況を、ユーリに知らせたかった」
(ユーリに……知らせた……?)
「本部を救うために、仲間が“凍土で戦っている”。
それを知った時――
ユーリ・コールドウェルは、どう動く?」
アニエスの心臓が跳ねた。
(まさか……!)
イゴールは、氷の中に立つ巨像のように言った。
「――私は、彼を“前線に出す”のが目的だ。」
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【本部・ユーリ視点】
「中佐!!
風向がまた変わりました!!
北東の凹地で……大きな歪みが……!」
(あれは……アニエスの位置……!)
凹地の風が高まり、
本部の外壁に冷気が叩きつけられる。
まるで誰かが
“そこに立って戦っている”ことを知らせるように。
(アニエス……
お前……イゴールの前に……!)
胸の奥が灼けるように熱くなった。
(この距離じゃ救援は間に合わない……
だが……)
俺は風の線を読む。
(もしイゴールが“風の中心”に立っているなら――
逆転の線が、ある……!)
「副官!!
凹地へ照準用の観測を回せ!!
“鉛直下降砲撃”もう一度だ!!」
「なに!?
あんな場所に撃てば……アニエス少佐が巻き込まれます!!」
「違う!!
あの歪みは“敵の位置”を示している!!
中心さえ外せば、凹地全体に衝撃を与えて“風の揺らぎ”が戻る!!」
(アニエスが中心にいない……
“外側に配置”されてる……
イゴールは自分が核に立っている……!)
「撃て!!
敵の“風の核”を砕く!!」
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【凹地・アニエス視点】
イゴールが微笑む。
「さぁ……
ユーリはどう動く……?」
その瞬間。
空気が震えた。
アニエス(……来る……!
これは……ユーリの……!)
「氷走隊、散開!!」
イゴールが叫ぶ。
轟ッ――!!!
上空から凶悪な轟音が落ちてきた。
雪が舞い上がり、凹地全体が揺れる。
「きゃああッ!!」
アニエスは雪に叩きつけられ、
身を丸めて必死に衝撃に耐えた。
そして――
風が止んだ。
あの“歪み”が。
「……消えた……?」
顔を上げると、
凹地の中心に立っていたはずのイゴールの姿が――
煙の向こうに、ゆっくりと立っていた。
傷一つ、負っていない。
「……見事だ、ユーリ。
だが――惜しい」
その目が、アニエスを射抜いた。
「次は……お前だ。」




