『裂ける防壁、迫る影』
【アニエス視点】
「第三防衛線、接触!! 敵が雪面を走ってくる!!」
作戦室で怒号が響く。
本部の天井がきしむほどの振動が走り、
雪が舞い散った。
(ここが……
イゴールが選んだ“本命の突破口”……!)
北東側。
風が渦を巻いて乱れ、
通常ではあり得ない空気の圧力が本部へ押し寄せている。
「風の押し込みが強すぎる!!
防壁が動かされてる!!」
「氷走隊です!! 防壁の隙間を抜けて――!」
外から兵の悲鳴があがった。
「ぎゃあああッ!!」
「負傷者!! 担架!!」
アニエスは反射的に叫んだ。
「ユーリ!!
第三防衛線の風向が崩れてるわ!!
このままだと……氷走隊が本部内部に入る!!」
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【ユーリ視点】
(……早い)
想定していたより、
氷走隊の侵入速度が速すぎる。
風の揺らぎを読めば読むほど、
“点”ではなく“面”が歪んでいるのが分かる。
(歪みが……広がっている……?
まさか……)
副官が駆け込んだ。
「中佐!!
第三防衛線、突破されました!!
氷走隊が本部外周で跳躍を――!」
「第二防衛線はまだ整っていないのか!?」
「間に合いません!!
風が不規則すぎて、射線が合わせられない!!」
(この乱れ方……
誰かが意図的に“風の中心”を動かしている……)
その“中心”がどこかを探る。
端末の風向データは役に立たない。
風が多重反響し、解析不能になっている。
(……なら、逆から読む)
風に押されている雪。
兵の足跡。
音の反響。
三つを重ね――
一点へ収束する線が見えた。
(……あそこだ)
「アニエス!」
「なに!?」
「第三防衛線の裏側……北東の凹地に“風の中心”がある!
そこを押さえれば、防壁が安定する!!」
「私が行く!!」
「駄目だ!
そこは敵の跳躍範囲に――!」
「分かってる!!
けど、あなたじゃ行けない!!
本部を離れたら崩壊する!!」
(……確かに、俺は動けない)
アニエスが動くしかない。
「救助隊から動ける者!
私についてきて!!
まだ戦える者だけでいい!!」
「了解!!」
アニエスが銃を握り、走り出す。
(頼む……!)
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【アニエス視点】
第三防衛線の裏側――
そこは吹雪が槍のように突き刺さる地獄だった。
「ひっ……寒……っ!!」
兵が一人、膝を落とす。
アニエスは歯を噛みしめて叫んだ。
「立て!!
ここを押さえないと……本部が落ちる!!」
「了解!!」
風の中心を目指し、
雪をかき分け進む。
その時。
白い影が横切った。
「伏せろ!!」
ザシュ!!
氷走隊だ。
風の線に乗って滑るように接近してくる。
「少佐! あいつ、速――!」
「分かってる!!
風の“傾き”に逆らうな!!
斜めに下がりながら撃て!!」
氷走隊が一瞬で消え、
次の瞬間には別の位置に現れる。
兵が倒れ、雪に血が散る。
(速い……ッ!!
風の中心が近いせいで……動きが読めない!!)
だが――
アニエスは足を止めなかった。
(ユーリが“ここだ”と言った。
なら、ここが正しい……!)
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【敵側・イゴール視点】
凹地の上から、
イゴールは静かに風を読む。
「……良い。実に良い」
風の中心に自ら立ち、
吹雪の流れを操るように呼吸する。
「ユーリ。
お前はここが“歪みの核”だと気づいたか」
雪煙の向こうで、
アニエスが兵を率いて走っている。
「お前の部下は勇敢だ。
だからこそ――“揺らぎ”に飲まれる」
氷走隊がイゴールの背後に膝をつく。
「将軍、突撃を?」
「まだだ。
揺らぎがもう少し大きくなる。
その瞬間――本部の風壁は完全に壊れる」
イゴールは笑った。
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【ユーリ視点】
作戦室で、俺は風の線を苦しげに追う。
(アニエス……
そこまで行ければ……防衛線は戻せる……!)
しかし――
風の歪みが、突然跳ねた。
「な……っ!?
風が……逆流した!?」
副官が叫ぶ。
「中佐!!
北東の風壁が破れました!!
氷走隊が一体……本部内部へ侵入!!」
“本部内部へ”――
その言葉に、
俺の血が一瞬止まった。
(まずい……
イゴールの“本命”は……ここからだ)
その時、天井を震わせる轟音。
「中佐!
外周南側に巨大反応!
氷走隊の主力……いえ……もっと大きな……!」
「……来たか」
吹雪の奥で、
巨大な影がゆっくりと現れる。
イゴール本隊の突入部隊。
(第三防衛線が裂けた今……
本部は、丸裸だ)




