『本部防衛戦、火蓋』
【アニエス視点】
本部の外壁が砲撃で黒く焦げ、
雪に埋もれた兵たちが必死に補修を続けていた。
「少佐帰還!! 救助隊、全員無事です!!」
入り口へ駆け込むと、
本部の空気は緊張というより“灼熱”に近かった。
「アニエス少佐!! こちらへ!!」
副官が駆け寄り、アニエスを支える。
「ユーリは……?」
「作戦室です! 包囲の解析を――」
言葉が終わる前に、
本部全体を揺らす振動が走った。
ドォン!!
「また砲撃!? 急いで伏せろ!!」
天井の雪がざらざらと落ち、
アニエスは歯を食いしばった。
(間に合ったけど……
この状況……!)
砲撃の“密度”が異常だ。
一発一発が、明らかに本部を狙い澄ましている。
(イゴール……風の流れを完全に掴んでる……!)
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【ユーリ視点】
作戦室に、砲撃の衝撃が伝わってくる。
「中佐! 第一防衛線が半壊!
対砲兵システムの稼働率が下がっています!!」
「第二防衛線に指示を通せ。
“自律散開”だ」
「じ、自律散開!?
あれは訓練でも滅多に使わない……!」
「だからこそ、今使う」
第二防衛線は、
兵が各自散開し風の揺らぎに合わせて射線を変える
――高度な防衛方式だ。
その負担は巨大だが、
風を味方にできれば一気に状況が変わる。
「中佐……!
その判断は賭けです!」
「賭けじゃない」
俺は風の線を見据えた。
「“揺らぎが大きい場所”に敵の砲撃が集まっている。
そこを逆に利用する」
(イゴールは風で砲撃を補正している。
だが補正が強すぎれば、逆に“偏りすぎる”)
その偏り――
それがこちらの“突破口”だ。
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【アニエス視点】
「ユーリ中佐! 救助隊帰還しました!」
作戦室へ入ると、
ユーリが振り返った。
その目は疲れていた。
しかし――以前よりも強い光があった。
「アニエス、無事でよかった」
「あなたこそ……本部がこの状況じゃ……!」
「大丈夫だ。
ここからは“迎撃戦”に切り替える」
副官がざわつく。
「迎撃……?
つまり中佐、自分から戦うということですか……!?」
ユーリは静かに頷いた。
「補給線は守るだけでは意味がない。
“戦いながら補う”のが兵站だ」
(……変わった……!
数字だけを追っていた人が……
こんなことを言うなんて……!)
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【敵側・イゴール視点】
迫撃砲陣の後方で、
イゴールは雪面に膝をついて風を読む。
「……見つけたぞ」
風の線が一本だけ――
本部の北東側で不自然に曲がっていた。
「本部の“死角”……。
そこに兵を集めたな、ユーリ」
氷走隊隊長が問う。
「突撃しますか?」
「いや。
まず“圧”をかける。
本部内部で混乱が起きた瞬間に突入する」
イゴールの目は静かに笑っていた。
「数字を捨てたユーリ・コールドウェル。
新しいお前が、どこまで戦えるか……見てみよう」
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【ユーリ視点】
「中佐!! 敵影、本部北東で急増!!」
「来たな……」
俺は全隊に号令を飛ばした。
「本部北東、第三防衛線――
“防壁展開”!!」
「了解!!」
防壁展開とは、
機動式装甲を吹雪に合わせて配置し、
敵の進行を“風”ごと逸らす技術だ。
そして――
「砲兵隊!!
敵迫撃砲陣へ再照準!!
風の歪みを無視して“真上から撃ち下ろせ”!」
「ま、真上!?
中佐、それでは弾道計算が……!」
「構わない。
イゴールは風で我々を縛る。
なら、風の影響が最も小さい“鉛直下降”で撃つ」
静寂が作戦室に流れた。
「……中佐、あなた……
本当に数字を……捨てたんですね」
「捨てていない。
“数字以外も使う”だけだ」
その瞬間――
外壁で爆発音。
「敵部隊、第三防衛線に接触!!!」
(来た……
本部全体を呑む、総力戦だ)
「全隊――迎撃開始!!」




