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『凍土補給戦記(フローズン・ロジスティクス)』  作者: 済美 凛


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『誤差の抜け道』

【ユーリ視点】


 氷点下六十二度の吹雪が基地全体を震わせていた。


「中佐、零域の熱源反応が弱っています!

 アニエス少佐……危険です!」


「……分かっている」


 俺は震える指で端末を操作した。


(焦るな……誤差に呑まれるな……)


 “風の隙間”は確かに存在する。

 ただし数値は揺らぎ、場所も安定しない。


(この不安定さ……

 だがそれこそが“生きた情報”だ)


「救助隊を五名編成しろ。

 隙間が開き次第、突入だ」


「了解!」


 だがその時――

 端末に新たな警報が走る。


《警告:零域地形、変動中。裂け目拡大の恐れ》


「地形が……動いている?」


 嫌な予感が胸を刺した。


(イゴール……何を仕掛けた?)



---


【アニエス視点】


 零域内部――氷の裂け目の縁。


 アニエスは膝をつきながら、

 眼前の黒い影を睨み上げた。


氷走隊アイスランナー


 三体。

 雪煙の中で野獣のように光る目だけが見える。


(また三方向に散った……!

 どこから来るかわからない……!)


 風を切る音。


「っ!?」


 一体が背後に回り込み、

 アニエスの右腕を氷面へ押しつけた。


「いっ……!! 冷た……!?」


 氷が皮膚に焼きつく。

 いや、焼けているのではない――

 一瞬で凍りついているのだ。


「く……そっ……離れて……!」


 だが、氷走隊は言葉を発しない。

 その代わり、低い呼気だけが聞こえた。


「……ア……ッ……」


(痛覚が……ないんだわ、この連中……

 普通じゃない……!)


「な、何これ……腕が……動かない……!」


 氷走隊の兵が、アニエスの喉元へ手を伸ばした。


 それは“殺す”動きではない。

 **“呼吸を奪って気絶させる”**ための動き。


「やめ……っ!」


 さらに別の一体が、

 アニエスの足を氷上に押しつける。


「う……あっ……

 やめて……そこ……凍る……!!」


 感覚が急速に消えていく――。


(まずい……!

 殺されるんじゃない……

 “捕らえられる”……!)


 その瞬間――


「よく耐えたな、少佐殿」


 吹雪の奥から現れたのは、

 毛皮をまとい、血色の良い頬をした大男。


 氷の悪魔。

 イゴール・ストルコフ。


「やはり前線の兵は強い。

 普通の者なら、氷上拘束で一分も持たん」


「……イゴール……!」


 アニエスは声を振り絞る。


「あんた……私を殺す気……?」


「殺す? とんでもない」


 イゴールは柔らかく笑う。


「お前は“餌”だ。

 北の計算士――ユーリ・コールドウェルを

 この零域へ誘うためのな」


「ふざけんな……!!」


 アニエスは足を引きずりながら立ち上がろうとしたが――

 氷走隊の一体が背中を押さえつけ、

 胸を氷面へ押しつける。


「っ、が……はっ……!」


 呼吸が奪われる。


「氷走隊がやっているのは“殺し”ではない。

 “動きを奪う技術”だ」


 イゴールは淡々と言う。


「冷却拘束、呼吸封殺、氷上固定。

 いずれも“捕獲”に特化した技術だ。

 お前を生かすためのな」


「な、何のために……!」


「簡単だ」


 イゴールの声は優しいほど冷たかった。


「ユーリを前線へ引きずり出すためだ。」


「ユー、リ……を……?」


「そうだ。

 計算士は後方にいるから強い。

 だが前へ出れば――ただの死にやすい人間だ」


 アニエスの胸が凍りつく。


(そんな……

 あんた……ユーリの弱点を……!)


「心配するな」


 イゴールは続けた。


「“お前を助けたい”という心がある限り、

 ユーリは必ず来る。

 あの男の弱点は、計算ではなく――」


 イゴールの目が細められた。


「心だ。」


 


 アニエスは叫んだ。


「来るな……ユーリ……!

 あんたは……来ちゃ……ダメぇ……!」


 叫びは吹雪に飲まれ、消えた。


 


【ユーリ視点】


「中佐!

 零域の地形がさらに変動!

 裂け目が……“閉じたり開いたり”しています!」


「……!」


(地形が……呼吸している?

 いや違う……

 吹雪の圧と氷層の温度差を使った“人工崩落”だ)


 イゴールが零域全体を“罠”に変えている。


「救助隊、前進続けろ!

 いま吹雪が薄い――今しかない!」


《了解ッ!!》


 俺は端末を握りしめた。


(アニエス……生きていろ……!

 必ず……誤差の向こう側で掴み取るから)


 その瞬間――


《新反応! 零域中央に“二つの熱源”!

 一つはアニエス少佐、

 もう一つは……巨大な熱源!!》


「巨大……?」


 嫌というほど理解した。


「……イゴール本人だ」


 吹雪が、まるで笑うように唸った。



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