表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『凍土補給戦記(フローズン・ロジスティクス)』  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/40

『凍土に潜む影』

囮補給車に高速接近する“影”。

 その速度は異常だった。


《追撃対象の速度、時速八十……九十……!

 凍土装備の限界を超えています!》


「そんなバカな……!」

 副官が青ざめる。


 氷点下五十度を超える凍土では、

 人間は長時間動いただけで肺が凍り、

 機械は凍結して作動不能になる。


 その地獄の中を、

 黒い影は“吹雪と並走するように”滑っていた。


 アニエスが息を呑む。


「これ……本当に人間なの……?」


「違う。

 “凍土に最適化された部隊”だ」


 俺――ユーリ・コールドウェルは、

 影の軌道を見つめながら低く言った。


「恐らくイゴールの……

 《氷走隊アイスランナー》」


「氷走隊……

 南方軍が使う、あの“命を削る突撃部隊”!?」


「そうだ。

 寒さで神経が麻痺した兵士を、

 短時間だけ高速稼働させる……狂気の部隊だ」


 アニエスの顔から血の気が引く。


「そんな……

 自分の兵を道具みたいに扱って……」


 外では吹雪が遠吠えのように唸り、

 白い地獄の景色の中で囮車両のライトが揺れている。


 


《衝突まで残り十秒!!》


 通信士が絶叫した。


「回避は!?」

 アニエスが叫ぶ。


「無人車両に回避機能はない!」

 副官が叫び返す。


 囮車のカメラには、

 白い吹雪の奥から迫り来る“黒い影”が映っていた。


 その姿は、

 まるで氷原を跳ぶ獣のようだ。


 


「……イゴールめ。

 囮と悟った瞬間、即排除か」


 俺は息をのみ、囮車からの映像を凝視する。


《衝突――!》


 白い世界が揺れ、

 囮補給車は吹雪の中で横転した。

 鉄が砕ける甲高い音が、しばらく基地に響き渡る。


 しかし――そこで終わりではなかった。


《影、停止しました……!

 囮車両の残骸の前に“立って”います!》


「立って……?」


 アニエスが画面に目を凝らす。


 吹雪の中に、ひとりの兵士が立っていた。

 全身黒の防寒装備。

 呼吸の白煙すら見えない。

 その姿は、人ではなく“影”だった。


 その影は――


“こちらの無人カメラに向かって手を上げた”。


「……っ!」


 司令部の空気が一瞬で凍りついた。


 アニエスが震え声で言う。


「これ……気づいてるわよね……

 私たちがここから見てるって……」


「気づいている」


 俺は、胸が強く締めつけられるのを感じた。


「この距離、この行動……

 これはただの工作員じゃない」


 影はゆっくりと、

 囮車の残骸の側面に“何か”を刻みつけていた。


「中佐! カメラ拡大します!」


 映像が寄る。


 残骸に刻まれた文字が露わになる。



---


《“誤差ゼロの男”へ。

 次は本番だ。》



---


 アニエスが息を止める。


「……ユーリ、これって……」


「ああ」


 俺は、冷え切った喉を無理やり動かした。


「イゴール・ストルコフ本人の“予告状”だ」


 影は吹雪の中で静かに振り返り、

 まるでこちらを“見透かすように”無言で立ち尽くしていた。


 氷点下五十度の風が基地の壁を震わせる。


 その震えは、

 まるで凍土そのものが“戦いの始まり”を告げているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ