ep.8 俺は魔界の王だが、愛する女と魔界の空を見上げればそれでいいのかもしれない
魔界南部に位置する国・ジンブク王国。
魔界三王の1人である男が王としてこの国を治めている。
ジンブクは太古よりインソカ族という蛇神を始祖とする民族により構成される単一民族国家であった。
蛇神を始祖とする神話を持つインソカ族ではあるが、彼らは蛇ではなく赤い肌を持つ人型妖怪であり、彼らは王を頂点に封建的な政治制度を確立していた。
ジンブク王国の首都リガキにあるリガキ城・王の間。
そこには1人の男がワイングラスを片手に玉座に座りワインを見つめていた。
この男こそジンブク王国の王であるルプガンである。
見た目は30代半ばくらいであり、赤い肌に筋骨隆々の長身。
そして民族衣装である黄色い布を肌着の上に斜めがけに着込んでいる。
その黄色い布は金糸で蛇の鱗のような刺繍が施されていた。
彼が座る玉座の隣にはもう一脚椅子が用意され、1人の女性が座っている。
インソカ族特有の赤い肌を持ち、整った顔立ちを持つ見た目は30歳ほどの女性であった。
その女性は何も言葉を発さずルプガンを見つめている。
ルプガンは側に控えている高官に問う。
「最近、あの小娘……リュリアがイングルーを倒してホンバオを攻略したそうだな。」
高官は答える。
「さようでございます。リュリアは移動要塞にて魔界中を移動します。故に越境費用を支払わなければならないホンバオは邪魔だったのでしょうな」
ルプガンは真紅のワインを眺めながらつぶやく。
「あの国は老人王の親である魔神セアラが魔界を統一していた時代からの既得権益で越境費用を請求していた。
セアラの末裔であるイングルーが支配するホンバオを攻めるということは、セアラの息子である老人王が出てきてもおかしくはない。イングルーと老人王は遠戚の関係だったからな。
それが起こらなかったところを見るに、リュリアとの間で何らかの手打ちがなされたと見るべきか」
老人王とは魔界三王の一角を占める王のことであり、老人王・リュリア・ルプガンの三王を持って魔界では魔界三王と呼ばれている。
ルプガンは改めて高官に問う。
「老人王に対するあの小娘の見返りはなんだと思う?
金か?しかし、それはないな。経済的にも老人王の国が三王の中で最も優れている。
女か?それもないな。あの齢で色を持つとは到底思えぬ。」
高官は恐る恐る答えた。
「おそらく強者かと。」
これはルプガンが予想をしていない返答であった。
高官は続ける。
「恐れながらーーいまだにあの老人王はルプガン様とリュリアを抑え、最強の妖力を誇っております。
それゆえに、『老後』を過ごすにはまだ物足りないと考えているのでしょう。」
「強者、か……。われらにもっと強くなれということか。」
ルプガンはワインを一口だけ飲むと隣に座っている女性に声をかけた。
「トザムレミ、少し夜風にあたるぞ。」
そのように伝えるとルプガンはワイングラスを持ったまま玉座を立つ。
トザムレミは何も言わずに『3歩下がって』ルプガンについて行きともにバルコニーに出る。
トザムレミはルプガンの北の方ではない。
しかし彼は、軍議や外交の場などに――戦場を除き――正妻を差し置いてトザムレミを常に傍に座らせ、エスコートする。
二人きりのバルコニーにて、トザムレミはルプガンの逞しい左肩に頭を預ける。
ルプガンはトザムレミに話しかけた。
「俺は、あの老人と小娘に後れを取っているだろうか?」
すると、トザムレミは両手でルプガンの左手を掴みながら答えた。
「陛下は見目麗しく、逞しく、聡明なお方。決して後れなどとっておりません。」
ルプガンは右手に持っているワイングラスを口に運び、残るワインを一気に飲み干した。
「俺はあの二人に負けるつもりなどない。」
この一言だけ呟くと、ルプガンはトザムレミの赤い唇にキスをした。
トザムレミは静かに微笑む。
「陛下、今夜はだいぶ冷えてきました。寝室に向かいましょう。」
ルプガンはそのトザムレミの言葉を合図にバルコニーを後にする。
トザムレミは『三歩下がって』ルプガンの後を歩いてついていくのであった。




