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ep.6 私は魔界の女王ですので、暗殺未遂の一つや二つ珍しくありません

交易都市ホンバオ

アスセリが迷い込んだ魔界の都市である。


都市の門は開かれ、見張りの姿もない。人々……いや妖怪たちは自由に出入りしていた。

そんな中でアスセリは人間である自分は目立ってしまうのではないかと言う一抹の不安を抱えていたが、その心配は杞憂であった。


確かに、オークやゴブリン、エルフや鬼、二本足で立つ魚のような生き物、翼を生やし空中を飛んでいる者など様々な妖怪がいるようだが、その中には見た目は人間そっくりな者もいた。


「……あれも妖怪?なの?」


場所が交易都市ホンバオと言うことが彼女にとって幸いした。

ホンバオは交易都市であるため、様々な種族の妖怪が行き交い、暮らしている。


これが単一民族の国―たとえば魔界三王のひとりルプガンが支配するジンブク国のような―であれば、彼女はすぐに襲われただろう。

もっとも、人間でなくても異種族の妖怪であっても話は同じだが。


街に入ると、まるで市場のように野菜や肉、魚に果物、そして香辛料までが売買されていた。

見たこともない食材もあったが、トマトやトウモロコシやトウガラシなどの人間界でもメジャーな食材が所狭しと売られている。

ただ違うのは、商人も客も人間ではなく妖怪ということだけだ。


街を少しさまよっていると、とある看板が目に入った。

その看板を見ると、なんと人間界と同じ文字であった。

しかし明らかな古文の文章であり、内容は分かるようで分からない。


アスセリはじっと看板を見ていたが、そのうちに青い肌を持ち、2本の角をはやした鬼の妖怪が話しかけてきた。


「ねーちゃん、人間みたいな匂いがするな。どこの出身だ?」


アスセリは冷や汗が止まらず、言葉に窮した。


「まぁ、言いたくないならいいさ。このホンバオは様々なルーツをもつものたちの坩堝だからな。

人間だって珍しいだけで、魔界にいないわけじゃないからな」


その言葉にアスセリは衝撃を受けた。

「いるの!?人間が?」

「やっぱり人間か。人間が人間のことで驚くのか?」

青色の鬼妖怪は不思議そうな顔をした。


じろじろと周りの妖怪がアスセリと青色の鬼妖怪を見てくる。


アスセリは声を潜めて鬼妖怪に質問をした。

「これはなんて書いているの?」


「最近、この国の王様が変わってな。今はリュリアっていう女妖怪なんだが、その女王様が馬に乗って俺たち一般妖怪にパレードするんだとさ。あと、1時間後だな。」


青色の鬼妖怪は「じゃあな」と言い残し、立ち去っていった。


―妖怪は皆等しく極悪非道であり駆逐しなければならない対象―


しかし今の妖怪はアスセリを人間と見抜いたうえで実にフレンドリーに話しかけてきた。


(そんな、妖怪が人間みたいに振る舞うなんて……)

動揺するアスセリ。

しかし周りをよく見てみると、いろいろな種族の妖怪の子どもたちがいたるところで集まって走り回って遊んだりしている。


思わずアスセリは廃寺院で文字を教えている子供たちを思い返した。

(あの子たちと何が違うの?)


―1時間後―

リュリアは黒いドレスを着て黒馬にまたがりホンバオの大通りを闊歩した。

『リュリア様!リュリア様!』

町中に新君主であるリュリアを称える声がこだまする。


アスセリは一般妖怪に混じりリュリアを見た。

(あれが魔界の女王……リュリア……見た目は人間と変わらない。まるで私と同じ20代前半の女みたい。)


そんな感想をアスセリは抱いた。


だが次の瞬間、アスセリは心の幼いころから抱いてきた妖怪に対する復讐心が劫火のごとく燃え盛る。


―妖怪は一匹でも多く殺す。たとえ死ぬことになっても―


その思いがアスセリの中で暴走し、とっさにアスセリはリュリアの前に躍り出て爆裂呪文を詠唱した。


エクラル(中級爆裂呪文)!」


呪文の発動とともに、リュリアに炸裂した――かに思えた。


しかしリュリアは呪文の発動を瞬時に察知し、エクラルに向けカッ!と目を見開き妖気の塊をぶつける。


ドガン!


激しい爆発音が街をこだまする。


エクラルはリュリアに届く前に爆裂し、彼女には届かなかった。

「今すぐに捕らえろ!」


軍師パライが妖怪兵に命令をすると同時に、すぐに妖怪兵にアスセリは羽交い締めにされ、地面に押し倒された。


「陛下、今すぐこの女を処刑しましょう!」

パライはリュリアにそう奏上した。


しかし、何も言わずにリュリアは馬から下乗した。

黒いロングストレートの髪と、ドレスの裾がふわりと美しく舞う。

黒いヒールでカツン、カツンと石畳を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

そのリュリアの顔を地面に押さえつけられながら睨みつけるアスセリ。


リュリアはアスセリの魔力から瞬時に人間と見抜いた。


「貴女、人間ね。人間風情が私を殺そうだなんていい度胸してるじゃない。」


アスセリは、さらに睨みつけるが恐怖が勝り声が出ない。


「ふふふ。なぜ私を殺そうとしたのかしら。教えてくれない?」

リュリアは右手でアスセリの頬を撫でた。

妖艶な笑みを浮かべるリュリアの言葉からは殺意は感じられない。

だがアスセリは感じ取った。


自分とは比較にならないほど絶対的な力の差に。

―生かされるも殺されるも、すべてはこの妖怪の女王の気分次第―

そのことを認識したとたん、アスセリは叫んだ。


「やだ!誰か助けてぇぇ!」


しかし周りは妖怪しかおらず、誰も味方は居ない。

リュリアは何も言わず、黒いマニキュアを施した人差し指をアスセリの額に当て眠りの魔法をかけた。

その瞬間、アスセリの瞼は閉じ、深い闇へと堕ちていったのであった。

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