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ep.3 私は魔界の女王ですので、魔界東部屈指の剣士と遊んでみました

魔界中央部に位置する経済都市国家『ホンバオ』


このホンバオはリュリア軍による侵攻を受け陥落寸前であったが、たった一人の剣士による奮闘によってギリギリのところでリュリア軍の侵攻を抑え込んでいた。

その剣士の名は『ランヤオ』。


身長は180cmをわずかに超える男ではあるが、彼は非常にバランスが取れた端正な筋肉質な体つきをしており、


その鍛え上げられた右腕で刃渡り100cmほどの細長い長剣を握りしめていた。


ランヤオは空中から剣をふるうと、剣圧がそのまま地上に展開するリュリア軍の槍兵や魔術師を薙ぎ払っていく。

そして空中では直接剣や槍を持ち襲い掛かってっ来る飛行可能なリュリア軍兵士を次々と切り捨てていく。

まるで一方的な戦い。

たった一人の剣士に対して数百人単位の一個師団を持ってもまるで子供と大人の戦いである。


しかし――

ランヤオには味方がほぼいなかった。

ホンバオ正規兵はリュリア軍侵攻当初からランヤオがホンバオ王イングルーにスカウトされるまでの間に

壊滅状態に追いやられた。

生き延びた正規兵は臆病風に吹かれすでに城内に隠れて姿を現さない。


(味方が少なすぎる。もはや体力が持たない!)

ぜぇ、ぜぇ、と彼の呼吸は荒い。


ランヤオはほぼひと月の間、満足な休みも与えられず前線にてリュリア軍と戦っていた。

多勢に無勢、確実にランヤオの体力は削られ、彼自身の体も内側から悲鳴を上げていた。


―無念だ…―


そう思いつつも、彼はある目的のため命を削りながら長剣をふるう。


そのとき不意に、空中を飛ぶランヤオよりはるか上空から、女性の声が降りかかってきた。


「ごきげんよう。ランヤオ」


見上げた先には、黒いロングドレスを身にまとい、赤いマントをはためかせる一人の女と、茶褐色の皮鎧を着こんだ男が浮かんでいた。


この女が現れた瞬間、リュリア軍の兵士は女とランヤオを円の中心に見立てたかのように後退していく。

女と男はランヤオが浮かぶ高さまで高度を下ろしながら空中に浮揚した。


ランヤオは叫んだ。

「お前は……リュリアか!」

すると男が叫ぶ。

「女王陛下に向かって『お前』とは何事か!」


しかし、リュリアは妖艶な笑みを浮かべて隣に浮かぶ男―軍師パライ―に向けて言葉をかけた。

「ねぇ、パライ、落ち着いて。今は敵同士。お前呼ばわりされるのも仕方ないじゃない」


そしてリュリアはランヤオに声をかけた。

「あきらめなさい。もう勝負はついたわ。大体あなたはお金でスカウトされた身。あの豚に忠義など持っていないでしょう?」

「個人的な『事情』があるんでね。ここでお前を殺して『事情』を終わらすのみだ。」


「『事情』?話しなさいよ。

私はあなたを『お気に入り』のひとりとしてスカウトしに来たのよ。嬉しいでしょう?」


ランヤオは無言で長剣を中段に構えた。

しかし、リュリアは「フフフ」と口角を広げ、地上にいた魔術治療師に命令を下した。

「彼に回復呪文をかけて体力を全回復させなさい」

その言葉に魔術治療師は躊躇したが、パライが空中から「陛下のお言葉が聞こえなかったか!」と一喝したため、魔術治療師は高等回復呪文をランヤオに向け詠唱した。


「……何のつもりだ?」


「貴方、体力をだいぶ使っているでしょう?

お忘れかしら?こうみえて、私は魔界三王の一人よ。そんな体力を削った状態で勝てると思う?私はあなたの実力が見たいの。

……全力でかかってきなさい。」


そういうなり、リュリアは右手を天にかざす。すると黒い霧が現れ、徐々に霧は剣の形に姿を変えていく。

漆黒の小太刀(ラム・イマキュレ)、私の愛用の剣よ。」


リュリアは小太刀を鞘から抜き、鞘と身に着けていたマントをパライに手渡した。


挿絵(By みてみん)


刃渡りは45cm。そして見た目の特徴は刀身が辺りの光を吸収するかのような黒色であった。

ランヤオはリュリアに向け言い放った。

「そのような小ぶりな剣で私と戦うと…?愚弄しているのか?」

「愚弄なんかしていないわ?大真面目よ。私のような161cmの体にあなたがもっている長剣なんて、むいていないだけ。

このラム・イマキュレはスピード特化の武器よ。剣士のあなたなら小太刀の特性を知らないなんて言わせない。」


「……行くぞ」

その言葉とともに、ランヤオは一気に間合いを詰め、長剣をリュリアに向け左から薙ぎ払う。

キィン!と鋭利な金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

ランヤオの長剣を小太刀でいとも簡単に受け止めるリュリア。


(な?このか細い腕で全力の袈裟切りを受け止めた…だと?)

「ふふふ。私の愛刀であるラム・イマキュレは決して折れることはないし、ましてや刃こぼれをすることもないし、敵の血で錆びることもない。

ただそれだけの特徴しかない剣よ。もっと打ち込んでみなさい。」


「チッ!」

ランヤオは上弾から、斜め上段から、横なぎ、突きなど様々な剣技を繰り出す。

しかしすべての攻撃をリュリアは小太刀で受け流す。


リュリアはランヤオの小太刀を受け流しつつ、ランヤオの懐に入り小太刀を横なぎにふるってくる。

ランヤオはリュリアの攻撃をすべて長剣で受け止める。

(この細い腕と小太刀から繰り出される剣の威力ではない!)

ランヤオは小太刀を握るリュリアの右腕を狙うと見せかけ、左腕を切り落とすべく長剣をふるった。

―だが―

「さすが魔界東部随一の剣士さんね。フェイントを仕掛けるなんて予想してなかった。」

なんと、リュリアはランヤオの長剣の刃を左手で握っていた。

しかも、リュリアの左拳からは血の一滴も流れていない。


リュリアは剣を離し、左手の人差し指をくいくい、と動かした。

「まだまだ、貴方の実力を見せて頂戴。遊び足りないわ。」


ランヤオは苦渋の顔を浮かべ、リュリアから距離をとり、剣を振った。

剣圧による遠距離攻撃だ。

しかし、その瞬間リュリアは両眼を見開き、妖気の塊を剣圧にぶつけることでその攻撃を無効化した。


「遠距離攻撃は本来のあなたの得意技ではないはず。私には効かないわ。逆に……」

そういい、リュリアは小太刀を握っていない左手の手のひらをランヤオに向け、その手のひらから閃光を繰り出した。

妖気弾である。


その妖気弾に向けランヤオは長剣をふるう。

なんとか初撃の妖気弾を迎撃したランヤオであったが、妖気弾の衝撃を受け止めきれず背後に吹き飛ばされてしまう。

(ぐッ!この妖気弾、魔術師の攻撃魔法とは質が違う!)


リュリアは妖気弾を連続してランヤオに放つ。

長剣で迎撃できないと判断したランヤオは空中を飛びながら妖気弾をかわす。

(このままでは遠距離からの一方的な攻撃だ!間合いを詰めてリュリアを斬らねば!しかし、どこにいる?)


妖気弾を放出していた場所からリュリアは消えていた。

その瞬間――

「……私は、ここよ」とリュリアの声がした。

そう、リュリアはランヤオが妖気弾から逃げまどっている最中に間合いに入り込まれていた。


「しまったッ!」

ランヤオが長剣をリュリアへ振り下ろすが、リュリアはその剣の切っ先を小太刀で切断した。

「な!」

宙を舞うランヤオの長剣の切っ先。

その刹那。

リュリアの白くか細い左腕から繰り出される拳が、ドン!と言う音を立て、ランヤオが着こんでいた鎧を突き抜け、腹を直撃した。


「がっ、はぁっ!」

ランヤオは苦悶の顔を浮かべ、そして手から長剣が離れる。

ランヤオは剣と共に地上に落下した。


そして地面に落ちたランヤオは城門前の石畳の上で両手で腹を抱えてうずくまる。


リュリアは小太刀をランヤオの首筋に添えた。

そして、まるでオークション会場で出展品を物色するようにランヤオの顔を覗き込む。

「もう終わりね。貴方の命運は私の掌の中。降伏して私の『お気に入り』になりなさい。」


しかし、ランヤオは腹を抱えうずくまったまま、まるで独り言のようにつぶやいた。

「シャー…シュエ、が、はぁ、あぁ、シャーシュエ、、お前のために、私は、、負けるわけには…」


その言葉を聞いた瞬間、リュリアは首に当てた小太刀を通して強烈な妖気をランヤオの体に流し込んだ。

「ぐあ!」との声を漏らしランヤオは気を失う。


リュリアは周りの兵士たちに声をかけた。

「彼をプリイの医務室に連れて行きなさい。」

気を失ったランヤオをリュリア兵たちが抱きかかえる。

空中からリュリアのそばにそばに降り立ったパライに、リュリアは声をかけた。


「パライ、ランヤオの身辺調査をして。彼が最後につぶやいた『シャーシュエ』……

おそらく、彼の家族か恋人の名だと思うの」


パライは一言、「御意」と述べる。


リュリアはパライから小太刀の鞘と赤いマントを受け取る。

そしてマントを風になびかせながら、戦場を後にプリイに戻ったのであった。

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