第18話 漂う痕跡
辺りは一面の闇。
そこには、光の粒だけが漂っている。
かつて、刑によって砕かれた”魂の欠片“。
霧のように虚空を漂い。
ただ其処に“在る”という事実だけが広がる。
那由多に続く──
気も狂わんばかりの時が流れていく。
だが、いつの頃からだろうか?
“理”の中に、微かな揺らぎが生まれるようになった。
それは、理が取り込んだ一つの“矛盾”。
“矛盾”は感情という温もりを帯び──
理の冷たく完璧な流れに、微細な歪みを刻む。
揺らぎの中で粒子は少しずつ寄り集まり。
やがて、ひとつの輪郭を成す。
すると、流れがある方向へ急激に収束し始める。
理が”再生“という名の軌道を描き始め──
新たな魂として、胎動の中へと落ちていく。
淡い光の中で、鼓動が響く。
“生”という名の律動。
まだ何も知らぬその存在が、暖かいという感覚を受け取る。
その瞬間──
視界が開けた。
眩い光と音。
そして、柔らかな泣き声。
新しい命が、最初の呼吸をする。
その命には“ルーカス”という名や、記憶は既に失われている。
だが、その瞳に宿る一瞬の光だけは、どこか遠い世界の空を映していた。
風が窓を抜けていく。
かつて触れた温もりの残響は──
静かに世界を渡っていった。




