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第七章:ネットで話題の和尚、居酒屋大冒険

翌日、佐藤家の居酒屋――。

覚空の「武道祭での戦い」はあっという間に学校中に広まり、生徒たちの間で話題沸騰となっただけでなく、校外のソーシャルネットワークでも大きな反響を呼んでいた。生徒が投稿した擂台戦の動画は地元のトレンドランキングに浮上し、そのタイトルはこうだった:


「少林の僧侶 VS 柔道チャンピオン、見事な四両撥千斤!」


動画はたった1日で再生回数10万回を突破し、次々とコメントが寄せられた。


「この僧侶すごい!やっぱり少林寺の拳法は本物だ!」

「指2本で相手を倒すなんて、まるで実写版カンフー映画だ!」

「このネット僧侶に会いたい!どこにいるの?」

一方、居酒屋の電話は鳴りっぱなしだった。


「はい、佐藤居酒屋です。少林寺の強い僧侶がいると聞いたのですが?」

「覚空さんという方がいらっしゃると聞きました。一緒に写真を撮ってもらえますか?」

「覚空さんに少林拳を教えてもらうことはできますか?」


電話を受けながら、佐藤美恵子はまな板を叩きながら怒りをぶつけた。「覚空さん?あの坊主、一体何をやらかしたの!?」

隣にいた凛は大笑いしながら、「お母さん、前に『最近お客さんが少ない』って嘆いてたでしょ?これで解決じゃん!店が大繁盛するよ!」とからかった。


美恵子はため息をつきながら、「でも、あの人たちは本当に食事をしに来るのか、それとも厄介ごとを持ち込むつもりなのか……」とつぶやいた。


覚空、スターになる


夕方、佐藤家の居酒屋の前には長蛇の列ができていた。お客たちの目当ては、美恵子の美味しい料理だけでなく、例の「ネットで話題の僧侶」に会うことだった。


覚空は厨房で洗いざらしの白くなった僧衣を着たまま、平然と味噌汁をかき混ぜていた。いつも通り黙々と仕事をこなそうとしたが、店の外から聞こえる騒がしい声に気づいて、顔を上げて外を一瞥した。


「覚空さん!ちょっと見てよ、外はあなたのファンでいっぱいだよ!」凛が笑いながら厨房に入ってきて、覚空を前の席に押し出した。


前の席に出てきた覚空を見た瞬間、お客たちは歓声を上げた。


「うわ!本当に覚空さんだ!」

「動画よりもさらに雰囲気がある!」

「覚空さん、写真撮ってもらえますか!?」


覚空は両手を合わせて、「阿弥陀仏。皆さん、ようこそいらっしゃいました。貧僧はただの凡人にすぎません。このような待遇を受ける身分ではございません。」と穏やかに答えた。


「声も落ち着いてて素敵だ!」

「まさに高僧の風格だ!」


凛は後ろで吹き出しそうになりながら、「ほらね、坊主。あんた、もうすっかりスターだよ。」と茶化した。




みんなが写真やサインを求める中、居酒屋の入り口から突然冷たい声が響いた。「ふん……噂の少林寺の僧侶なんて、所詮こんなものか。」


振り返った人々の視線の先には、大柄な男が立っていた。彼は黒い道着に身を包み、腰には空手の黒帯を巻いており、覚空を見下すような鋭い目つきをしていた。


「俺は松田一郎、全国空手選手権の準優勝者だ。」松田は腕を組み、軽蔑したような笑みを浮かべた。「少林寺の高僧だって?俺が本当に強いかどうか、試してやるよ。」


店内は一瞬で静まり返り、全員が覚空に注目した。


凛は眉をひそめ、「おい、ここは居酒屋だよ。道場じゃないんだから、喧嘩するなら外でやって!」と怒鳴った。


しかし、松田は冷笑しながら、「俺はこいつを挑みに来たんだ。本当に少林の高僧なら、俺の挑戦を受けないわけにはいかないだろう?」と返した。


覚空は松田をじっと見つめ、穏やかな声で言った。「施主、もし武道の真理を求めるなら、貧僧がお相手いたします。しかし、ここは食事の場。争いで他の方々に迷惑をかけるのはよくありません。」


松田は一瞬戸惑ったが、すぐに店の外の空き地を指差して言った。「じゃあ、外で決着をつけよう。」




居酒屋の外に広がる空き地には、たちまち観客が集まった。スマホを手に取り、この「中日武道対決」を撮影しようとする人が続出した。


松田は空き地の中央で空手の構えをとり、「さあ、見せてみろ。少林功夫の力を!」と挑発した。


覚空はその場で合掌し、静かに「阿弥陀仏。手加減を心がけます。」とだけ言った。


松田は低く気合を入れると、鋭い直拳を覚空に向かって繰り出した。その拳風は勢いがあり、力強かったが、覚空は軽く身をひねるだけでそれを避け、松田の拳にそっと手を添えるだけで力をそらした。


「なっ……!」松田は驚愕し、次の瞬間、下段蹴りを放った。しかし、覚空は再び軽々とかわし、その反動を利用して軽く松田の膝に触れるだけで、彼のバランスを崩した。


松田はよろけながらも体勢を立て直し、全力で再び攻撃を仕掛けた。拳と脚を同時に繰り出す連続技を放つが、覚空はそれを一つ一つ、流水のようにかわし続けた。


観客たちは騒然となった。

「反応速度が異次元だ!」

「まるで松田を遊んでいるみたい!」

「少林寺、やっぱりすげえ……!」


数ラウンドの攻防の末、松田は息を切らしながら攻撃の手を止めた。額からは汗が滴り落ち、一方の覚空は息一つ乱すことなく、静かに立っていた。


「お前……なぜ反撃しない?」松田は息を切らしながら問い詰めた。


覚空は静かに微笑み、「武道とは、勝ち負けを争うものではなく、心を磨く道です。施主、勝敗に囚われていては、本当の道を見失ってしまいます。」と答えた。


松田はしばらく沈黙した後、拳をゆっくりとほどき、頭を下げた。「負けたよ。俺はお前には敵わない。」


覚空は合掌し、「阿弥陀仏。施主の中にある執念を解き放つことができれば、それが何よりの勝利です。」と語った。


居酒屋の夜


その日の夜、居酒屋は過去最高の売上を記録した。美恵子は売上を数えながら、「あの坊主、本当に金を呼び込む福の神ね!もう常駐させようかしら!」と笑った。


凛はニヤニヤしながら、「お母さん、それはいいけど、もっと大勢の客が押し寄せたらどうする?」とからかった。


覚空は静かに合掌し、「阿弥陀仏。貧僧は少しでもお役に立てるなら、それで十分でございます。」とだけ答えた。


次回予告:「覚空の少林武道講座」、学生たちが次々と弟子入りを志願!?覚空はこの新たな試練を乗り越えられるのか――?

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