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剣道部の挑戦と和尚の「奇技」

**佐藤家の庭の外**


「佐藤凛!出てこい!」


凛は眉をひそめ、庭の門のところに立ちながら、外にいる剣道着を着た学生たちを見た。先頭に立っているのは剣道部の部長、高橋竜一だった。彼は竹刀を手にし、自信満々の笑みを浮かべている。その後ろには剣道部の部員たちが数人並んでいた。


「高橋、何しに来たの?休みの日くらい、あんたの顔なんて見たくないんだけど。」凛は腕を組んで門の柱に寄りかかり、不機嫌そうな声を出した。


「最近、剣道部の練習に顔を出さないって聞いたから、サボってるんじゃないかと思って様子を見に来たんだよ。」高橋は顎を上げ、挑発的な目つきを向ける。「それとも……試合を諦めるつもりか?」


「諦める?」凛は冷笑を浮かべた。「試合は絶対に諦めないわ。ただ、ちょっと他にやることがあってね。」


「他にやること?」高橋は彼女の背後にある庭をちらっと見て、突然、庭で掃除している覚空を指さした。「ああ、なるほどな。家に変な奴でも拾ってきて遊んでるのか?」


覚空は自分のことを言われたのに気づき、ほうきを手にしたまま動きを止め、高橋とその仲間たちを静かに見つめた。


「その坊主、一体何者だよ?」高橋は眉をひそめた。「新しく雇った清掃員か?」


「清掃員だと!?馬鹿言ってんじゃないわよ!」凛は目を吊り上げて怒る。「彼は覚空、少林寺の僧侶なの!」


「少林寺の僧侶?」高橋は一瞬呆けた表情を見せたが、すぐに笑い出した。「何の冗談だよ?まるで武侠小説みたいだな。少林寺の僧侶が東京に来て掃除なんかするかよ!」


「高橋、あんた、あんまり適当なこと言わないでよ。」凛は歯を食いしばり、手を竹刀の柄に置いた。


「へっ、俺はただ事実を言ってるだけだ。」高橋は竹刀を軽く振って、「でもさ、どうせ僧侶なら武術くらいできるんだろ?だったら、俺たちと勝負してみないか?」


「勝負?」凛は目を丸くした。「あんた、正気?彼は少林寺の高僧よ。あんたみたいなの、指一本で倒せるっての。」


高橋はその言葉を聞くと、顔色が変わった。「何?俺がその掃除坊主に劣るっていうのか?」


「別にそうは言ってないけど、どうしてもやりたいなら試してみれば?」凛は肩をすくめて、気にしていない様子を見せた。


覚空は微笑み、前に進み出ると、手を合わせて言った。「施主よ、争いは武の本質ではありません。しかし、あなたがどうしても執着するのなら、僧が少々お相手しましょう。」


「お相手?」高橋は冷笑を浮かべた。「お前みたいなボロ布着た変な奴がか?」


覚空は怒ることなく、穏やかな声で言った。「施主、あなたの武器の道は何ですか?」


「もちろん剣道だ!」高橋は誇らしげに答えた。「剣道は武士の魂であり、至高の芸術だ!」


覚空はうなずき、そばのほうきから竹の枝を一本折り取ると、それを軽く振り、空を切る音を鳴らした。


「剣道と言うなら、この枝を剣として、あなたに指導を。」覚空は静かに言った。


その場は一瞬、静まり返った。


「ハハハハハ!」高橋は大笑いし始めた。「竹の枝で俺と勝負するつもりか?バカげてる!」


「高橋、あんた、彼を甘く見ないほうがいいわよ。」凛が横から注意した。「さもないと、ひどい目に遭うことになるから。」


「へっ、口だけなら誰にでも言える。」高橋は剣道の構えを取りながら言った。「いいだろう。見せてもらおうじゃないか、『高僧の剣術』とやらを!」


---


**第一ラウンド:竹刀 vs 竹の枝**


高橋は地面を強く蹴り、虎のように覚空へ突進した。竹刀をまっすぐ相手の胸に向けるその動きは、鋭く、訓練のたまものといえた。


しかし、覚空はその場から動かず、防御の構えすら取らなかった。


「何してるんだ?まさか、そのまま打たれるつもり?」高橋の仲間たちが小声でささやいた。


「高橋のこの一撃は本気だぞ。普通の人間なら絶対に防げない!」別の部員がそう付け加えた。


ところが、竹刀が覚空に届く瞬間、覚空は手にした竹の枝を軽く前に振っただけだった。


「パシッ!」


高橋の竹刀は竹枝に弾かれ、彼自身もバランスを崩して前につんのめり、転びそうになった。


「な、なんだと?!」高橋はなんとか体勢を整え、振り返って覚空を睨んだ。「今のは……どんな技だ?」


覚空は穏やかに微笑んだ。「施主の剣は速いが、心に雑念が多く、隙だらけです。」


「隙だらけだと?ふざけるな!」高橋は歯を食いしばり、再び構えた。「さっきは俺が油断しただけだ。今度は違う!」


**第一ラウンド:竹刀 vs 竹の枝(続き)**


高橋は深く息を吸い込み、今回は慎重に覚空を囲むように動き始めた。足取りは軽快で、竹刀をいつでも振り下ろせる体勢だ。彼は焦らず、攻撃の隙を狙っていた。


一方で、覚空は依然としてその場に立ったまま、まるで周囲の状況に無関心かのようだった。


「これで終わりだ!」高橋が突如加速し、横から一閃、竹刀で覚空の腰を狙った。


しかし覚空はわずかに体を傾けただけで、竹の枝をさっと振り、竹刀の側面を正確に弾いた。


「ガンッ!」


再び竹刀は大きく跳ね返され、高橋はその反動でバランスを崩し、ついには地面に倒れ込んだ。竹刀は手元を離れ、庭の片隅に転がった。


「嘘だろ……!」高橋の仲間たちは呆然としてその光景を見つめていた。


「部長が負けた……?」一人が声を絞り出すように言った。


「坊主、すごいじゃん……」別の部員がつぶやいた。


---


**第二ラウンド:覚空の「仏門剣術」**


高橋は地面に倒れたまま、震える手で竹刀を拾い上げた。彼の顔は怒りと屈辱で赤く染まっていた。


「ふざけるな!」高橋は叫びながら立ち上がり、覚空を鋭く睨んだ。「まだ終わってない!本気でやるぞ!」


覚空は竹の枝を静かに下ろし、手を合わせて言った。「施主、既に勝敗は明らかです。これ以上の争いに意味はありません。」


「黙れ!」高橋は再び構えを取り、鋭い目で覚空を見据えた。「今度こそ、本物の剣道を見せてやる!」


高橋は再び覚空に向かって突進した。今度はより鋭く、竹刀が激しく振られる。その攻撃はまさに疾風怒濤のごとき勢いで、覚空を包み込むように襲い掛かった。


だが、覚空の動きは依然として簡潔で、無駄がなかった。彼は竹の枝を静かに動かしながら、高橋の攻撃を一撃一撃と受け流し、ことごとく無効化した。


「なんだこの坊主は……!全然崩れない!」高橋は心の中で焦りを覚え始めていた。攻撃がことごとく外れるたびに、次第に彼の呼吸が荒くなり、動きにも乱れが見え始めた。


そしてついに、覚空は一歩前に出た。竹の枝がふわりと振られ、高橋の竹刀を押し返す。


「ガシャッ!」


竹刀は再び地面に落ち、高橋はよろめきながら後退し、その場に膝をついた。


---


**戦いの終わり:悟りへの一歩**


覚空は竹の枝をゆっくりと下ろし、手を合わせて言った。「施主、剣の道は力ではなく心の道。あなたの剣は速いが、心が乱れていては真の力を発揮することはできません。」


高橋は膝をついたまま、拳を握りしめて地面を見つめた。怒りの色が消え、代わりに迷いや戸惑いがその表情に現れていた。


「心が……乱れている……?」彼は小さな声でつぶやいた。


凛がそばに歩み寄り、彼の肩を軽く叩いた。「あんた、まだまだ修行が足りないってことね。でも、この坊主から何かを学べたなら、それで良しとしなさいよ。」


高橋はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げ、覚空に向かって低い声で言った。「坊主……俺の負けだ。今日は俺の方が未熟だったって認めるよ。でも、いつか……必ずリベンジする。」


覚空は微笑み、手を合わせて答えた。「施主、道を極めるのは長い旅路です。今日の気づきがあなたをさらに高めるでしょう。」


高橋は立ち上がり、剣道部の仲間たちに一言「行くぞ」と告げて、静かに立ち去っていった。


---


**庭の静けさが戻る**


凛は覚空を振り返り、肩をすくめながら微笑んだ。「あんたって本当に不思議な奴よね。まあ、今回は助かったけど。」


覚空は手を合わせたまま言った。「僧はただ、武の中に真理を見出すための手助けをしただけです。」


「真理?」凛は吹き出して笑った。「じゃあさ、ついでに教えてよ。その竹の枝でどうやったらもっとかっこよく戦えるか。あんたのあの動き、マジで最高だったわ!」


覚空:「……」

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