引気入体
朝日が佐藤家の裏庭に降り注ぐ中、凛は体を伸ばしながらぼやいた。
「覚空、どうしてあなたはそんなに強いの?ただのお坊さんなのに、不良たちや武道の達人を軽くやっつけられるなんてさ。」
覚空は庭の木製の杭に座って瞑想していたが、その言葉を聞くと、ゆっくりと目を開き、穏やかで澄んだ目つきで答えた。
「強さとは、見た目に過ぎません。僧である私が強いのは、『気』の使い方を知っているからです。」
「気?」凛は興味津々で身を乗り出した。「それって、漫画とかに出てくる『気』のこと?内功とか真気みたいなやつ?」
覚空は微笑んで軽く頷きながら答えた。
「施主の言うことも完全に間違ってはいません。『気』とは、修行者が身体を鍛え、天地と繋がることで生み出される内なるエネルギーのことです。気を操ることができれば、健康を保ち、人間の限界を超えることすら可能になるのです。」
「本当なの?」凛は興奮した表情で言った。「それなら、私にも教えてくれる?」
覚空は軽く頷き、凛をじっと見回して言った。
「施主は日頃から身体を鍛えているため、体質的にすでに『築体期』に達しています。それは修行の第一歩です。これから、引気入体の方法を教えましょう。本当の修行の道に踏み出す準備ができていますね。」
築体期の説明
「築体期って何?」凛が不思議そうに尋ねた。
「修行の第一段階、それが築体期です。」覚空は丁寧に説明した。「この段階では、身体を鍛えることで気を体内に取り込むための基盤を作ります。施主は日頃から走ったりトレーニングしたりしており、意識的に修行していないにもかかわらず、すでにこの段階をクリアしています。」
「じゃあ、私、もう築体期をクリアしたの?」凛は驚きながら喜んだ。
覚空は頷いて答えた。「その通りです。今のあなたの身体は、気を受け入れる準備が整っています。次は、天地の霊気を体内に取り込む引気入体の段階です。」
「すごい!早く教えて!」凛は目を輝かせながら言った。
覚空は木の杭から立ち上がり、手を合わせて、厳粛な口調で言った。
「引気入体は簡単ではありません。集中、忍耐、そして正しい指導が必要です。基礎となる修行法を教えるので、その通りにやってみてください。」
「了解!」凛はすぐに足を組んで座り、素直な生徒のような姿勢を見せた。「準備OK!」
覚空は彼女の背後に回り、肩に軽く手を置きながら言った。
「身体をリラックスさせ、目を閉じて、呼吸を整えなさい。心を静かに保ち、自分が静かな湖の中にいると想像してください。そして、周囲の天地の霊気が湖に流れ込む清らかな泉であることを思い浮かべるのです。」
凛は深呼吸し、覚空の指示通りに呼吸を整えながら、徐々に心を落ち着かせた。
「いい感じです。」覚空は低い声で言った。「次に、丹田――つまりおへその下三寸の場所に意識を集中させなさい。そこに暖流を感じられるか確認してください。」
「暖流?」凛は眉をひそめながら丹田に意識を集中させようとした。しかし最初は何も感じられず、ただ少しお腹が空いている気がしただけだった。
「焦ることはありません。」覚空は彼女の背中に柔らかい気を注ぎ込み、気の流れを感じ取れるよう手助けをした。「修行において焦りは禁物です。リラックスして、感覚を研ぎ澄ませるのです。」
やがて、凛は腹部に不思議な暖流を感じ始めた。それはまるで、微かな熱が体内をゆっくりと流れているようだった。
「感じた!感じたわ!」凛は驚きながら目を開けた。「覚空、なんか暖かいものが、お腹の中を流れてるみたい!」
覚空は頷き、その声にはわずかに称賛の色が混じっていた。
「それが気です。あなたはすでに気を体内に取り込む初歩の感覚を掴みました。ただし、これはほんの第一歩に過ぎません。これからは気の流れを導き、経絡に沿って体内を巡らせる方法を学ぶ必要があります。」
「気の流れを導く?」凛は首をかしげた。「どうやって?」
覚空は地面から一本の木の枝を拾い上げ、地面に人体の経絡図を描きながら言った。
「これが気の流れる経路です。このルートに従って気を導き、小周天と呼ばれるひと巡りを完成させるのです。」
凛は地面の図をじっと見つめ、眉をひそめた。
「難しそう……私にできるかな?」
「最初はどんなことでも難しいものです。」覚空は穏やかに言った。「しかし、集中し、諦めずに取り組めば、必ずできるようになります。」
覚空の指導の下、凛は再び目を閉じ、全神経を集中させて体内の気の流れを感じ取ろうとした。彼女は覚空が描いた経絡のルートに沿って、気をゆっくりと導こうと試みた。
最初は気の流れがルートから外れたり、突然消えてしまったりして、凛は何度も挫折しそうになった。
「諦めるな。」覚空の声は穏やかでありながら、力強さも感じられた。「修行には時間と忍耐が必要です。呼吸を整え、心を落ち着け、ゆっくり進めなさい。」
凛は歯を食いしばりながら再び挑戦した。何度かの試行錯誤の末、ついに気の流れを経絡に沿って一巡させることができた。
「できた!」凛は興奮して目を開け、勢いよく立ち上がった。「覚空、本当にできたよ!すごく気持ちいい!」
覚空は微笑みながらうなずき、静かに言った。「素晴らしい。これで小周天の初歩を完成させました。これからは、この感覚を繰り返し練習し、気の流れを確実に掌握していきましょう。」
凛は拳を握りしめ、顔には決意の表情が浮かんでいた。
「覚空、私、絶対に頑張るわ!次こそ、あのチンピラたちをやっつけて、もうあなたに助けてもらうことはない!」
覚空は手を合わせ、頭を下げながら、深遠な口調で答えた。
「修行の道は険しく長いもの。しかし、心に信念を持てば、いつか必ず、自分自身の力を見つけられるでしょう。」
凛は覚空を見つめ、その瞳には自信が溢れていた。「じゃあ、その時を楽しみにしていてね!」
ちょうどその時、彼女の首に掛けられた玉のペンダントが突然、淡い青い光を放ち始めた。




