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2 カラスと猫に襲われる

 麿を乗せた軽トラは、山道から街中に出てきました。

 街中といっても、田舎の町なので人の姿はまばらで、お店もたまにしか見られません。

 小さな何でも売っている雑貨屋の前を通り過ぎ、神社の前を通り過ぎます。

 雑貨屋は、カップラーメンやパン、ペットボトルの飲料などの簡単な食糧品とか駄菓子や、文房具も売っています。

 近くに小学校があるため、学校帰りの子供達がお店に寄って買い食いをします。


 神社の前を通った時、車が大きくバウンドしました。

 鋪装してない土の道に大きな穴が開いていたのでした。

 男達はビックリしましたが、そのまま車を走らせました。

 ところが、麿が入っている箱はそのバウンドの時に車の荷台から飛び出してしまいました。

 箱は地面に叩きつけられ、大きな衝撃で麿は箱から飛び出しました。

 箱は横倒しになり水は全部零れ、その水溜まりの中で麿は跳ねて暴れました。

 

 水が無い。


 麿は焦りました。


 しかし、麿の不幸はそれだけでは有りませんでした。


 神社の屋根にはカラスが一匹とまっています。カラスは道で暴れる鯉を見つけると屋根から飛び立ちました。

 カラスの鋭い爪に掴まれると麿はあっという間に食べられてしまいます。絶体絶命のピンチでした。

 カラスが麿を掴まえようとした瞬間、神社の入口の石柱の陰から猫が飛び出して来ました。

 猫はカラスに飛び掛かり追い払おうとします。

 猫も絶好の御馳走を狙っているのです。

 カラスも負けじと猫に反撃をします。

 体をくねらせる麿の横でカラスと猫が戦っています。

 どちらが勝っても麿は食われてしまいます。


 すると、神社の向こう隣の雑貨店から子供が顔を出しました。

 神社の前を見ると、カラスと猫がバトルをしています。そしてその前に息も絶え絶えの魚が一匹のたうっています。

 彼は一目で状況を理解し、飲みかけのペットボトルの水を片手に、店から飛び出して大声をあげて麿の所へ走り出しました。

 すると、その後から子供が次々出てきて、前の子の後を追って走り出しました。

 小学校から帰る途中の低学年の子供達が、わらわらと湧いてきました。8人いました。

 猫とカラスは、子供達が大挙迫ってくるのに驚いて慌てて逃げ出しました。

 子供達のお陰で猫とカラスは行ってしまいましたが、麿は、呼吸が出来なくて死にそうです。

 こんなことなら池の中でじっとしておけばよかった、もう竜になることは無いのかと薄れる意識の中で悲しくなりました。

 

「何で道の真ん中に、魚がおるとか」


「まだ、生きとる」


「そやけど、口をパクパクさせて苦しそうやけ」


 子供達は囲って麿を見下ろします。

 麿はついにぐったりと動かなくなりました。

 すると、麿の頭に水がかかります。

 最初に飛び出した子がそやと言ってペットボトルの水を麿にかけたのです。

 それを見ていた他の子達は、駆け出して店に戻り、ペットボトルを持って麿の元へ戻って来ると、立ったままペットボトルの水をかけ出しました。

 子供達は、立ったり座ったりして輪になって麿に水を浴びせます。

 すると店番をしていたお兄ちゃんも2リットルのペットボトルを持ってやって来ました。


 そこに、麿を落とした事に気が付いたあの軽トラが帰って来ました。

 子供達が騒いでる手前で車を止めると二人の男が車をおりてきました。


「いたいた、やっぱりここで落としてた」


 男達は鯉を持ち帰るために子供達に近づいていきました。

 

 店のお兄ちゃんは、ペットボトルで鯉に水をかけてる子供達の後ろから、2リットルのペットボトルの水をどぼどぼと麿にかけてやりました。

 麿は思いました、落ちてくる引きちぎれて玉になる水を見て、どこかで見た光景だ。

 そうだ、池の滝と同じだ。

 その瞬間麿は、尾びれを大きく振り出し地面を叩くと体を跳ねあげて落ちてくる水を登り出しました。

 子供達の目の前をみるみる登っていきます。

 子供達はその光景に目を丸くして見詰めます。

 麿は、お兄ちゃんの手から落ちる水を登りきると、宙に飛び出し頭から竜に変化していきました。

 そして1メートルほどの竜になると空に上がっていきます。お兄ちゃんの目の前を通り過ぎて上へ上へと上がっていきます。

 子供達はキラキラした目で麿を見つめます。

 駆け寄って来ていた男達は動きが止まり、固まったまま竜が登って行くのを見ていました。

 麿は昇るのを一旦止めて振り向きました。暫く子供達を見ると再び上を向いて空の上に登っていきます。

 水に濡れて鱗がキラキラ光っていました。やがて雲の中に姿を消してしまいました。

 

 次の日、子供達は学校で他の子供達に麿の事を話します。皆、すごか、すごかと羨ましがりました。

 作業服の男達も仕事仲間に竜を見たと自慢しました。皆は、嘘つけ、しょうもないと言って信じませんでした。


 なかなか竜に成れなかった小さな鯉は、艱難辛苦(カンナンシンク)を乗り越えて、空の上の竜の国で成長して大きな竜に成っていくことでしょう。

 





 

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― 新着の感想 ―
正に危機一髪でしたね。 創造の産物と分かってはいても、いつか竜を見てみたい。そんな気持ちにさせられました。
2025/01/29 08:42 退会済み
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