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三ノ書「君の勇者になる」

僕はある記憶を思い出していた。

虐げられていた日々に1人だけ僕に光を与えてくれる存在がいた。


夕方。放課後の教室。

教室の中は夕日が差し込みオレンジ色に輝いている。教室の窓側の隅の席には顔に絆創膏だらけの僕が座っている。外を見つめているとやがて教室の戸が開きサラリとした長い髪の綺麗な女の子が入ってきて僕に声をかけた。


「…また、やられたの。古堕君」


彼女はそう言うと僕の隣の席に座る。

彼女の名前は綾原 紗英。


「あっ…。綾原さん。うん…足立達に…」


「そっか…」


彼女は僕の頬に手を当てる。


「っ…!」


「あ、ごめん…痛い?」


「あぁ…!いや…痛い…けど大丈夫」


「大丈夫じゃないでしょ。先生に言いなよ。ちゃんと」


「言ったよ…でも聞いてくれなくて」


「そっか。じゃあ、私に任せて」


彼女はまた僕の頬を撫でると教室を後にした。

次の日。彼女は青ざめた顔をして登校してきた。

僕は声をかけようとしたが言葉が出なかった。

彼女は徐々に登校頻度が落ちていき、あの日から2週間後学校に来なくなった。


そのまま転校すると担任から伝えられ僕は彼女に何もしてあげられないまま今生の別れとなってしまった。


今【光の剣】を手にしている僕はなぜこの記憶を思い出したのだろうか。ふと今の現実に僕は意識が戻った。


「やっぱり…!貴方が神の子だったのですね…。レント…いえ、光の勇者様…!」


振り返るとレオが涙を流しながら歩いてくるのが見えた。不思議とその姿を綾原さんに重ねてしまった。


「レオ…。なんで僕にこの剣が…」


「それは当然貴方が光の勇者だからですよ!」


「僕が光の勇者…」


さっき話をしてきたのはこの剣なのか。

神が嫌いな神殺しの剣。なるほど僕にピッタリだ。


「この剣があれば、きっと闇の神を倒せるに違いありません。レント様、どうか私と闇の神を倒す旅にでてくれませんか…?」


「…」


僕は綾原さんとレオを重ねていた。僕を助けてくれた2人は笑顔が素敵で優しくて。僕なんかの為に戦ってくれる。恩返しがしたい。


「分かりました。僕、レオの為に闇の神を倒します。僕はレオの勇者になります!」


「っ…ありがとう…ございます…とっても…嬉しいです」


レオは大粒の涙を零しながら微笑んだ。

僕にも人の心を救うことが出来るかもしれない。

そんな希望が湧き出るほど綺麗な涙だった。


「レオ、僕はこれから…」


ドォォォオン!


僕がレオに話しかけたその時、洞窟の壁が音を立てて崩れた


「な、なんだ!?」


「あれは…」


土煙の中からうっすらと巨躯が姿を現す。

目を血走らせヨダレを垂らしながらこちらを威嚇する大きなポイズンウルフだった。


「あいつって…!」


「はい…さっきの群れのリーダーです…!」


グルルルッ…!


ポイズンウルフのリーダーは唸るとこっちに向かって飛びかかってきた。


ガウッ!!


「危ない!」


「っ!」


レオは僕を突き飛ばした。

ポイズンウルフはレオの腕に噛みつき離そうとしない。


「レオっ!!」


レオの腕からは血がポタポタと落ちている。


「レン…ト…様…貴方ならできます…」


「レオ…」


レオを助けなきゃ…。

僕の足は震えたまま動かない。

伝説の剣はこの手に握ってる。

でも僕にはこの剣を扱えるほどの強さは無い。

なぜ選ばれた…剣術も扱えない、踏み出す勇気も無い。こんな僕がなぜ選ばれたんだ。


「力を抜け。自分を信じろ」


「っ!」


さっき聞こえた声がまた聞こえた。


「貴方は…さっきの…【光の剣】なのか?」


「いいから剣を構えてみろ」


「構えるったって…僕は剣術なんて一度も…」


「別にいい。なんとなくでいいから構えろ」


「わ、分かったよ…」


僕は声に言われるまま、強ばった体の力を抜き剣を構えた。

すると不思議と自然に体が動いた。

まるで幼少期の頃から剣に触れ剣術を磨いてきた騎士のようなそんな感覚だった。


「なんで…体にすごく馴染む…!」


「さぁ、あのクリーチャーを斬れ」


「あぁ…分かった」


僕は前を見据え目を閉じた。


「っ…!レン…ト…様…!」


レオの呼吸を感じた。

死の気配と一緒に。

僕は目を見開き足を踏み込んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


地を蹴りポイズンウルフ目掛けて剣を思いっきり振った。


『光一閃!』


僕は瞬く間にポイズンウルフの首を斬っていた。

光のごとく速さで移動したのだ。

自分に何が起きたのか、何をしたのかすぐに理解出来なかった。


「僕は………何を…?」


「それが汝の力…光の勇者たる力だ」


「これが…僕のちから…?」


「じきに分かる。お前が生まれ死に、この世界に来た理由と共に」


「どういう事だ」


「我、光の勇者と共に世を平穏に導かん」


「おい、待て!答えろ!」


声は遠のいて消えてしまった。

この声が何者で、なぜ僕の頭に聞こえてくるのか。

分からずじまいだ。


「レ……ント様…ありがとうございます…」


「はっ!レオ!!大丈夫ですか…!」


「ええ…何とか……」


レオの腕から血が垂れている。

ここで僕は思い出した。


「あっ、ポイズンウルフって…毒があるんじゃ……」


「はい…あります…」


「ま、まずい…!解毒の方法なんて分からないし…!てかまずは止血か…!でも、ど、どうやって!?」


「落ち…着いてください……くっ…『癒』」


レオが傷口に手を当てると瞬く間に出血は止まり傷が治っていく。


「傷が…治っていく?」


「治癒魔術です…これで傷は大丈夫です。ご心配をおかけしました」


「ま、まって毒はどうするんだ?」


「私はエルフ族です。エルフ族に毒は効きません、付与魔術によって自動的に解毒されるんです」


「自動的に…解毒?……はぁぁぁぁぁ…」


「だ、大丈夫ですかレント様」


安心した瞬間体の力が全て抜けてしまった。

レオが無事だった。

それだけで胸が暖かくなった。


「あぁ…大丈夫です…すみません。良かったです」


「お助け下さりありがとうございました。光の勇者に相応しいご雄姿でした」


「あ、ありがとうございます」


「レント様、あなたが勇者となった今私に敬語は不要です」


「…え?」


「この世界を救う為にいる勇者様は周りから尊敬されている存在ですから。私に敬語は使わなくて大丈夫ですよ」


「そうです…あ、いや…そうか…じゃあ僕にも敬語は不要だよ、レオ」


「えっ、そ、それはダメですよ。私はエルフ、亜人類です!亜人類が勇者様に不敬を働く訳には…」


「亜人…類?まぁ、よく分からないけど。僕はレオともっと仲良くなりたい。僕だけってのは少し距離感じちゃったから…」


「そうですか…確かに…で、では恐れながら…今後ともよろしく…です!」


「敬語になっちゃってるよ!?」


「はっ!」


何故か光の剣に選ばれそれを持つ事で光の勇者に選ばれてしまった。

僕はこれからレオと共に闇の神を倒す旅に出ることになる。元の世界ではやられてもやり返すことすら出来ない。誰かを助ける事も出来ない、助けを求めることすら出来ないそんな僕がこの世界を救うそんな事が本当にできるかは分からない。

でもレオの笑顔を守りたい。助けてくれた、手を差し伸べてくれた人を守りたい。それだけが僕の決意を押し進めてくれる。僕は決めた。


僕はレオ、「君の勇者」になる。


四ノ書に続く。

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