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二ノ書「光の剣」

深い夜。僕は異世界でエルフを名乗る少女の話を2人きりの洞窟で聞いていた。


「この世界には闇の神を倒す為に旅をする勇者が沢山居ます」


「勇者…」


「はい。村や街、王国などから選ばれた闇の神を倒すことの出来る可能性を秘めた人達。それが勇者です」


「勇者はどうやって選ばれるんですか?」


「そうですね…村や街から選ばれるとしたらその村で1番強かった…もしくは魔法の才能に恵まれていた。そんな所でしょうか…王国などから選ばれる勇者は基本その王国の国家相伝の魔術を使えるかどうかで選ばれているんです」


「…闇の王はそんな凄い勇者達が束になっても勝てないんですね」


「はい…でも可能性は0じゃない。私はそう思っています」


「…というと…?」


「私がこの森に来たのはある剣を探す為です」


「剣…ですか?」


「そうです。約3000年前大陸全土が闇の神の魔の手に陥りそうになった時ある1人の勇者が闇の神の力の侵攻を最小限に抑えたのです。その勇者は原初の勇者、【真光の勇者】と呼ばれています」


レオは洞窟の奥を見つめ何かを見据えているような表情をしていた。


「真光の勇者が使っていたとされる伝説の剣

【【光の剣】】。それが私がこの森に来て探している剣の名前です」


「そんな…剣が…」


レオのいう【光の剣】はあらゆるおとぎ話、物語に出てくる聖剣のような物なのだろうか。そうなら剣は選ばれた者にしか抜けない、あるいは手に入れることが出来ないそういう制約がありそうだ。僕はそう思った。


「その剣はこの森のどこにあるんですか?」


「…」


レオは無言のまま立ち上がり洞窟を奥を見つめている。


「剣は恐らく……この洞窟の奥にあると思います」


「えっ…この洞窟に!?」


「ええ、この洞窟の奥から感じる聖気は間違いないと思います」


「まさかそれでこの洞窟に」


「いえ、あの時は必死でしたから…」


「じゃあ偶然…」


「はい…。でも私は本当に偶然だとは思っていません。私が今日この森に【光の剣】を探しに来、貴方に出会い今こうして【光の剣】がある洞窟に一緒にいるのは単なる偶然だとは思えないのです」


レオは真っ直ぐな瞳で僕を見つめた。


「これはきっと何かの運命、神の導きです。ですから…どうか、どうかお願いします。私と一緒に【光の剣】を取りに行ってくださいませんか!」


「そ、そんなこと言っても、僕は役に立ちませんよ…!」


レオは下げた頭を頑なに上げず少し震えていた。


「………分かりました。一緒に行きましょう!」


「…!!ありがとう…本当にありがとうございます!」


僕はレオの想いを尊重する事にした。

どうせ僕には何も出来ないがもう既に失っているはずの命だ。

少しでもレオの助けになれば…そう思った。


「では行きましょう。日が昇る前に剣を取り、朝にはこの洞窟を出れば奴らは寝たまま私たちに気づかないはずです」


「そうですね。行きましょう」


レオと僕は素早くキャンプの後始末をすると松明を持ち洞窟の奥へと進んだ。

洞窟の中はかなり寒く手足が凍りそうなほどだった。


「さすがに…寒いですね…」


「そうですね…では私が少しばかり術を…」


「術…ですか?」


「動かないで。…【熱】」


「あっ、暖かい」


「これで暫くは寒さに耐えれるはずです。さぁ行きましょう」


「あ、ありがとう…ございます」


「いいんですよ」


レオのニコッと微笑む笑顔に少しドキッとしてしまった。こんな子が闇の神を倒す為に伝説の剣を探して旅をしているのか…この世界は残酷だな。


かなり洞窟の中を進み、僕達は洞窟の最深部に到達した。そこには祭壇のようなものがありそのてっぺんには光り輝く何かがあった。


「ここが…洞窟の最深部…」


「ええ…そのようですね。道中でクリーチャーに合わなかったのは運が良かったですね」


「確かに…。あれが、伝説の【光の剣】なんですか?」


「はい、恐らく。行ってみましょう」


レオは祭壇の階段をスタスタと昇っていく。僕も遅れまいと後に続いた。祭壇を上がりきるとそこにはいかにもな台座に刺さる一振の剣があった。


「これが……【光の剣】…」


「やっぱり、あったのね。この洞窟に…」


レオが剣に触れようとしたその時レオは不思議な力に弾かれてしまった。


「っ!」


「だ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫です…どうやら私にはこの剣に相応しくないようです…」


レオは座り込んだまま俯き残念そうな顔をした。やはり剣は伝説の勇者しか抜く事ができないんだ。そう相場は決まっている。


「レオ。この剣を抜く事が叶わないならこの剣を抜けるかもしれない勇者を探しに行きましょう。そうすればいつか闇の神を倒せるかもしれません」


「………」


レオは立ち上がると僕を見つめさっきと同じ真っ直ぐな瞳で僕を見つめている。


「貴方が抜いてください。貴方はもしかしたら選ばれし神の子なのかもしれない」


「へ?」


「遠い昔の伝承に【神に選ばれし神童が聖なる剣と共に世界に平穏と勇気を与えん】という物があります。その神童は神に選ばれ神の子として記憶を消され勇者として生まれ変わるのだそうです。貴方は記憶が無く、更には運命に導かれるようにこの剣の元に居る。貴方が神の子かもしれない。お願いです。剣を抜いてみてください!」


レオはまた僕に向かって頭を下げた。

どうせ無理だけどやるだけやってみようと僕は思った。


「わ、分かりました。でも剣を抜けなくても怒らないでくださいよ〜!なんて、ははっ」


「ありがとうございます!」


レオは涙を目に浮かべながら僕の手を握った。

まぁどうせ僕なんかに抜くことの出来る剣じゃない。

レオをすぐガッカリさせちゃうかな…。

僕は【光の剣】に触れた。

剣は暖かく握っているだけで勇気が湧いてくるようだった。


「汝……汝はこの世界のものでは無いな」


「え!?レオ何か言いました!?」


「言ってないですよ!」


「汝はこの世界に新たに生まれいでたなにかの運命の分岐点として」


謎の声が頭に響いてくる。これは…もしやこの剣の声なのか


「あなたは…【光の剣】なのですか」


「汝は神に嫌われ神を嫌っている。我が神殺しの力は神を信ずるものには扱えぬ」


「神殺しの……力…?」


「汝にはあるか、この世界の闇の神を葬り自分以外の何かを守る為に戦う覚悟が」


「…!」


僕は思い出していた。あの地獄の日々を。嫌いな教室、嫌いな人間、嫌いな笑い声、嫌いな親、嫌いな先生、嫌いな自分、嫌いな世界………嫌いな神様。

自分の事を認めてくれない全てに嫌気がさしていた。

何もしてやる必要は無いと。そう思っていた。

だからこそ、自分を認め信じてくれるレオを、この声を僕は信じたい。そう思った。僕は剣の柄を力強く握りしめた。


「あぁ!いいだろう!僕は神が大っ嫌いだ!闇の神だろうがなんだろうが嫌いな物は嫌いなんだ!絶対ぶっ殺してやる!そしてこの世界に平和をもたらしてみせる!」


「汝の覚悟。認めよう。これからお主は光の勇者だ」


その声が聞こえた途端に眩い光が僕の視界を奪った。


再び目を開けると僕の目の前には刺さっていたはずの【光の剣】が全体を現にしていた。


「これが…【光の剣】…!」


「本当に……選ばれたのですね……っ!」


【光の剣】はほのかに暖かい光を放ち、洞窟と僕ら2人を照らしていた。まるで小さな太陽のようだった。



三ノ書につづく。

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