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序章
序章
じび、び、じび。
鉄の車輪が砂利を踏み締める音が、宵闇に鈍く響いている。
茶錆が目立つ、黒鉄の車軸が時折甲高い音を立てて軋む。その度、同時に荷車の上に聳える木製の屋台もまたぐらぐらと左右に揺れた。
屋台の骨組も、荷車の前へ長く伸びる把手も合わせて、全て鉄で出来ている。動力はその把手を掴み、前へ押しながら歩くそれだけだ。
ごく小さく、丸い石粒の上を進むのは骨が折れるだろうに、その進みは着実で、そして揺るぎない。
じびび、じびび、……じびっ。
轍の残らないその歩みが、ふと止まった。
把手を両手で掴み、屋台を引いていた影が顔を上げ、空を仰ぐ。
瞬きを1つ、2つ。
そうして、鉄錆の甘やかな茶が目立つ拳で額を拭った。
「見事、な……」
その見はるかす先には、煌々とあかく輝く満月が浮かんでいた。