逢瀬を交わし仰ぎ見る
「ここは……霧?それと草原ね」
『だいぶ近くに来たね。もうすぐ地上だよ』
珍しくコメントが途絶え、少ししてから文字が流れた。
「そうなの!?どうやったら帰れるの?」
『壁沿いに歩けばそのうち階段にあたるよ。どっちに行く?』
「右から行くわ。時計回りね」
「あ!出口よ!中央の霧に外が見えるわ!」
私はすぐに走り出す。
待つ、の文字がタブレットの画面に流れた気がした。
足が空を切る。
足元を見たら、地面には大きな穴が口を開く。
そしてその奥の中心に赤い目が光る。
★☆☆☆☆
「ふー、間一髪」
落ちかけた私の手を誰かの手がつかむ。
「何あれ?土竜?」
「そう。あれはモグモグラって言って幻影で人を誘い込むモンスターだよ」
私を引き上げて穴から距離を取るとと、その人は教えてくれた。
「その口調まさか774さ――ってなんで仮面付けているんですか?」
「有名人だからねー。顔は隠しているのさ」
「えいっ」
好奇心が高まり、顔全体を覆うマスクに手を伸ばしてみる。
「ひょっとしてネームレスさん!?一人でダンジョン走破したあの!?」
「あたり。よく見抜いたね」
「そりゃあなたに憧れてダンジョン配信やってみようって思ったんですよ!」
「ありがとう。そんな君に問題だ」
コメントの口調そのままに、ネームレスさんは私に両手に持ったものを見せる。
「エンタメ性と、帰還の翼。今欲しいのはどっち?」
☆☆☆☆☆
地上に出た私はタブレットを返してもらい、改めてお礼を言う。
「いいよいいよお礼なんて。無事で何よりだよ」
「どうかしたんです?」
「ん?ああ。早くあのダンジョン書き換えようって思っただけだよ」
なんでもダンジョンの最下層にはダンジョンを作り出しているコアがあるという。
「そのコアを書き換えて、みんなが遊べるアミューズメントにするのが僕の夢さ」
「お手伝いしてもいいですか!?」
「勿論。ただしコアのことは内緒だよ」
仰ぎ見た太陽が、大地を踏みしめる私たちを見守っていた。