配信中に起きた事故
「はい!視聴者のみんなこんにちは!今私はダンジョンの中に来ています」
タブレットと自撮り棒に向かって私は満面の笑みを振りまく。
「地上からって思った人いるかな?残念今私がいるのは――何階でしたっけ?」
画面にはツッコミのコメントが次々に流れる。
(うん今日も絶好調!みんなのノリも良いしいける!)
何回だったかな、とおどける声が画面外でガッツポーズ中の私の耳に入る。
「そうそう今日はみんなに紹介したい人がいるの。今回だけの特別ゲストよ!」
8の数字がひたすら並ぶ。
拍手で出迎えられた冒険者人たちを一人ずつ紹介する。
「この方々が記憶の小箱というアイテムでここまで送ってくれました!」
チーム結成からの年数と思い出を聞く。
会話はキャッチボール。
相手が相手が投げてきたボールから返しやすいものを選び投げ渡す。
★★★★★
「埃っぽいぞここ。それに暗いな」
「明かりいるね。ライトある?」
「大丈夫。魔法で火をつけるから」
ダンジョンを進むと、前方で楽しそうに会話する声が耳に届く。
今日はこの冒険者たちのダンジョン攻略を実況する。
冒険者は名前が売れて、私は動画がパズる。
(一挙両得よねー。どれぐらい閲覧数稼げるかなー)
今のうちにリップを塗りなおそうとポーチに手を入れる。
手にしたリップがすり抜け、コロコロと来た道へ転がっていく。
追いかけて拾った瞬間、背中に爆発音と熱を感じた。
★★★★★
真っ暗の中、意識を取り戻す。
「いたたた……なんなのよもう」
近くにあったタブレットを手に取り、周囲へかざす。
「……………………」
その明かりで周囲の状況がわかり、声を失う。
何か大きな爆発でもあったのか、あたりには瓦礫が散乱としていた。
どれぐらいそうしていただろう。
タブレットの光がブルーライトカットで温かみを帯びた色に変わる。
その色の変化で我に返り、タブレットへ視線を落とす。
『おーい。生きていたら返事をしてくれー』
視聴者のコメントがひとつだけ流れていた。
履歴を見ると774の名前の人が、定期的にコメントを送っていた。
「はーい。何とか生き残っていまーす」
手櫛で髪を整え、精いっぱいの笑顔で画面に顔を映す。
★★★★★
『粉塵爆発かなーそれは』
周囲の状況を視聴者さんに見せるとコメントが返ってきた。
『埃に火がついて爆発的に燃えたのさ』
簡単に説明したうえで、即座に新しいコメントが流れる。
『荷物は何が残っているかい?』
「冒険者セットっていうのを入る時にもらったわ」
『それはありがたい。どの種類のをもらったかわかるかい?』
「万が一に備えた大容量パックだったかな」
私の言葉を聞くと、荷物の中に帰還用のアイテムがあるとコメントが流れる。
いわれたとおりに探す。
荷物を中身ぶちまけて漁ってみる。
「羽根の形をしたやつよね?」
『そう。帰還の翼って名前』
荷物を一通り並べ、それにタブレットをかざしてみる。
『あー持ってかれたな。これは』
774さんの話によれば帰還アイテムは希少だから割とよくある話という。
『ナビはするから』
途方に暮れた私は意を決し、地上階へ向かい歩き始めた。