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第82話 覚醒



 今、私の前に絵画から出てきたような男がいる。

 もしくはAlで『みんなの思うイケメン大募集!』な〜んて声をかけて、コンピューターが良いところだけをピックアップしたような……そんな現実離れした生き物が私の眼の前にいる。


 うん……絵画よりそっちかも。

 銀色の髪なんて、もはやゲームやアニメの世界だよ。


 ……イケメンもグーパーするんだぁ〜……。


 久しぶりの実体?に馴染めないのか、両手を繰り返しグーパーしてる水龍をミレイは無言でじっと見つめていた。水龍もその視線が気になったのか、ミレイの方に顔を向ける。


『……なんだ?』

「……えっ何が?」

『……ずっとこちらを見ているではないか。何か言いたいことがあるのではないのか?』


 ……まぁ、感謝の言葉を待っているのだろうな。

 謝意を伝えるべきなのは分かっているが、別に私が切望したわけでは……。


「いえ、特にありません。あるとしたら目の前のイケメンすぎる生き物への対応に困ってるところです」

『…………はっ?』


 わお〜。イケメンが小首をかしげると破壊力120%だわ……。しかも何この声……。


 程よい低音に背筋がゾクゾクしてくる。


「ふーー。酸素うすいよぉ……ここ」

『……そうか? 人界とはそこまで違うのか……』


 水龍さまが顎に手をあてて考えこむ。


「すみません。比喩ですので大丈夫です」

『…………そうか』 


 意味不明な自分の言動が恥ずかしくなってくる。


 あぁ。私はまた余計なことを……。

 どうしてこうも本心がだだ漏れになっちゃうかなぁ〜。


 いたたまれない無言が場の空気を占めたが、それも束の間、うぅっ……と呻き声が聞こえてきた。


「……そうだ! 水龍さまこちらに来て下さい!」


 必死になっていた理由を思い出した。


 みんなは瀕死の状態だったのに、なにをイケメン鑑賞なんてしてるかな〜ワタシは!


「みんな水龍さまだよ! あんなに会いたがっていた水龍さまが起きたよ!」


『水……りゅうさ……ま?』

『本当じゃ、水龍……さまじゃあ〜。まさか本当にお会いできるとは……』

『あぁ……あきらめなくて良かったなぁ〜』


 サンボウとロスが水龍さまの姿を見てボロボロと号泣していた。その横でクウは目を瞑ったままだった。


「水龍さま、この子が死んじゃいそうなんです。どうしたら助けられますか?」


『水龍さま……お願い……します』

『この者を助けて……ください』


 三人からの縋るような瞳に、水龍は溜め息を一つついてクウの額に人差し指を充てた。


『ふむ、妖力が涸渇寸前だな。……お前達もか……』


 水龍さまは私を一瞥するとそのイヤリングを使え、と言ってきた。


「えっ……これ?」


 あの日からずっと右の耳に付けているが、どうやら他の人には見えないらしく、ミレイ自身も最近の忙しなさですっかり忘れていた。


『そのイヤリングは私の妖力を纏っている。この者達の妖力の補填くらい可能だ』

「このイヤリングそんなに凄い物だったんだ……」

『お前は……何だと思ってたんだ』


 水龍さまの麗しい美声が一層低くなった。


「えっと……。アクセサリー?」

『何で私がお前に装飾品を贈らねばならないのだ』


 ここまで不快感を示せるって逆にすごいな……。

 社会人は愛想笑いの下に本音を隠すのだ。


「すみませんでした。それでどうすれば良いですか?」

『そのイヤリングをこの者達の上に置け』


 言われた通りにしてみると、イヤリングが突然光りだし、三人の妖精達の体を包んだ。


『器が小さいからすぐ終わるだろう』


 水龍さまはそれだけ言うと『私は結界の綻びをなおしてくる。お前達は好きにしろ』と居なくなってしまった。私はイヤリングの光が収まるまでじっと三人を見守ることにしたていた。


『……ひ……め?』

「サンボウ! 大丈夫?」

『あぁ……大丈夫じゃ。呼吸が楽になった。他の二人は……?』

『ふっ。隣に……いるの。とうとう頭の中まで耄碌したの?』

『『クウ!』』

『ふふっ』 


 横たわりながらも笑うクウに二人は顔をグチャグチャにして泣き喜び、ミレイもそんな三人を鷲掴みにして抱きしめた。


『くるしいの〜』

「あっごめんね」


 妖精達はゆっくり起き上がり辺りを見回した。


『ここは王の間……』

『懐かしいの〜』


『姫はどうやって王を覚醒させたのじゃ?』

「うーーん。いろいろやったけど、全然駄目で最終的には水をかけたのが良かったのかも」

『水をかけた? ……まさか……』

「うん。そのまさかだよ」

『なっっ……!?』


 反応は予想できるので、遠慮がちに伝えたが妖精達は予想通り絶句していた。


「仕方ないでしょ! 起きてもらうのが絶対条件なんだから手段なんて選んでられないわ」


『たしかにそうなのじゃが……』



 そんな話をしていると空気がビリビリと震えた気がした。


「なにっ!?」


『水龍さまが妖力を練っておられるの。おそらく結界を修正するおつもりなの』

『目覚められてすぐにこれほどの力を行使できるとは、やはり我等の王は凄いのじゃ』


『王のお側に行きたいの』とクウが言うと、他の二人も満面の笑顔で答えた。


 みんないきいきしている。

 諦めなくて良かった。


 ミレイは一人ほっと息を吐いた。



  ◇  ◇  ◇



 行き同様、複雑な道をうねうね周りながら建物の外に出た。木々がゆらめき、風が頬にあたる。

 王宮の隣にある白亜の神殿の中に水龍さまはいた。 丸い水の中で目を閉じて、まるで瞑想しているよう見えた。その光景を入口付近でみんなで見守る。


「結界の修復なんてそんな簡単にできるの?」

『まさか。膨大な妖力と緻密なコントロールが必要だから通常でもできる者は限れるのじゃ。ましてや覚醒直後は体の負担も大きいはずじゃ』

「そうなんだ……水龍さま大丈夫かな。」


 水龍が目を開くと水はゆっくりと白い大理石の床に広がっていった。そして水飛沫(水しぶき)が弧を描いて旋回したとおもったらどんどん早くなり、やがて小さな龍の形を成した。


 なにあれ……龍?

 


『──天壌無窮(てんじょうむきゅう)


 水龍さまが厳かに発した言葉と共に床一面の水はますます激しくなり、やがて小さな龍は天に向かって翔けていった。

 そのまま結界まで到達すると龍は光へ変化して、今ある結界を光速でなぞっていった。

 


 水龍さまの力は素人のミレイにも肌身で感じるくらい違っていて最早別格だった。


「キレイ……」

『あぁ……本当に麗しい』


 ミレイ達が突き破った結界は水龍の術によって再構築された。




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