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第80話 龍王国に着きました



 王宮の屋上庭園から城内へ入るとカビ臭い匂いが鼻につく。 


 あれから何百年も経っているんだから当たり前よね……でも躊躇ってなんかいられない


 石畳の階段を駆け下りようとすると、ズルッと足が滑った。 


「姫!」


 ロスの声で慌てて手摺に捕まり転倒は免れたけど、足下を見ると石畳の階段は苔が蔓延っていた。


『いでよ 水雲』


 そう言ってロスは水でできた筋斗雲を出して私を乗せてくれた。

 

 これ本当は水雲って言うんだ……。

 いや、今はそこじゃないでしょ。


「待って、ロスだって疲れてるのに」

『大丈夫じゃ。水雲なら姫の怪我も防げるし、徒歩よりも早いからな。 行くぞ、前 進(アヴァンセ)!』


「ひゃあぁーー」


 薄暗い階段を下りて木の扉を壊して城内に入ると、長い廊下が一直線にむこうまで続いていた。道なりに進んでまた階段を降りる。短い廊下に螺旋階段。少し進んでまた曲がり……


「なんなのこの道は!」


『城とはそういうものじゃ。安易に記憶させない為と……攻め込まれた時に対応するためじゃ。しかも今向かってるのは王の間だからな』


 はぁはぁ、とロスの息が少し荒い。

 いつも体力、妖力共に充実してるロスには考えられない様子に、ミレイはロスの体も限界に近いことを知った。


「すこし休もう。それに私も降りて走るから」

『いやこれから行く通路も安全かどうかわからないし、水雲の上なら安全じゃ』 


 ロスは止まってゴクゴクと水を飲む。


「……わかった。まだ遠いの?」

『あぁ。クウの見解だと王は本来の姿だろうから、それなら王の間で眠りついているだろう、と言っていた。王の間はこの宮殿の最奥じゃ。

 ……急ぐぞ。姫は二人をしっかり抱いていてくれ』


「うん。わかった」


 手の中の二人は青ざめた顔で起きる様子もない。


 サンボウ……クウ……

 そうだよね、少しでも早く。そうしないと二人が……



 ロスに運ばれて進んだ先の廊下は明らかに今までと違う様相をしていた。

 廊下は擦り切れた赤黒い布がところどころ残っていて、かつては赤い絨毯が敷かれていたのだろうと思われる。柱は凝った彫り物に宝石でも埋め込んでいたのか、柱の下に宝石たちが無惨に砕け散っていた。


 この先の部屋がきっと……。


 水雲で廊下を一気に突き進むと今まで見たことがないくらい大きい扉の前にたどり着いた。


「ロス……」


 ロスもコクリと頷いた。



 ここが王宮の最奥 『王の間』



 水雲から降りて扉をグッと押すもビクともしない。


「ロスどうしよう……開かないよ」


『姫、離れているのじゃ。この王の間は誰でも出入りできる場所ではないからな。……今、自分が開ける』


 深呼吸をひとつしてロスが呪文を唱える。


 二人の時は全然わからなかった言葉が今はわかる。これもシロのお陰かな……。



(いにしえ)の術に封印されし

 我が身よ 我が力よ

 神の慈悲とその清らかなる息吹と共に

 今ひと度 顕現せよ 

 解 幻(かいげん)


 ロスの体が発光し徐々に大きく人型になっていく。そしてクウやサンボウと同じく、成人の男性の姿に変化した。


 流石にキツイのじゃ……

 でもここまできたんだ。あとはこの扉を開けないと……。 

 認識機能がまだいきているといいが……。



 ロスの意識も朦朧としていた。


「ロス……平気?顔色悪いよ……」

『大丈夫じゃ』


 奥歯をガリッと噛み、痛みと血の味で意識を保つ。 

 自分は腐っても騎士団長の位を預かる者。

 王に認められし者。

 みんなの想いを託されてここにいる


 その誇りがロスの意識を支えていた。

 扉の壁面に埋め込まれている水晶に両手を添えて妖力を注ぎ込む。


『…………たのむ』


 心からの願いだった。

 今の自分には力づくでこの扉を破るほどの妖力は残っていない。


 まぁ……。力があったとしても今でも()()()()を維持している王の間を破ることなど無理だろうがな。


 発光するわけでも、扉が動く音も聞こえない。


 ──無理か……


 ロスが諦めかけたその時、手の平に僅かに熱を感じた


「ロス! 少し……光ってる……光ってるよ!」


 ミレイの声にロスは一段と強く妖力を手の平に集めた。


『ぁ゙ぁ゙ーー!』

「ロス頑張ってーー!!」


 ロスに呼応するかのように水晶は眩しいほどに煌めき、そしてズッ……ズズッと重低音の音を出して、扉が動いた。


「うご……いた。ロス開いたよ! 」

『……良かった……』


 そう呟くとロスはポンと妖精の姿に戻ってしまった。


「ロス!」


 慌てて抱きとめるも、手の中のロスは弱々しくてミレイはヒュッと自分の息をのんだ。


『ひ……め。……あとはたのんで、いいか?』

「……大丈夫!まかせて!」


 滲み出た涙を拭って、力強く頷く。

 ロスは口元に笑みを浮かべると『……たのむ』と呟き、目を瞑ってしまった。


「ロス! ロス! 涙、私の涙のんで!」


 ミレイはロスに自分の涙を飲ませ、他の二人にも無理やり涙を飲ませるが、目立ってかわるものがない。


「なんで……なんで駄目なの〜」


 今まではこれで元気になってくれていた。今までと何が違うのかわからない。でも、ここには教えてくれる人も助けてくれる人もいない。


 ……私がやらないと!!

 私しかいないんだから……



 扉の奥に目を向けて立ち上がる。

 妖精達を手の平に乗せて、そっと室内に入ると中はとても広くて絨毯もふかふかだった。


 なんでここだけ……

 天井も……高い。ビル何階分あるんだろう……。


 上部に引かれたカーテンはヨレどころか劣化の兆しも見えない。驚くべきことに『王の間』はそのまま時が止まったかのような豪華絢爛な様子をたたえていた。

 部屋の中央には薄絹のカーテンが引かれこちらから伺うことはできない。


 きっとあそこに水龍さまが……。


 ミレイは高鳴る鼓動をそのままに駆け出し、絹のカーテンの手前で立ち止まって手をかけた。


 ここまで、ここまできた……


「みんな……やっとだよ……」


 呼吸を整えて勢いよくカーテンを開ける。


「! まぶしい」


 ──昔から龍が出てくるお話が好きだった。

 絵本や漫画、映画もいろいろ見た。友達には「男の子みたいだね」なんて言われたこともあったけど、やっぱり龍……ドラゴンの話はいくつになっても心躍るファンタジーだった。



 ……そのドラゴンが今、私の目の前に……。



 ──巨大な体に四本の足と二本の角

 口の隙間から尖った牙も見える。

 今は閉ざされてる大きな翼は空も飛べるのだろうか……。


 その翼で天を翔ける姿を見てみたい……。



「水龍……さま……」



 誰もいない部屋にミレイの言葉が響き渡った。





いつもありがとうございます!

読んで下さる皆様のお陰で80話までこれました。

ありがとうございます。


拙い文章ではありますが、モチベーションの維持にも繋がります。

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これからも宜しくお願いします!





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