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第76話 アルヒの森②



『オマえ、は……』



 白い獣の声が聞こえてきた。


「話せるってことはやっぱり瑞獣なのかな?」

『話せる……? 何を言っているのじゃ?』


 サンボウが視線は前を向けたまま不思議そうにミレイに問いかけた。


「えっ……だって……」



『ワタ……クシはオマえに……しか問いか……ケテいない』


 この頭に直接響く感じは身に覚えがある。

 でも水龍さまの時と違うのは眼の前の獣は思念体でもなければ触れてもいない。


 どういうこと……?


 じっと見つめていると白い獣はまた前脚をペロリと舐めた。よく見ると怪我は脚だけではないみたいだ。


「サンボウ、あの獣を警戒しなきゃいけないのも分かるけど。でも怪我してるし、治療させてほしいの」

『ダメじゃ』


 サンボウの返答を待たずにロスが答えた。


「……私はいろんな縁でここまでこれたのよ。

 リリスさんが私の拠り所になってくれて、ニウさん達が手を差し伸べてくれた。精霊や長も協力してくれたから、みんなでここに来れた。ここでこの子と会ったのも何かの縁かもしれないでしょ?」

『それとこれとは……』

「同じだよ。ね? ……お願い。不安ならロスが常に私の側にいて」


『…………はぁ〜。わかったのじゃ。でもアイツが不穏な空気や態度をとったら、すぐに切りかかるからな!』

「うん。ありがとう!」


 おねだり口調が効いた〜! 良かったよ〜。


 ミレイは周りにあった大きな葉をもぎ取るとカバンの中の携帯食料を水に溶いて一口食べた。


「これ食べて。何も悪いものは入ってないから。その後で怪我の手当をさせてほしいの」


『ほどこし……ナド、いらヌ!』


 また頭に響いてくる

 やっぱり私だけに話してるんだ……


「施しなんて言葉を知ってるんだね。でも今は適さない言葉かも。私はあなたを心配してるだけだし助けたいって、思うのもただの自己満足だから。

 あっ。自己満足なんて言葉しらないよね。 えっーーと、自分さえ良ければいい……? いや、その訳はどうなんだろ……」


 後半はブツブツと口の中で言うものだから肩に乗ってるロスも思わず『姫……?』と聞いてきた。


 白い獣はその様子をじっと見ると、まるで溜め息をつくように息を吐いてフッと笑い、葉の上の食事を口にした。その様子を見てミレイが嬉しそうに瞳を輝かすものだから、ロスとサンボウもそれ以上何も言えなくなってしまった。


『……ありが……とう』

「どういたしまして! それじゃ次に手当だね。この薬は腕利きの薬師さんが作ってくれたから良く効くのよ。

──南の龍湖の近くにあなたの仲間かな……。瑞獣がいるの。同じ様な白い毛に目は金色なんだけど、穏やかな空気とリーダーシップを併せ持つようなすごい人なの。

あっ、人じゃないね。ついつい自分の使い慣れた言葉を使っちゃうのよね。凄いって意味では人間より素晴らしいよ。いつか会えたらいいね」


『なにを……。ケモノとニンゲンならニンゲン……のほうがうえに……キマってる』


「そんなことないよ。あなただってこの短時間に少しずつ流暢に話せてるしでしょ? 人間の方が知能があって器用かもしれないけど、でもそれだけで種族が上とは限らないよ」


 白い獣が目を大きく見開いた。


 あれ……この瞳どこかで見た気がする。

 そう最近……


『姫……。姫はその獣と会話をしているのか?』


 ロスの戸惑う声にはっと我に返って頷いた。

『人語を操る獣など……やはり瑞獣か?』


 瑞獣は稀有な存在。そんなに多数存在してる訳ではないが会話が成立してる以上、間違いはないのだろう。


『それよりもクウも目覚めた。そろそろじゃな』

 サンボウの言葉にロスとミレイが反応した。ミレイはカバンの中から残りの食料と薬を取り出し、白い獣の前に置いた。


「これおいていくね。このまま水に入ったら駄目になっちゃうから良かったら使って」


『みずに……?』

「うん。ちょっと用事があって今から湖に入る予定なの」


 獣の目は『なぜ?』と物語っていたが、話して良いのか戸惑った。


『大事な用事なの』


 ミレイはそれだけ伝えると口元に微笑を滲ませた。


『ヤメなさい。このオク……ニンゲンはとおれない。とおれるのは龍……ゾクだけ』

「人間は通れないって良く知ってるね」


 驚きのあまりポツリと口にすると、途端にサンボウが反応した。


『何故知っている? 獣が知るべきことではない。……お前は何者じゃ』



『……ミズウミをケガすモノはゆるさない。……理由をいいナサイ』


 白い獣の言葉に音がのった。



 その声には威厳があり、森の長よりも数段、命令しなれているように思えた。


 一匹のはずなのに……?


 妖精達と視線が絡み合う


「水龍さまを起こしにいくのよ」

『姫!』


「ごめんね。でもこの子はここで湖を守っているように思えたの。それならちゃんと理由を言わないと……。普通の動物はここに入れないんでしょ?」

『……それは』


『水龍ヲ……おこす……? オマエは水龍をおこ……せるのか?』


 白い獣は目を見開き、その声は僅かに震えていた。


『水龍さまと言え、無礼者が!!』


「わからないけどね。でもやるだけやってみようと思うの。水龍さまに起きてもらわないと困る人が結構いるのよね……」


 ハハっ……と苦笑いを浮かべると、獣は『やるダケやってみる……』と独り言のように零した。


『おい!聞いているのか!? やはりお前は切り捨てる!』

「ロス! この子は暴力を振るわれるようなことは何もしてないわ。言いがかりで傷つけるような真似は絶対に止めて」


 ミレイの強い言葉にロスがたじろいだ。それを見て白い獣は目を細めて、涙を零した。


「どうしたの? 傷が痛むの?」


『……どうかワタクシも一緒にツレテいって。

 水龍……サマをおこす、きょうりょくさせて』


『…………お前は何を言っているのじゃ』


 サンボウの言葉に怒気が孕み、白い獣も『たのみ……ます』と言って頭を下げた。ミレイと妖精達は意味がわからなかった。


「……あのね。水龍さまを起こすのは凄く大変で死ぬかもしれないの。私達でさえ安全の保証はないから連れていくことなんてできないわ」


『……ケッカイがある』

『!? 何故知っているのじゃ。……本当に意味がわからん』


 サンボウが頭を振って、いら立ち気味に息を吐く。


『……もしかしたら龍族の者……なの? クウ達みたいに姿を変えた……』

『なにっ!?』


 クウの言葉に全員が息をのみ、その白い獣を見つめた。


『ワタクシ……は……』







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