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第69話 閑話



 そういえば私、かぐや姫の話はあまり好きじゃなかったな。


 はじめから月に帰ることが決まっていた姫も可哀想だけど、今まで大切にしてくれたおじいさんやおばあさん。愛してくれた人や残された人の気持ちは全部蚊帳の外な感じがして好きになれなかった。


 私ならやっぱり自分の意思を伝えて、出来るなら自分の人生は自分で決めたいかなぁ〜。


 月を見上げているみんなをそっと見ると、頑張ろうって気持ちが湧き上がってくる。



「それじゃあ、早速話をする?」


 みんなに向き直り、そう切り出した私にリリスさんが待ったをかけた。


「ミレイ、話をするのはいいけど長くなるようなら明日にしてみてはどうだい? ミレイも妖精達も濡れたままだし、森の夜は冷えるよ」


『そうねぇ〜。都合かつくなら明日に仕切り直しでどうかしら』

 ウンディーネがリリスの案を後押しした。


『私は問題ありません』

『……いいのじゃ』


 森の長と妖精達も同意したことから明日の昼過ぎにリリスの家に再集合することになった。




 家に戻ると、早速お湯に浸かり、ほっとする。

 やはり相当体が冷えていたようで、今更ながらリリスさんの提案に感謝した。妖精達はキッチンでリリスさんが洗面器にお湯を張り、簡易お風呂を作ってくれたのでひと安心だ。



 チャポン……。

 お湯に肩まで浸かりながらここ数日の日々を、思い起こす。


 きっかけは水龍さまのひと言だったけど、結果的には妖精達の本音を知ることができたから良かったのかも。でも、ここ最近で一番悩んだ日々だったな〜。



 あのまま術を行使してもらったら今頃は自分の部屋でテレビでも……。


 ──いや、もしかしたら行方不明になった現場の海の中……とか? 

 ふと思い立った想像に恐怖が湧いた。


 あり得る。

 あの妖精達はわりと大雑把なのだ……。


 着の身着のまま、いきなり夜の海に放り出されるなんて『溺死』しかおもいつかない。


 とりあえず生存確率で考えたら現状維持が正解だったのかもね。


 ハハッと一人笑ってみる。

 その時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「ミレイ、寝てないかい?」

「起きてますよ〜」

「なら良かった。あまり静かだから寝落ちしたのかと思ったよ。昨夜も寝れなかったみたいだからね〜」


 バレてる……。

 こういうところも『お母さん』を思い起こさせるのだ。


「もう出るところです」


 ……まだ可能性は捨ててない!

 大丈夫! 欲張りにいこう!



 バシャ!!

 勢いよく湯から上がり、着替えると『リリスさ〜ん。朝のミルク残ってますか〜』と甘えてみる。そんな私にリリスさんは呆れながらも「あるよ」と裏の貯蔵庫から出してきてくれた。

 日本なら冷蔵庫で冷えた紙パックの牛乳が当たり前のように飲める。キンキンに冷えた牛乳が恋しい気持ちもあるが、このちょっと温いヤギのミルクも美味しいと感じる辺り、私もこの国に馴染んできたのだろう。今はその事実だけで十分な気がした。


「みんなも飲む?」

『うむ。いただこう』

『飲むの〜』

『随分久しぶりな気がするのじゃ』


 夜遅くにカチン! とコップの触れ合う音が部屋に響いた。


 うん。みんなで囲むこの感じ、やっぱり好きだなぁ〜。


「美味しいね」

『うん、おいしいの〜』


 明日もあるし、早く寝よう。

 自分以外の寝息の音が子守唄のように心地良かった。今夜はよく寝れそうだ




 ◇  ◇  ◇




 午後になり、一番早く着いたのは森の長だった。


『我等は獣ですが、入ってもよろしいのですか?』

 玄関先で森の長がリリスさんに問いかける。


「私は産まれた時からこの森で生活し、この森に生かされてきた者です。その私が森の動物を厭うことはありませんし、森の長様なら尚更です。

 狭いですがどうぞお入り下さい」


 森の長は目を目尻を下げて微笑むと頭を下げて室内に入る。追従するのは洞窟で常に長の隣にいた狐のみで、二匹のワズの片割れは外で待機を命じられているようだった。


『精霊も到着したようですね』


 外の水場が淡く光るとそこにはウンディーネとアウローラが佇んでいた。

 出迎えたミレイは不思議な違和感を覚えた。


「……もしかして、ウンディーネは玄関から入るの初めてじゃない?」


 そう、いつも室内で前触れなく侵入してきたので、ウンディーネが玄関を通ることに違和感があったのだ。


『……たしかにそうだけど、客人に対する第一声がそれかしら』

「たしかに……。どうぞお入りください?」

『まったく』


 不満げなウンディーネとは裏腹に、アウローラは楽しそうに笑っていた。そしてニウと目が合うとニコリと微笑んだ。ニウはと言うと、美しさもさることながらその煽情的な衣服に顔どころか首まで真っ赤にして、後ろを向いてしまった。


 たしかにニウさんにはキツイかも知れない。

 でもしっかり上から下まで見る辺り、男の子だよね〜。


 そうしてリリスの家には水の上位精霊のウンディーネとアウローラ。森からは長であり、神の使いとされる瑞獣と部下の狐。そして龍王の眷属である三人妖精達。人間はミレイとリリス、そしてニウ。

 異種族のなかでも、伝承の中の存在ばかりだ。そんな上位の者達が一同に会していた。



「今更ながらすごい光景だよな」

「まったくだ。自分の家とは思えないよ。長生きするもんだね〜」

「……そうだな」


 部屋の隅でリリスとニウが遠目でこの光景を見ていた。これから南の龍湖の命運をかけた話し合いが始まる。その話の中心にいるのは、異世界から来た少しのんびりした小柄な黒髪の女の子。


 彼女が現れたことにより錆びついていた歯車が廻り始めた。

 彼女を中心にみんなが動きはじめた。

 そしてもしかしたら彼女がこの国を救う……かもしれない。



 ミレイは自分の事を『その他大勢』と言ってたけど、ニウにはそうは思えなかった。

 人を惹きつけ、人を引き寄せる。

 それは人間だけではないようで、ニウは自分が好きになった女の子が、とてつもない力を秘めているように感じた。それこそ龍王国の王妃になれるような……。


「じゃあ、はじめましょうか」


 これだけのメンツを前にして、まるで昼食を作り始めるような口調でそう切り出した。


 ……やっぱり大物かもしれない。


 ニウは密やかに溜め息を漏らした。








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