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第67話 満月の夜に



 昼間、雨を降らせた雲は姿を隠し今は月が顔を出している。雨上がりの森の中は微かな霧で潤み、辺り一面、清々しい空気が漂っていた。

 

 綺麗な満月。

 ……そういえば満月の夜に元の世界に帰るなんて、かぐや姫みたいだよね〜。

 まぁ、絶世の美女でもなければ、お迎えもないけどね。

 ははっ……っと心の中で一人ツッコミをして笑ってみる。そんな夢物語を思い出すくらい月が大きくて綺麗だった。



 ミレイと呼ばれて振り向くと、そこにはリリスさんが立っていた。


「何もなかったかい?」

「大丈夫です。獣達はワズのお陰か、全然近寄ってこないので」

「それにオレもいるんだから大丈夫だよ」


 日中、雨のなか森の長のところに出向いたかいがあった。長はミレイの話を了承すると、護衛代わりにあの二匹のワズを貸してくれた。一匹は私やニウさんと一緒に龍湖で待機し、もう一匹はリリスさんと行動を共にしている。

 ワズはやはり賢い動物のようで、こちらの言葉を理解しているようだった。


「それなら良かった。はい、夕飯だよ」

「ありがとうございます」


 みんなで早めの夕食を取っていると時折、後ろの方でカサッと、小さな乾いた音がする。夜の動物たちが息を殺してじっと私達の動向を探っているように思えた。


 後ろにいるのは野生動物だし、これはかなりスリルあるなぁ……。


 サンドウィッチを無理やりお茶で流し込む。


「それにしても、今日は動物が少ないな」

「そうなの?」

「ああ龍湖の周りは昼間も多くの動物が集まるけど、夜は夜行性の動物のナワバリになるんだ」

「良く知ってるね。夜の森は入っちゃ駄目だって言ってたのに」

「もちろん駄目だよ。オレ達は森に詳しい猟師と一緒に夜の森に入るんだ。危険だと分かっているけど、それでも何かあった時の為に知ってないといけないからな。夜の森は方向感覚さえも狂わせる」


 不測の事態に備えてってことかな?

 柴犬っぽいけど、やっぱり責任感あるよね。


「それは何となくわかるかも……。音が反響してると言うか、変な感じがするの」

「へぇ~。ミレイはカンが良いんだな。森の生活に向いてると思うよ」


 それとなく辺りを警戒していたニウがミレイを見てニカッと笑った。


「そう?」

「だからこのまま村に嫁に来いって? そんな場合ではないんだけどねぇ〜」


 ぼそりと呟いたリリスのひと言にニウは過剰に反応して「別にプロポーズじゃないからな!」と、声を上擦らせて抗議の声を上げた。


「村とはいったけどニウのところに、とは言ってないけどね」

「…………。ばあちゃん!!」

「ははっ……」


 何て言うかニウさんってやっぱり柴犬っぽいと言うか、イジられキャラになっちゃうのよね。

 カッコいいところもあるのにね〜。


 でも今はそんなニウさんとリリスさんの存在に助けられている。妖精達の説得に勝算がない訳じゃないけと、それでも昨日の夜は寝れなかったし、実は今も落ち着かない。



 その時、湖面の一部が淡い光を放ち、泡立ったと思ったらそこにはウンディーネとアウローラが佇んでいた。


『楽しそうね』

『ウンディーネ。それにアウローラも……』

『私は非常要員よ。何かあったら困るしね』

「非常要員……。やっぱり難しい術なんだね」

『あたり前でしょ。そんな術が使えるのはもうこの世界に彼らだけよ』

『…………来たわ』


 ウンディーネの視線の先にまあるい光の球が見えた。どんどん光は弱くなりパンと弾けると中から三人の妖精が姿を見せた。


『!?……姫、早かったのじゃな』


 あれから五日しか経っていないのに、久しぶりに感じる。


「うん。ちょっと話がしたくてね」

『話?』

「うん。実は私を元の世界に返そうと思った経緯と私を返す術を使ったらみんなが消えちゃうことを聞いたのよ」


『『ウンディーネ!』』

 さらりと話された内容に妖精達は驚き、側にいたウンディーネを詰問するように名を呼んだ。


「ウンディーネは悪くないよ。

 私が無理やり聞き出しただけだし、そもそも三人の考え方が両極端なのよ。だから私、ちょっと文句言いたくなっちゃった。聞いてくれるよね?」


 にっこりと綺麗に笑った私を見て、妖精達はたじろぎながらもコクリと頷いた。


「ありがと。では……コホン。

 気付いたら右も左もわからない世界に呼び出されて、やっと少し馴染んできたと思ったら、また違う国に連れて行く予定だったのよね? しかも折角知り合った人は誰もいない、連れてきた本人もいない。オマケに周りみんな人間ですらない。そんななかで大役だけ押し付けられる予定だった、と……。

 それはちょっとひどくない? 私、可哀想だと思うの」

『……それは……まぁ。たしかに』


 並べてみると確かにひどい。

 文句を言われても仕方がないと言うものだ。妖精達は居た堪れない様子で仕方なく同意する。それを見ていたアウローラは楽しそうに口元を押さえた。


「しかもこのまま向こうの世界に戻っても三人を犠牲にした罪悪感がついてまわるのよ? ただ帰るだけなのに。──私、可哀想じゃない?」


『それについては気にしなくて良いのじゃ』

『そうなの。クウ達の自業自得なの』


「私が仲の良い知り合いを犠牲にしても、面白おかしく生きていけるような人間に見える? 」

『それは思わないが……でも……』


「そう思うなら止めて。今、これからやろうとしてる術は中止にして下さい」

『なっっ!?』

『それは無理じゃ。本当に今日しかないのじゃ! 

 今日を逃したら多分……もう帰れなくなる』


 サンボウの真剣な眼差しが、誇張でもなく事実だと物語っている。


 本当にギリギリなんだ。

 このままだと、みんな死んじゃうんだ…。

 それは嫌だ!


 ──私の揺れていた心が決まった。


「偽善と思うかもしれないけど、私は自分の為に人が死ぬのはたえられないよ。

 私の事を思って、私を元の世界に返そうと考えたのなら私の意見も聞いてよ」

『しかし……』


『たしかにミレイの意見を無視するのは違う気がするわね〜』


 狼狽える妖精達にウンディーネが横槍を入れる。


『ウンディーネは黙っててくれ』

『今、大事な話をしているのじゃ!』


 ロスとサンボウの言い様にカチンときた。


「そうだよ。大事な話だよね?

 森と龍湖、そして人間達のこの先の話なんだよ。それなら口を挟んで当然だと思うのに、挟めなくしてるのは妖精達、みんなだよね? 

 ──今もそしてこの先も、居なくなる前提で話を進めないで。 私は自分の未来もみんなの未来も、そしてこの国の未来も諦めてないよ」


『諦めてないって……そんなの!』


 その場にいる全員の視線がミレイに注がれる。その目は明らかに無理だ、と物語っていた。


「知ってる? 人間は利己的で強欲な生き物なの」

 そんな視線を弾き飛ばすように、ミレイはニヤリと笑った。


「みんな、協力してもらうよ」


 不敵に笑うミレイに、ニウ達と精霊は呆然とし妖精達は身を縮こませた。


「あっ。そこに隠れてる森の長もだよ」


 みんながハッとして振り返ると、森の長である真っ白な瑞獣が木の陰からそっと出てきた。



 月は先程よりも高く昇り、帰還のタイムリミットを匂わせる。




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