第5話 妖精達の歓喜
ミレイは微睡みの中にいた
なんだろぅ…… 何かきこえる
『……』
『……』
知らない ことば?
どこか……なつかしいような気も……する……
ふわりと意識はまた遠のいていった
──その頃、光る物体はというと「姫を泣かせよう作戦」の会議中だった。
ミレイが聞いていたら「さっき出陣したんじゃないの」とツッコミが入りそうだ。
『それでどうするんじゃ? 』
『一つ目の案。つんつん作戦は失敗だった』
『二つ目のこそこそ話作戦も失敗したのじゃ』
『うむ。危うく姫の手の平で潰されるところじゃった』
『……怖かったの』
『確かに怖かった。しかし諦めるな! 姫も我等を待っているのじゃ。頑張ろうではないか! 』
『……わかったの。頑張るの! 弱気になってごめんなの』
『大丈夫みな同じじゃ。
よし司令官! 次の作戦を教えてくれ』
『……しれいかん? とは……なんじゃ? 』
『司令官は司令官じゃ』
『うむ? わかった。
最後の案は──こしょこしょ作戦じゃ! 』
『それはなんじゃ? 』
『姫がくすぐったい! と思うような場所を一生懸命くすぐるのじゃ』
『それで泣かすの? 』
『そうじゃ』
『よし。皆でやるぞ! 』
『おー! 』
『姫を泣かすぞー! 』
『おー!! 』
作戦の質とは別に士気は上がっていった。
それぞれが所定の位置に移動し、即席司令官からの合図を待った。残りの二人が固唾を飲むなか、小さな手が上から下に振り下ろされた。合図である。
手の平 膝の裏 髪の毛の隙間
こしょこしょ。 こしょこしょ。 こしょこしょ。
「なーに。もぅ虫がいる……」
手で払い除ける動作をして、体勢を変える。
『虫じゃと?! 』
『我等を虫扱いとは嘆かわしい』
『皆のものー! 』
遠慮はいらぬ、全力こしょこしょじゃー! 』
司令官からの命令は絶対である。
『姫を泣かせるのじゃー! 』
今度はみんなで足の裏をくすぐる。
「何これ、くすぐったい。やめて〜」
いい加減、目も覚めた。
どうやら小さな虫が近くにいるらしい。足の裏かと思えば、今度は耳の後ろがくすぐったい。
『あとひと息じゃー! 』
『気合なのー! 』
思わずケラケラ笑ってしまう。
その時、ミレイの目尻から涙がひと粒……ふた粒と滲み出てきた。
『やった! 姫の涙じゃ!! 』
『涙じゃー! 』
『すくうのー』
喋る光る物体は目元を目指して飛びだした。
そして小さなスプーンを取り出し、そっと涙をすくった。コクリと飲み込むと、体の周りの光が徐々に薄れ、収縮し、最後には己の内に消えていった。
ミレイは眩しいと感じて瞬間的に眼を閉じた。
「──何、いきなり。……え。にん……ぎょう? 」
次にゆっくりと目を開いた瞬間、おかしな物が視えた。
『!! 』
『……見えているのか? 』
『見えてるぞ! 』
『成功なのー! 』
人形だと思っていたら、突如動きだした。
眼の前で宙に浮かんで喋りだし、おまけに抱擁まで始めた。
「何これ、人形が喋ってる? え……。どこから出てきたの? 」
いきなりの出来事に理解が追いつかない。
咄嗟にソファーから飛び起き、距離をとった。
反動でソファーの上にぺちゃっと落ちた「それら」は、互いに支え合いながらソファーの上に起き上がった。
小人……?かしら。三体……三人?
『よかったの〜』
『うむ。長かった』
『ようやく水姫様が我らのもとに……』
今度はお互いに肩を叩き合いながら泣いている。
なんだ……これは?
「えっ。どういう状況? 」
困惑している私を見て小人達? は挨拶を始めた。
『はじめまして、なのじゃ水姫様』
『なのじゃ』
『会いたかったの〜! 』
そんな満面の笑みで言われても……。
とりあえず、こちらの質問にも答えて欲しい。