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第57話 無鉄砲の収穫②

一部強い言葉を使っています。

不快に思われるようでしたら御遠慮ください。

せっかく来て頂いたのにすみません。



 ここは……どこ……。まっくら



 ゆっくり目を開けると、目の前には綺麗な女の子と

 あれは……水龍さま?



 あ〜……そうか。あの子が水姫。

 水龍さまの婚約者だった子……。


 水龍さまが女の子の手に腕輪を嵌めて何か言ってる。

 優しくの髪を撫でると女の子は頬を染めて俯いた。


 仲睦まじい姿の二人

 水龍さま……あんな風に笑うんだ



 なんか見たくないな……。


 そう思って無意識に目を逸らして瞬きをする。

 するとそこは夜の森だった。



『本当に水龍さまのところに嫁に行くのか?』


 粗粗しい男の声だ。


『だって私は水姫だから……。

 私が水龍さまに嫁げば村は安泰なんだって』

『そんなのおかしいだろ!? 俺と来い!』

『無理よ。龍族はとっても強いし、水龍さまは全ての水を操る御方なのよ』

『そんなこと言って、本当はあいつの顔が好きなんだろ?』

『そっ……そんなことっ!』

『現に俺にその身を委ねておきながら、水龍にも猫撫で声で話しかけてるじゃねぇか』

『あっ……あれは仕方無くよ……。私は水姫だから』


『嘘付け! うっとりした顔しやがって!

 まぁ、結婚すれば龍族のトップの女だ。贅沢三昧できるもんなぁ〜。でもな、言っておくがあの姿は仮の姿だからな。本当の水龍は龍の姿をしてるんだ。

 ──そうさ。巨大な龍は口を開ければ鋭い牙にヨダレを滴らせてるだろうな。金色の目は常にギョロギョロとお前を監視してるぞ』

『そっ……そんな。でも……』


 女の顔が青ざめていくのがわかる。


『当たり前だろ。所詮、お前は人間だ。便利に使われて捨てられるに決まってる。

 それとも何か!? 人の尊厳を捨ててまで()()()()()()の嫁になりたいのか? お前なんてただの生贄のくせに』

『…………いけにえ』


 引き攣る女の顔を眺める男の顔は、舌なめずりでもしそうなくらい嗜虐心に溢れていた。


 何よ……。あれの何処に惚れたの!?

 あの男の顔は、好きな女を心配する顔でも引き止めたい顔でもないでしょう!? 気持ちが悪い……。



 見ていたくなくて、目を瞑る。


 ──いい加減わかってきた。

 これは腕輪の記憶で、あの日の前後の記憶なのだろう……。そして私が見たくないと目を瞑れば、次の映像にスキャンされていく。



 次の映像は、もしかして……。



 陽が煌めく、湖のほとり。

 湖畔には大勢の村人と騎士、文官がごった返していた。


 ……おそらくここは南の龍湖。



 桟橋の上に立つのは白い衣を纏い、綺麗に整えられた水姫。でもその顔は浮かない様子だった。


 ひとつ前の映像で頬を赤らめていた女と同一人物とは思えないわね。



 徐々に湖の水が渦を巻き、湖面が光輝いていく。


 なんて力!?

 昔の映像なのに……その場に居合わせたような圧を感じる。


 村人は平伏し、騎士や文官は跪き頭を垂れる。

 湖の中央に現れたのは豪奢な正装に身を包んだ水龍さまだった。

 マントを翻して水面を滑るように棧橋の水姫のところまで移動すると、見惚れていた水姫は頬を綻ばせた。水龍さまと言葉を交わしていくうちに、その顔は険しくなっていく。

 そして水姫の要望に今度は周りの文官や騎士が慌て出した。


 何だろう……。

 音、聞こえないのかな……


『無礼者!』


 あっ……聞こえてきた……。


『龍王陛下の本来の御姿だと!? 

 通常は宮殿で祭事の時のみ、限られた者のみ拝謁を可能としているのだ。それを人間がお目にかかれると──』

『よい』

『陛下!?』


 周りに動揺が広がり、村の上役らしき人まで真っ青な顔で水姫を嗜めていた。


『姫は私の伴侶となる者。その者の望みは可能な範囲で叶えてやりたいと思う』

『しかし陛下!?』

『大きさはもちろん変える。周囲の影響もあるし、人間は動揺するだろうからな』


 必死に止めている文官の一人に見覚えがあった。

 あれは……サンボウ?


『…………騎士団! 周囲に結界を張って下さい。外の者に龍王陛下の御姿を晒すことの無いよう、至急!!』


『村人達にも守護結界を張れ。私の圧に触れれば、死者も出るかもしれん』

『………承知しました』



 水が蠢き、天高く舞い上がると水龍さまの体に錦糸のような水の糸が球状に覆っていき、どんどん大きくなっていく。見上げるほどの大きさにの球体になった時、突如決壊し、なかから現れたのは……巨大な青銀色の龍だった。


 龍だ……。

 ……きれい……。


 青銀色の鱗に覆われ、背には二枚の翼。閉じた瞳が開かれると金色の眼が他者を射抜く。


『ばっ。ばけものーー!』

『逃げろーー! 喰われるぞ!』


 村人は恐れ慄き、その場で失神する者や慌てふためいて逃げ惑う者で湖畔は混乱していた。桟橋の上の水姫は、その場にへたり込み、ただ上を見上げていた。


『…………水ひめ?』


 その巨体から発したとは思えないほど、小さな声で女を呼んだ。


『………………バケモノ』

『!?』

『……化け物! 私を騙してたのね!?

 獣の嫁なんて嫌よ。私は生け贄なんてなるもんですか! 

 ……私は人間がいいわ!』


 それだけ言い残すと、水姫は踵を返して森の中に走って行った。



 後には無音の静寂…………。



『すみませんでした!』


 それを打ち破ったのは、額を地面に擦り付けて土下座で謝る夫婦だった。身綺麗な格好をしているところを見ると、おそらく水姫の親だろう。


『すぐに! すぐに連れ戻しますので、どうかどうか……』


 カタカタと震える父親。

 ようやく現状を理解した龍族は怒りに震え、村人を罵り、騎士団は水姫を追走した。

 水姫の親族は村人によって捕らえられ、村人もまた水姫を探しに森に入っていき、邪魔をするものは龍族によって切り捨てられた。


 これは……戦。

 血しぶきが舞い、悲鳴が上がる。

 阿鼻叫喚とはこういう事を言うのだろうか……と


『……やめろ』


 静かな声。


『しかし陛下!!』

『……それも事実だ。いくら力が有ろうとも心を従わせることはできない。絶対的な強者は()()をしてはならないのだ』

『しかし!?』


 水龍さまは人型に戻り、そのまま湖の中に消えていった。



 水龍さま……傷付いた顔してた……。

 本当に水姫のこと好きだったんだ……。



 心が痛くて、痛くて……涙が滲む。

 水龍さま……。



 そっと開いた目と耳を抑え込んでしまえば良かったと、後悔した。



 大きな岩の裏手だろうか、水姫と一人の老婆がいた。


『なんなのよ! ほんとに化け物だった。

 あの顔に騙されるところだった!』

『水姫様。化け物などと……。水龍さまの恩恵を受けているからこそ、この村は栄えているのですよ』

『そんなこと知ってるわよ! でも化け物は化け物よ!』


 ビリッ。 ビリビリッーー!


『キャーー!』

『水姫様!?』

『痛っい……。なんかビリビリして……もしかしてこの腕輪……? なんなのよこれ。気持ち悪い!』


 カランカラン……

 地面に叩きつけられた宝珠。


『なんてことを! これは龍族の宝と聞いています。粗末に扱ってはバチがあたります』

『そんな腕輪いらないわ。水姫の目印じゃない! 

 そうよ。……これ壊しといて』

『…………こわす?』

『ええ。こんなの付けてたら見つかっちゃうわ!』

『そんなこと……無礼にも程がありますよ!』


『うるさい! 薬師ごときが私に口答えしないで!

 私は水姫なのよ!? 水龍さまと結婚してこの世で一番の女になるところだったのよ!? そしたらもう、誰も女のクセになんて言えなくなるの……。馬鹿にされずに済むの!

 ……ヴードォの話なんて聞かなければ良かった。そしたら私は私は……』


 泣きじゃくる水姫の肩を老婆はそっと抱きしめた。


『最近会っていたあの男ですね? 

 あの男はどこに……?』

『知らないわよ。待ち合わせ場所に行ってもいなかった……』

『…………そうですか』


『……ネイさま。お逃げ下さい。ここはわかりづらいといえど追手がくるでしょう。龍族の方々を欺くことなどできません。この腕輪はこのばばが預かりますから』


 柔らかく微笑んだ老婆の笑みに、水姫の涙が止めどなく流れる。


『ごめんなさい。ひどい事言ってごめんなさい。

 それに私、とんでもない事しちゃった……どうしよう。 

 あんなこと言うつもりなかったの。

 水龍さまの姿が怖くて、怖くて……。優しい方だって知ってたのに……。

 ──でも私、本当は龍族になんてなりたくなかったの。贅沢はしたいけど王妃なんて……。でも断れなくて……。

 私は人間でいたかったの。この村に居たかったの〜』


 今更ながら、ことの重大さに顔面蒼白となり水姫の心の内が溢れ落ちる。

 老婆は泣きじゃくる水姫をギュッと強く抱きしめると、強引に引き剥がした。


『逃げなさい』


 その言葉を最後に水姫は暗い森のなかに消えていった。



 あ〜……そうか。水姫もまた翻弄された人の一人だったんだ……。辛いね……。



 それにしてもまだ続くの? 

 もう、いい加減しんどいよ……。

 以前、妖精達が話していた三部作の話の一部なんだろうけど……。当人達の話も重かったけど、映像付きだともっときついよ……。

 もう勘弁してほしいなぁ。



 恐るおそる目を開けた時は、もう暗闇だった。


 おわった……の!?




 ふーー。体の力が抜けていく。

 良かった……。



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