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第55話 無鉄砲のはじまり③

 




 その頃、龍湖ではちょっとした騒ぎになっていた。



 ウンディーネが龍湖に戻ったところで、下位の精霊からミレイとアウローラの話を聞いた。何故止めなかったの、と話をしていた所にロスがミレイを探しに湖まで来たのだ。



『ウンディーネよ。姫を知っているか?』

『……知っている、と言うのかしら』

『どういう意味だ』

『行先は知ってるけど、経緯と現状は知らないってことよ。あと、何かあっても責任とらないわよ』


 湖上で宙に浮かびながら足を組む。しかし多少の後ろめたさからか、フイと横を向いて責任の所在を誤魔化した。


『何かってなんじゃ!? 姫に何かあったのか?』

『知らないわよ。大体、なんでミレイが一人でフラフラしてるのよ』

『そっ。それは……』


 実は食事の後に軽い気持ちで座ったら、そのまま寝てしまい、ミレイが出ていったことに気づかなかったのだ。慌てて家の中を探し回ったら机の上に書き置きが一枚。


『──湖に行ってきます ミレイ』


 慌てて湖に向かったら、ウンディーネも声を荒げている最中だったのだ。



『そっ、それよりも姫の行先はどこじゃ?』

『…………森の最奥』

『…………はぁ!?』

『ワズ二匹に案内させて、アウローラと向かったらしいわ』

『…………はぁぁ〜!? 何でじゃ!?』

『そんなの私が知るわけないでしょ!? 

 ……ただ最初は私の名を湖に向かって叫んでいたらしいから、私の変わりにアウローラが付いて行ったんでしょうね』

『……なんてことだ』


 頭を抱えるロスにウンディーネは『一人よりましでしょ。どうするの?』と尋ねると、ロスは『そんなの決まってる。助けに行く!』と森の奥を見遣った


『連れ去られたワケじゃないから、助けに行くが正しいとも思えないけど……』


 ウンディーネの言葉も聞かず、ロスは森の奥をめがけて飛び出した。



 ◇  ◇  ◇



 洞窟の中こうなってるんだぁ~。

 すごい。どうやって堀ったんだろう。


 案内された洞窟の中は人間のミレイには少し狭く感じるが、中は整えられていて、野生動物の住処とは思えないほど綺麗に保たれている。


「すごい……」


 辺りをキョロキョロと眺める、少し落ち着きのない女を瑞獣である森の(おさ)は冷ややかに眺めていた。


 コレが水姫?

 あの難癖揃いの眷属を従わせる者?

 ましてや……。


 長はミレイの肩に座っている小さな少女に目を向けた。


『貴女が水姫様ですか?

 眷属だけでなく、水の上位精霊も従えるとは驚きました。なかなか(したた)かなようですね』

「……」


 順調に森の長に会え、さらに住処である洞窟内まで入れて貰えたことで、少しテンションが上がっていたミレイには、美しい瑞獣の言葉を理解するのに僅かな時間を要した。

 

 いち早く意味を理解したアウローラの声音が変わる。

 

『……は?』


 長の柔らかい口調に、スルーしそうになったが発した内容はなかなか好戦的だった。 


『誰が従ってるって言うの?』

『貴女ですよ。水の上位精霊アウローラ』

『ふざけないで』


 アウローラが元の姿に戻り、洞窟内に水の気配を感じる。


 駄目! こんな洞窟で水を使われたらみんな溺れちゃう。


「あの。森の長。

 アウローラさんは私に従ってる理由じゃありません。今回は威圧係として同行してもらっただけです」

 

『いあつ……かかり?』


 森の長は初めて聞く言葉に、拍子抜けした声で復唱した。対してアウローラは憤り、ミレイに抗議する。


『ミレイ、貴女ね。それはダサイからやめてって言ったでしょ!?』

「あっ、ごめんなさい。……でも事実でしょ?」


 ミレイは口元を緩ませたまま、アウローラから森の長に向き直る。


「私は水姫と言われていますが、少し傷が治せるくらいで水を操ることはできませんし、妖精達は私を慕ってくれているだけで従ってる訳ではありません。

 精霊については……まだよくわかりません」

『よくわからないって、貴方ね〜』


 不満気なアウローラに

「だって二回しか会ってないのに、その人の性格も真意も解るわけないじゃないですか〜。でも、心配してくれてるのかな〜って言うのは、何となく解りますよ」そう言って笑って見せる。


『心配なんてしてるわけ無いでしょ!? 

 ただの…………好奇心よ』


「それでも、心細かったから嬉しいです。

 ただ……アウローラさん。私は争うつもりは無いって言いましたよね?」


 その目は非難の色を孕んでおり、先程の臨戦態勢を指していることは明らかだった。


「……まぁ。森の長の歓迎の仕方にも物申したい気持ちはありますからね。

 それぞれ種族も年も違うから仕方ないだろうけど、これから先の話し合いは互いに相手を尊重することを望みます」


 意図的にニコっと笑うと、長の隣にいた獣達が唸り声を上げた。言葉はわからないが怒りは伝わってくる。


 人間なら「ふざけるな。何様だ!」ってところかしら? でも不思議と怖くないわ……。


 ミレイは唸り声に動揺もせずに、獣の目を射抜くように睨みつける。


「自分の懐に相手を招くと言うことは、少しは話し合う気持ちがあるという意思表示。──思惑は別としてね……。

 それをあなた達は邪魔するんですか?

 それはあなた達の(あるじ)が話し合いも出来ない狭量だと言ってるようなものですが……良いですか?」


 抗議の唸り声を上げた獣達は狼狽え、長を見た。

 長は目を瞑ってフッと笑うと『お前達は黙っていなさい』と一括した。


『へぇ〜。意外とやるじゃない』


 アウローラに褒められたのが嬉しくて、ついつい胸を叩いて、得意げな顔をしてしまう。


「人間なら大人ですから! 少しは交渉術や腹の探り合いくらいできますよ!」

『その顔が無ければクールなのにね〜。残念』



『……でも少なくとも貴女は、そんな彼女だからここまで来たのでは?』


 アウローラの隣に移動した森の長が、小さな声で語りかけた。


『……何のこと』

『この場は水の精霊には不利ですよね』

『上位精霊なら水を呼ぶことだってできるのよ』

『……まあそうですが。そういうことにしておきましょうか』


 森の長はほくそ笑みながらそれだけ言うと、ミレイの前まで進み、その夜の瞳のような黒い瞳を見つめた。


『たしかに少し好戦的な歓迎だったかもしれませんね。

 ──ところで、話とはなんですか?』


『あら。今度は直球ね。手のひら返しで対応を変えるのは不誠実じゃないかしら? それとも獣なだけに尻尾を振るのが得意なのかしら? 』


 クスリと笑うアウローラに森の長も黙っていない。


『……臨機応変と言って頂きたいものです。 

 長たる者は状況を素早く見極めないといけないのです。ただの精霊にはわからないと思いますが……』 


『へぇ~……』


 部屋の空気がまた変わる。

 しかし慣れたと言わんばかりに制しの声が届いた。……ミレイだ。


「アウローラ」


 ミレイが少し音を下げて名前を呼ぶ。

 僅かに加熱した二人の会話を止めるには、そのひと言で十分だった。


『……なんで私だけ……』


 少し不貞腐れた様子に『最初に振ったのはアウローラでしょ?』と言うと『まあね〜』と返してくる。


 精霊は素直な存在なのかもしれない。

 そう思うと、可愛らしく思えてくる。しかしいい加減本題に入らないと!


 ミレイは森の長に向き直ると「改めまして、お話をさせて下さい」と伝えた。


『私に答えられることであれば……』

「先日、妖精が宝珠の件でこちらに伺いましたよね。今日はその件で来ました。

 あと、私は腹の探り合いをするつもりはありません」


 長とアウローラは目を見開くと、自然と互いに視線を交わした。


『……わかりました。それで私に聞きたい事とは?』

「腕輪を譲る代わりに代替品を……と言う話をされたと聞いています。そこで森の長としては代替品に()()()()()とは何ですか?」


『…………それを探して下さい、と眷属の方に伝えたのですが?』


「はい、聞いています。でも宝珠の代わりになる物など無いと困っています。

 そこで妖精達と同じように長い時間を過ごして、腕輪と共に生きてきた森の長なら、思いつく物もあるかもしれないと思って、相談しに来ました」

『……ミレイ、貴女随分バカ正直なのね』


 アウローラの声と表情は呆れたものだった。


「だって水龍さまを目覚めさせるのは、妖精達の希望かも知れませんが、結局のところ水龍さまが目覚めないと湖もこの森も引いてはこの国全体も困るんですよね? なら協力して知恵を出し合うべきでしょう?」


『『…………』』


「──私は腹芸一つできない甘ちゃんかもしれません。私の言葉は届かなくてもいいです。

 でも彼等の苦しみとこれまでの努力と献身までゼロにしないで下さい! 私以上に皆さんの方が知ってるはずです。ずっと感じてきたはずです。

 ……お願いします」


『『…………』』


 やっぱり無理かな。

 たかだか20年くらいしか生きてない人間の言葉なんて届かないのかな。



 悔しくて、胸の内から言葉が零れた。



 「…………それで本当に護りたいものが、護れるんですか?」


『!? ……護りたいもの……』


 長の心に去来するものがあった。


 たしかに私は()()()()()眷族の方々の働きを……。


 眷属と言えば、昔は全ての者の憧れのような存在だったと言う。

 私の母も、祖母も、龍王陛下と眷属の方々は、雲の上のような存在だと言っていた。でもその恩恵でこの森も動物も護られているのだと……。

 そして龍王陛下が眠りにつかれてからは、その眷属の方が身を粉にして龍湖の浄化に努めてくれた。

 ──神の使いと言われようと、森の長と言われようと所詮はただの獣。その獣に頭を下げて敬意を表してくれた。その姿勢こそ正に『龍王の眷属』だった。



 『ずっと穴ぐらに身を置いていると、視野が狭くなって駄目ですね……。大切なことを忘れていました』


 自分達こそ護られていたのだと。

 私が護りたいもの全部、ずっと護ってもらっていたのだと……。



『水姫さま。これからの森の為に、話し合いをさせて下さい』


「もちろんです! ありがとう!」


ミレイは嬉しさのあまり長の首に抱きついた。



 伝わった。伝わったよ〜。

 これでなにか見つかれば、サンボウを残して行かなくてすむかもしれない。


 ミレイの目尻から涙が零れた。




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