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第54話 無鉄砲のはじまり②



 あれから私の行動は早く、そしてスムーズだったと言えるだろう。


 現在地は森の最奥。

 森の長の住み家がある場所の手前まで来ている。



 クーン クーン


 二匹のワズが私の隣で不安そうに鳴いている。

 こうして見ていると、出逢った当初の恐怖が嘘のように思えてくる。

あの時はそんなつもりで 助けた理由では無かったけど、今となってはこの義理堅い二匹のワズに感謝しかない。

 

「大丈夫だよ。ここまで案内ありがとね」


 動物用のクッキーを地面に置くと、二匹のワズは匂いを嗅いでそのまま咥えた。躊躇いがちに途中で振り返る様子が可愛くて野生動物には見えない。


「大丈夫。貴方達の長に危害は加えないわ」

 安心させるように微笑むとワズは走って行った。


 ワズ 意外とかわいい……。


 キュンとしてる私の肩の上で、小さな女の子が不機嫌そうに大きな独り言を呟いた。


『何をもって、大丈夫なんて言えるのかしら』


 女の子の正体は小さくなった上位精霊のアウローラだ。尊大な態度も彼女によく似合う。


「ははっ……」

 自覚があるだけに から笑いしか出てこない。

 


 ──そもそも何でこんな意外なメンツでこの場所に来たかと言うと、全てはミレイの思いつきだった。


『はっきり言って無謀すぎるわ〜』

「一応、プランは練ってきましたけど……」

『行き当たりばったりをプランとは言わないのよ』

「それについては反論しにくいかも……」



 そう。ミレイは代替品を探す為、森の長に会いにきた。


 でも道は知らない。

 なら知ってる人(獣?)を探して案内してもらおう、と思って湖に来たら、運良く馴染みのあるワズがいた。そこで案内獣(?)をゲットできたのだ。


 ほんとラッキーだったなぁ〜。

 森の長に会いたい……っ伝えた時も意図を汲み取ってくれたし、ワズって賢い動物だよね。



『ウンディーネの名前をあんな軽々しく連呼してる人間も初めてだわ』

「それについてはごめんなさい。

 森の奥は猛獣ばかりって聞いていたので、威圧してくれる人がいると心強いな〜と思ったんです」

『だからそれが変なのよ!? 

 水の上位精霊を威圧するためだけに呼ぶとか、ありえないからね!? 

 ……そもそも普通、人間は精霊なんて 怖がるものよ? 』

「なんで? みんな怖くないですよ?」


 心底不思議そうな顔で聞いてくるので、アウローラの方がたじろいでしまった。


『……人間は得体の知れないものを排除したがるでしょう?』

「……たしかに」

『認めちゃうんだ』

「みんながそうじゃないけど、でもそれも事実だから」


 デリケートな問いにミレイも苦笑で答えるしかなかった。


「………元の世界では精霊や妖精はファンタジーの世界の生き物だし、龍は昔からいろんなお話があるけど、結局、空想上の生き物だったんです。

 でもこっちの世界に来て、交流して思うのは……みんな優しいなって。今だってアウローラは来てくれましたよね?」


 ニコっと笑いかけると不機嫌そうに

『簡単に会えるわけない森の長に会いに行くなんていうからよ。案内だってワズに頼むって……ほ〜んと意味わからないわ。まぁ、おもしろいけどね』

 

 そう言って、肩から離れた精霊に祈るようなポーズてお礼を伝える。


「威圧係ありがとうございます! ほんとに心強くて助かります!」


『威圧係!? なにそのダサいネーミング』

「ダサいですか?」

『ダサいわよ。私は水の上位精霊アウローラなのよ!?』


 胸を張って言い募るも、小さな女の子の姿ではただ愛らしいだけだった。

 改めてプリプリ怒る精霊を肩に乗せて、明るい方に歩いていくと、鬱蒼とした森から開けた場所に出る。

 前方には重厚な巨岩が視界の大半を占めていたが、剣呑な雰囲気の唸り声に、否が応でも反応してしまう。



「すごい……威嚇されてる」 

『私は意外と冷静なミレイにびっくりよ。

 ……妖精達に声を掛けなかったこと、後悔してるんじゃないの〜? 』


 からかうような声が肩口から聞こえてくる。


「う〜ん。怖くないって言ったら嘘になりますけど……。意外と大丈夫……かも?」

『へぇ? 見かけに寄らず肝が座ってるのね』


 いくら水姫といえど、温室育ちの異界の娘など野生動物の前では泣き出すだろうと思っていただけに、アウローラは驚きを隠せないでいた。


「なんとなく……本気で排除しようしてないかなって」

『…………』

「違いました?」


 動物から目を逸らさずにアウローラに問いかけると、アウローラは目を見開いてじっとミレイを見つめている。


『ふ〜ん。でも油断はしないことね。

 湖でも言ったけど、貴方は争うつもりはなくても、相手も同じとは限らないんだからね!?』

「はい」


 この後の動きをどうしようか考えていたところで、

そびえ立つ巨岩から白い動物が出てきた。


「わ〜……。きれい……」


 目の前の獣は野生動物のはずなのに、とてもそうとは思えなかった。

 その美しさや伴う品の良さは、まるでプロが手入れをしているような美しさだった。でも漂うオーラは人に飼われるようなものでは無い。


『貴女は……』

「あっ。はじめまして、私はミレイと言います」


 自己紹介をしてぺこりと頭を下げる。

 しかしその後は沈黙だけが流れたので、見かねたアウローラが助け舟を出した。


『妖精達が保護してる水姫よ。名はミレイ。異界の姫よ』


『…………私は瑞獣。この森の長をしている』 


「やっぱり! 綺麗だしオーラがあるからそうかな、と思ったの」


 パンと手を叩いて朗らかに笑うミレイを森の長は注意深く観察する。


『……何か用ですか? ワズに案内までさせてくるとは……』


「はい。森の長にお聞きしたいことがあってきました。争うつもりで来たのではありません」


互いの視線を交わらせて、ミレイが真剣に話しかけると、長は岩の奥に誘い入れてくれた。


『しんじられない』

 あとにはアウローラの声が溢れおちた。




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