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第51話 水姫と宝珠①



『姫、おかえり〜。大丈夫?』


 湖畔に上がるとみんなが心配そうに寄ってきた。

 大丈夫だよと、答えながらも私の頭の中では先程の会話がリフレインしていた。



 ──このままだと遠からず死ぬぞ



『姫、顔色が悪いのじゃ』

『いつもより長く潜っていたからな、体が冷えたのかも知れん』


「大丈夫だよ。大袈裟だなぁ」


 私はウエットスーツを脱ぐと、解放感からその場に座り込んだ。


『姫、温かいお茶なの』


 ありがとうとひと口飲むと、その温かさにホッとした。

 「今日は会えたよ」と伝えると、妖精達は嬉しそうに笑った。


「あとね、水龍さまがイヤリングを貸してくれたの。護りになるだろうって」


 そう言って右の耳に触れると、真珠のような感触が手に伝わる。


『……我等に見ることは叶わないが、確かに水龍さまの気を感じるのじゃ』

『うん。……感じるの』

「えっ。見れないの?」

『水龍さまは思念体なのじゃろう? ならば地上でその御姿や品を見ることは叶わないのじゃ』

「……そう……なんだ」


 これで彼等も水龍さまとの繋がりを感じられると思っていただけに、私はがっかりしてしまった。


『姫、ありがとう。姫が諦めずに何度も潜ってくれたから、こうして王を間近に感じることができたの』


 クウの言葉に二人も頷いている。

 私はその様子を見ていたら、具現化することはそれほど重要ではないんだ、と気がついた。ならば私の返す言葉はひとつだけだ。


「どういたしまして」


 湖畔にみんなの笑顔がキラキラと映し出されていた。



 ◇  ◇  ◇



 その夜、夕食の片付けをしながら今後はどうするのか、という話になった。



「森の長に腕輪を譲ってもらうのはどうなったんだい?」

 リリスさんがお茶の準備をしながら投げかける。


『うむ。それはな……』


 サンボウが言葉を選んでいるように見えたので「ホウレンソウは大事だよ」と、お皿をしまいながら口にすると「ホウレンソウ?」と、ハモリ声が部屋に響いた。


「ホウレンソウは私の国の言葉で、ホウ、報告。レン、連絡。ソウ、相談の意味だよ。

 仕事を進めるうえで、周りや上の立場の人と内容をシェアしましょう、って考え方なの」

「それはいいことだね」

「でしょ?!」


 本当は妖精達から話してくれたら良かったけど、教えてれる気配が無いのよね〜。まぁ。重そうな話の予感はするけどね……。


 私か心の中で苦笑しながら、リリスさんと妖精達に目を向けると、サンボウとクウは顔を見合わせてコクリと頷いた。


『わかった、説明しよう。それに正直、行き詰まっていたのも事実じゃ』


 サンボウは苦笑いをしながら先日、森の長を訪れた時のことを話してくれた。


「代替品とはね……」

 リリスさんはお茶を飲みながら、想像とは違う展開に次の言葉が見つからない様子だった。


『そうなのじゃ。宝珠の変わりなど存在しない、あれは龍族にとっても宝なのじゃ』


「どうしたんだい。ミレイ?」

 黙ってる私にリリスさんが問いかけると、みんなの視線が集まる。


「そもそもなんで宝珠が必要なの?

 宝珠の役割ってなあに?」


『……そうだな。ひとつひとつ話していこう』

 サンボウは残る二人にちらりと視線を投げかけると、微かに微笑んだ。


『宝珠とは龍王国から水姫に貸し出す宝具のことを言うのじゃ。もちろんただの装飾品ではなく、この真ん中の珠に特別な力が込められている』


 サンボウが指輪を外し、人間のサイズまで大きくしてくれたのでリリスさんにも見やすくなった。


『昔はいくつかあったが、現存する宝珠はこの指輪と森にある腕輪のみじゃ。

 それで何の為に必要かと言うと、龍王国には人間には通れない結界が張ってあり、龍と人の混血である水姫が結界を通るには宝珠がないと通れないのじゃ。

 解りやすく言うと通行証みたいな物じゃな』

「宝珠が通行証なの? 豪華だね」


『ふふっ、そうじゃな』

「その話しぶりだと宝珠は水姫の為に作ったのかな。……なんで?」


 私には違和感があった。

 精霊から昔、諍いがあったと聞いていたのに、人間の水姫のために宝珠を作るだろうか、と……。


『昔、人間と龍族の間に諍いがあったことは、精霊に聞いたと言っていたな。……王国全体に結界を張り、人間を拒絶することで当時の王は国と民を守っていた。

 その後、和解してからは「龍湖」を起点として龍族も人の世に出向き、混じわり、なかには人との縁を結ぶ者もいた。しかし龍と人の間に産まれた子供の中には、龍族とは異なる力を持つ者が現れたのだ』

「異なる力?」


 これは初耳だ……。


『姫もそうじゃろう? 姫のように人間ではありえない力を持つ者じゃ。連続する場合もあれば、何代も経て覚醒する者もいる。……覚醒遺伝というやつだな。 

 能力は個々によるものらしく、 過去には水を氷に変える者や植物を操る者もいたらしい』

「それはすごいね……」


 植物を操るとか普通にファンタジーで驚いた。


『姫の癒やしの力の方がすごいの』

 クウが苦笑いをしてるところを見ると、私の力は稀らしい。


『まあ、もともと「姫」の一族は高位龍族との混血だからな。しかし、その力を恐れた当時の龍族は、駆除と共存で多いに揉めたらしい。しかし時の王は「異質な力を持っているお前の子供は危険だから殺す、と言われて、(だく)と言えるのか?」と官僚達に問い、黙らせたと伝え聞いている。

 あとは折衷案として、その子供と家族を監視対象とすることで落ち着かせたのじゃ』


『当時は人との諍いを避ける王を臆病者と謗る者もいたらしいけど、愚か者の極みなの』


 クウの表情は険しいものだった。でもその気持ちは解る気がする。


 ──おそらくその子供や家族を守り、その力を悪用させないため、なんだろうな。 

 でも奪える力はあるのにその力を振り翳さず、平和の道を選んだ当時の王様に私も好感が持てた。


 ロスがテーブルの上にあぐらをかきながら、先を続けた。


『その後、史実によると、その()()()()で龍王国は国難を逃れることがあったという。そうして駆除の対象だった、龍と人の子供は「姫」という名を付け、見守りの対象と変わったのじゃ』


「そんな歴史があったんだね」


 リリスさんも驚きを隠せないようで聞き入っていた。サンボウは『龍族側の歴史だからの』と複雑な表情で告げると、お茶を飲んだ。


『話を戻すとな。

 ……王国に入国資格を得られるのは姫の中でも、力のある水姫のみ、としている。その水姫の中から更に選別して、国と王が許可した者が龍王国に入ることができるのじゃ。そしてその証が……』

「……宝珠?」

『その通り』

「……そうなんだ。

 それにしても話を聞くと、本当に一握りの人だね」


『宝珠はとても優れた品で、龍の血に反応するようにできてるの〜。

 もし水姫が偽物だった場合は、宝珠そのものが偽物に制裁を加えることができるの』


 あっけらかんとクウは言ったが、私は既に何度も指輪を嵌めてるだけに、聞き捨てならない。


「制裁?! そんなの聞いてないよ。私、普通に嵌めてたけど?」

『姫は本物と知ってるから大丈夫なの』


「……もし駄目だった時は?」恐るおそる聞くと……


『宝珠から電流が流れるらしい』

『水牢が出現して水責めにするバージョンもあるらしいの』

『詳しくは知らないが、それぞれ効果が違うらしくてな。バラエティに富んでいるじゃろう』

「そんな豊富さはいらないから?!」


 自慢気に語る妖精達にツッコミが止まらない。


 そうだ。忘れてたけど、この子達は割りと大雑把だった……。


 唯一解ってくれるリリスさんの顔を見合わせて、二人で苦笑いをした。





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