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第49話 刺激が強すぎました 



 はぁ〜……。

 入浴を終え、森の澄んだ空気を浴びに外に出た。


 今日は生憎の曇天で、月も顔を隠しているせいか辺りは薄暗い。でも今のミレイにとってはそれが有り難かった。昼間の一件が頭のなかをぐるぐる回っていたからだ。


 どうしよう、まさかニウさんがあんな……。

 それに額コッツンとか……少女漫画の世界じゃない?! 

 まさか私が……?!



 むず痒い。

 恥ずかしい。

 ……でも少しだけ心踊る自分もいる。


 森の冷気にあたっているはずなのに、顔に熱が上がってくる。


 向こうの世界ならきっと、ほっぺにチューくらいでここまで動揺はしなかったかも。

 ──ニウさんなんて、ちょっと前まですぐ赤面するような男の子だったのに……。


「男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、とは良く言ったものね」



 無意識に手が頬に触れる。

 あの熱の籠った眼差しに感化されたのか、自身の体の中からも競り上がってくるような熱を感じた。


 はぁ〜……。

 いつもの溜め息に甘さが交じる。



 あーー。ダメよダメ!

 落ち着いて冷静になって、私!!


 心頭滅却(しんとうめっきゃく)と言わんばかりに、頭をブンブン振ってみても、くらくらするだけで顔の熱は収まりをみせない。



 ニウさんは19歳。

 日本なら未成年。ちょっと前まで高校生の年だよね。


 ──でも、この国は15で成人なんだよね。結婚も早いらしいし……。


「……」


 いやいや、惑わされてるから〜!!

 25が19に手を出したらダメでしょ〜。



 無言でひたすら頭を振る光景は少し異様だが、今のミレイにそれを気にする余裕はない。ただ己の邪念を払うのみ。



 荒い息のまま、ごろんと草叢に寝転がる。


 ──そうよ思い出して。私の黒歴史を……。


 過去に年下の男の子と付き合って、年上だからと全てのデートのお金を払っていた私。

 いつの間にか彼の服や小物まで買うことになっていて、気付いた頃には彼女ではなく、彼の『財布』扱いだった……。

 それ以外にも、大学の爽やかイケメン君や会社のモテる同僚が好意をチラつかせていても全く気付かず、何故そっちにいく?……と言う現象を叩き出していたらしい。ついたあだ名は──残念女子。


 最初は「なんで教えてくれなかったの〜」と飲みの席で友達に愚痴っていたが「あいつ美澪のこと好きらしいよ、って言われて好きになるタイプじゃないでしょ? 」と、ビールを飲み干しながら言ったのは、友達のまゆだった。


 たしかに好意を認識しても、自分が好きになるかどうかは別問題なのよね〜。結局、私は自分が好きにならないと恋愛までいけないし。

 たまには見切り発車しよ〜よ。

 難儀すぎるでしょーーワタシ。



 はぁ〜……。

 今日、何度目になるかわからない溜め息をついて起き上がり、冷たいお茶を一口飲む。


 こんな日は一杯飲みたいなあ〜。


 向こうにいた頃はしょっちゅう飲み歩いていた。

 お気に入りは行き付けの飲み屋で飲む、ガチ盛り氷の生レモンサワー!

 たくさんの氷にレモンの果汁もそっと足して、軽くひと混ぜしたら、私の夜のお供の出来上がり! 

脇を固める相棒は、もちろん唐揚げと美味しい冷奴!

()()()()が肝で、お気に入りの店以外にも、取り寄せグルメを活用するくらい私はお豆腐が大好きだった。


「食べたいなぁ……お豆腐。

 飲みたいよぉ……レモンサワー。

 あぁ……もうガス欠だ~」



 ──もはや『会社帰りのおじさん』?

 そんなおじさん予備軍の20代女子は、息も絶えだえに「レモンサワ〜〜」と消え入りそうに呟いていた。



『れもんシャワーとはなんじゃ?』


 突然、後ろから声を掛けられて「わぁ!」と声を上げた。


『姫?』

「サンボウかぁ。びっくりしたよ〜」

『れもんのシャワーとはなんじゃ?』


 もう一度復唱されたら、答えるしかない。


『レモンサワーだよ。レモンのお酒でね、向こうにいた時は結構飲んでたんだよね』


 コップの中の少しだけ残ったお茶を飲み干した。


『この世界にも酒はあるぞ。リリスに聞いてみたら──』

「それは、ダーメ」

『なんでじゃ?』

「私は居候の身だからね。

 大丈夫! 向こうに帰ったら浴びるように飲むから!」


 ニコっと笑って「な〜んてね」と、笑いを誘うように言ってみたけど、サンボウが真顔で固まっていた。


「えっ。浴びるように、って言うのはたとえだよ? 本当にに浴びないよ?」

『あっ。ああ……。

 ……姫。……あのな……』



 その時、ガチャっと玄関のドアが開いた。


「ミレイ。そんなところにいたのかい? 体が冷えるからそろそろ入りな」

「はーーい。確かに少し冷えてきたかも。サンボウ、なか入ろ」

『……そうじゃな』


 そう言って立ち上がったあと、ふと気がついた。

 

「さっき何か言いかけてなかった?」

『いや、……べつに』

「そっか」


 ミレイは目を細めて笑った。


 立ち上がって灯りに向かって歩くミレイの後姿に見惚れる。

 先程の笑顔といい、薄暗い夜の森に身をおいても、(まばゆ)いくらいの輝きを放っている。



 本当に美しい……。

 まさに清涼なる水そのものじゃな。



 ──ふぅ〜……。


 言えなかった後悔と逃れられた安堵。

 それらが複雑に混ざりあった溜め息だった。


 代替品の事もあるし、やることは山積みじゃ。なのに何ひとつ解決しとらん。わしはこんなに無能じゃったか……。


『情けないのう』

「サンボウどうしたの?」


 己を呼びにわざわざ戻ってきてくれた。

 優しい姫。ちゃんと話さないと。


 この地で昔あった諍いのこと。

 水龍さまが何故お眠りになったのか。

 そして……水姫のことも……。


 

「こらミレイ、開けっ放しにしない! 虫入るよ〜!」

「ごめんなさーい。サンボウ入ろう」


 そう言って両手で優しく包み込んでくれた。

 その手はとても温かく、何百年も忘れていた温もりだった。


 もう少し……もう少しだけ。


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