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第45話 水龍




 体に纏わりつく空気が変わる

 ここはいつもの場所



 王宮内にある神殿 御鏡(みかがみ)の間



 上下の瞼をゆっくりと動かし 目を開く

 濃い藍色の世界から眩しい白亜の壁が眼に飛び込んでくる



 慣れぬな……



 思念体のこの身は 五感は機能しているが急激な変化には対応しずらい



 本体ならば…… いや 無意味だ……



 思念体はそのまま上昇し白亜の宮殿を擦り抜けた




 眼下に見えるのは

 王宮 神殿 市街地 森……



 ──あの日 民も街も 国すら

 すべての 時が止まり 眠りについた



 生命の歯車が止まった国




 全てを護るため 眠らせた

 護りたかった……



 私が悪い

 全て己の弱さが原因だ






 ──いつからだろう



 体と意識が解離し思念体が生まれたのは……



 誰もいない 

 音の無い世界



 (まつりごと)に頭を悩ます必要も 

 意志を交わす必要も 

 心が壊れる思いをすることもない



 ただ眠っていればいい



 私がいなくとも 世は廻る



 幸か不幸か この絶大なる力は眠りについても力を奮う



 己の意図は関係なく

 




 変わらぬ景色を眺めていたら──声が聞こえた……気がした

 久方ぶりの生命の気配



 苦しそうな声が 頭に直接響いてきた

 助けないと…… 何故かそう思った



 気まぐれに訪れた龍湖


 でも意識を凝らして辺りを探る

 暗闇のような湖の中 白くほんのり淡い光が見えた 

 温かそうなその光に……触れてみたくなった



 両手を伸ばすと淡い光がこの身に落ちてきた

 ずしりと両の手に感じた重み 



 生命の重み



 あぁ 懐かしい



 ──凍てついた 心が……動いた



 泣きたくなるような感情が沸き起こる

 その感情に戸惑うも とても心地の良いものだった



 そんな郷愁に似た想いを向けた生き物は……あろうことか 



 ニンゲンの女だった



 女は口煩い生き物だ ましてやニンゲンなど……






 ──仕方なく言葉を交わした


 ……久方ぶりだった


 他人が生み出す音を聞いた


 他人と意識を交わし 少しだけ動揺もした 

 この私が……




 ──あれからあの女の夜の底を思わせる

 黒い瞳を思い出す



 幾度となく湖に入っているのも知っていた



 しかし私には関係ない


 関係なかったのに……ついあの淡い光に引き寄せられた





 ──ふっ。

 口元が僅かに綻ぶ


 あんなにふてぶてしいやつは初めてだ


 龍王たるこの私に大きなお世話……だと?


 おまけにトモダチになろう……?



 トモダチ……



 言葉は知っている

 しかし私には縁のないものだ



 私は龍王 

 生を受けたその日から王になるべく育てられた者

 総ての水を総べる者 それが私だ……



 トモ……ダチ……



 心がざわめく



 でも駄目だ アレはニンゲン 

 私を拒絶した ニンゲンの女



 なんのために国を民を己を眠らせたのか……忘れるな



 思考を吹きとばすように頭を振る






 あらゆる建物をすり抜けて

 この王宮の最奥 王の間にたどり着く



 豪奢な室内はとても広く 引かれたカーテンはヨレどころか劣化の兆しも見えない



 その豪奢な王の間で眠るのは

 この国の王 ただ一人



 眼下には幾度となく見てきた光景


 



 あぁ やはり醜い…… 

 私は醜いバケモノだ……



 中央に眠るは古の生き物 



 巨大な体に体中を覆う(うろこ)

 四本の足と二本の角

 翼を広げればその大きさは測りしれず

 ひと度 目を開ければ異形な金色の瞳が周りを威圧する



 怪物…… 化け物…… それが私だ




 水盤がキラリと光る



 明後日の同じ時間……


 ──いや 私には関係ない



 アレに触れると 白く柔らかい膜に包まれたような気になる

 ……温かい気がする 


 ──いや 気の所為だろう アレは駄目だ 





 アレは…………水姫だ


 私を裏切った……水姫だ




 葛藤の渦のなか そっと眼下の龍を見る

 思念体でもない 人型でもない

 本当の己の姿 



 龍種の中でも一際大きく 

 同族でさえ恐れられる 異形の姿


 ニンゲンなら尚更か……

 覚悟していたのに……私は……


 


 それを最後に思念体の気配も泡のように消えていった






 ◇  ◇  ◇




『姫、良かったの〜!』


 湖から上がったあとは妖精達を宥めるのに苦労した。特にロスは凄く怒っていたから、仮説の話をして、そのままの勢いで水龍さまに会えたことを話した。


『水龍さまに? 姫、すごいの〜!』

『まさか本当に会えるとは……』


『……たしかに王にお会いしたいと願ったのは自分らじゃ。でも! 姫を犠牲にしたいとは思っとらん』


 ロスは下を向いたまま、変わらない厳しい声で私を詰問する。でも私は解っている。これがロスの優しさだと……。


「ごめんね……反対されると思って……」

『当たり前じゃ』


「みんなが上にいるから出来たんだよ。だから安心して潜ったんだよ?」


 そっと下からロスの顔を覗き込む


『反対されるから強行突破するなど、幼子ではないか』

「ははっ……。25だけどね」

『25など赤子じゃ!』


 ロスがプイっと横を向く。


「赤子かぁ。やっぱり人間と龍種は時間の感覚が違うよね。──おじいちゃんって言っちゃったけど、案外、間違って無かったのかも……」


 後半は独り言のように呟いた。

 するとサンボウが『どうしたのじゃ? 我等がじじぃなのは今更じゃろ』と呆れたように口にした。


「あっ。違うよ。みんなの事じゃないよ。水龍さまに言ったの」


『『………………はっ??』』

『……すい……りゅうさま……? まさか……我等が王に??』


「あっ。言ったは語弊あるね。実際は頭に浮かんだ事が向こうに伝わっちゃって……。

 思念って便利かもしれないけど、心の中が丸わかりなのは困るよね〜。そのくせ向こうはちゃんとコントロールしてるんだよ。ずるいよね」


 溜め息混じりに不満を口にすると、何故か三人とも零れそうなほど目を見開いて、絶句していた。


「どうしたの?」

『…………言葉を失うってこういう事をいうのね……』

「クウ?」

『あの麗しき王に……。おじい……ちゃん、だと?』


「何? みんな怖いよ〜。もしかして不敬罪ってやつ?」

『……そうじゃな。王国が機能していたら間違いなく極刑じゃ』


 ロスが恐ろしいことを口にする。


「極刑ーー?! 水龍さまはむやみに命を奪うことはしないんじゃないの?」

『王はしない。じゃが臣下は納得せんし、法もある。よって極刑じゃ』


「……じゃあ。友達になろうって言ったのも……駄目だった?」


 恐る恐る聞いてみる。


 どうしよう。

 水龍さま、今頃怒ってるかも……。


『ともだち……? 誰と誰が』

 三人の怪訝な顔がより一層険しくなる。


 あっ……これダメなヤツだ〜。

 私、終わったかも。


「あのーー。私と……水龍さま?」

 とりあえず、おどけたように言ってみる。



『『…………はぁ~?!』』


 三人の声が湖に響き渡り、その声に鳥達は湖畔から飛び立った。


 リリスさんの家に向かう道で、ロスは大笑いし、クウは何故かにこやかに笑ってる。サンボウからは……。一人で湖に入ったことまで遡ってお小言をくらった。



 友達はいいすぎたかぁ……。まぁ、王様だもんね。

 









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