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第43話 恐怖の作戦会議



 リリスさんの家に戻った翌日。

 リビングでテーブルを囲むのは、私とリリスさんに妖精達。あと何故かウンディーネも加わってお茶をしている。


 全員の顔色を見ながらミレイは先程のやり取りを思い出していた。


「リリスさん。こちら水の精霊のウンディーネさんです」

「…………よろしく……お願いします」


 だもんね〜。さすがだわ。


 私が一人でうんうんと頷いていると、リリスさんにポコリと頭を叩かれた。


「なに笑ってるんだい」

「いや〜。リリスさん対応力あるなぁ〜って思って」


 するとリリスさんは呆れた顔で

「あんたと会ってから変なのばかり会っちまうし、おかしな事ばかりで感覚が麻痺したのかもね」と、肩で溜め息をつきながら苦笑いをした。


 そこにクッキーを両手で抱えたロスが『変なのと会ったのか? 任せろ。なんとかしてやるのじゃ』と口元に食べかすを付けて、得意顔で胸を叩いた。


『ロス、違うの……』

『そこはスルーするところじゃ。何故、自分で自分の首を締めるのじゃ』


 それを見ていたウンディーネと私はクスクスと笑い合った。




『コホン。気を取り直して状況を整理するのじゃ』


 例の如く、サンボウが話を進めていく。


「みんなは 森の奥に行ったんだよね。長には会えたの?」

『……会えた。会えたが肝心の話は出来ていないのじゃ 』

「どうして?」

『……姫が溺れたって聞いて、それどころじゃなかったの』

「聞いた?  誰に?」


 ミレイは一連の話を聞いて、心がほっこりした。

 まさかあの時、「殺さないで」と頼んだワズが私を助ける為に、湖から森の奥まで走ってくれたとか……。日本なら映画の題材になるくらい、いい話だよ〜。やはり何事も良い事をしておくものね。


「また会えるかな 」

『さあな。野生のものじゃ』


 ロスの返答にミレイも納得した。また機会があれば会えるだろう。




『それよりも。何故、姫は湖にいたのじゃ?』

「……う〜ん。散歩?」


 するとロスがふるふると肩を震わせた。


「ロス寒いの?」

『大人しくしておるように言ったじゃろうが!』


 何故か突然ロスが、怒り出した。


「だって、みんな忙しそうだったし、家主のいない家にいるのは嫌だよ」


 サンボウは、はぁ……と溜め息をついて、話を変えた。


『湖には落ちたのか?』

「違うよ。何かに引っ張られたの」

『それについては私から話すわ』


 ウンディーネがそう口を開いた。


『あの時、湖に水姫を誘い込んだのは下位の精霊だったわ』

『……まさか、いつもそんなことをしているのか?』


 ロスの声が咎めるように、少しキツくなる。


『まさか。人に干渉するのは禁じているわ。それにあの者達が言うには、湖畔で水の一族の気配がしたから、遊びたくて引き込んだらしいの』

『水の一族の気配?』

「……あ〜。もしかして……」

『 心当たりがあるの?』

「うん……。湖があまりに綺麗だったから、思わず水の中に手を入れたの。それがサンボウから借りた指輪がついている方の手だったから……それかなぁ?」


 それを聞くと、精霊と妖精はがっくりと項垂れて……。

『それじゃ』

『それね』と呟いた。


『とりあえず原因は分かったな』

『ミレイ、怖い思いをさせてごめんなさいね 』


 ウンディーネ がしゅんと項垂れる。


 美人の憂い顔は眼福ものね〜。


「大丈夫ですよ。 湖に入ったおかげで 水龍さまに会えたし」


『…………はぁーー?』

『何を言っているの? 』

『……姫。 水龍さまはまだ眠ってるの』


 ウンディーネは眉間にシワを寄せて、不快を滲ませながら問いかけ、クウは寂しそうに笑いながら訂正した。


「みんなから聞いてるから知ってるよ。それに本人もこれは本体じゃなくて思念体だって言ってたから」


 シーン と静まり返る。

 水道から滴る水がピチャンと音をたてて桶の中に落ちた。


「……まさか本当なのかい? 」


 絶句しているみんなに変わり、リリスさんが口を開く。


「うん。水龍さまですかってちゃんと確認したし……。サンボウが言ってた通りだったよ。

 銀色の髪に綺麗な蒼水色の瞳をしてた。すごく綺麗で……言葉が出なかったよ」


『…………そんなまさか』


 サンボウの声も唇も震えている。


「まぁ。思念体だから言葉は発していないんだけどね。思った事が頭に直接流れるみたいでびっくりしたよ〜」


 そこまで話してみんなの様子に気付いた。

 ウンディーネは口元を覆って声を殺すように嗚咽し、妖精達は瞬きもせずに頬から涙が伝っていた。


「みんなどうしたの?!」

『まさか……本当に水龍さまが……?』

『水龍……さま』


 それを見て、ミレイは失敗したと思った。

 ただ喜んでくれると思っていたのに、彼等の想いはそんな次元をとうに通り過ぎていたのだ。



 妖精たちが落ち着きを取り戻してから 湖の中のことを話した。


「水龍さまは光の膜が覆っている中にいたみたいで、私がもう駄目だって思った時に助けてくれたの」

『光の膜?! まさかあの中に水龍さまが……』


 ウンディーネは愕然としていた。それもそうだ。あの光の膜は今までに何度も見ているのだから……。



『ひめ……水龍さまはお元気だった?』


 クウが恐る恐る聞いてきた。


「うん。元気だと思うよ。私に『不躾なだけじゃなく、無礼なやつだ』な〜んて不機嫌そうに言ってたくらいだし」

『そうなのね。……良かった』


 クウが俯き、目頭を抑えていた。


『それで他には?』

「この指輪は人の手には負えないから持ち主に返せって言われたよ。あとは……。もう帰れって言われて、光の膜が突然無くなって湖の中に投げ出されたの」


 どうしても三人のことは話せなかった。これだけ想っているのに……。


『そうか……。でも、まさか王の様子がわかるとは思ってもいなかったのじゃ。姫、ありがとう!』

『ミレイ。私からも御礼を言わせて。ありがとう』


「こんなに喜んでもらえるなら、怖い思いをしたのも報われるよ〜」

『ギリギリだったけど、助けられて良かったのじゃ』

「そうだ! 湖が割れたって聞いたけど、そんなに凄い事してたの?」

『……そうじゃな。人間からしたら有り得ないことじゃろう』

『そんな事ないですよ。少なくとも精霊から見たら凄い事です』


 謙遜するロスにウンディーネがそっと微笑んだ。


『そう言えば、フル詠唱なんて久しぶりに聞いたの』

「ふるえいしょう?」


 私の質問にサンボウが答えてくれた。


『通常は一度習得した術式は陣で記憶されるから簡略化できるのじゃ。フル詠唱は文言を唱えるから時間は掛かるが、妖力を練り上げる分、威力は上がるのじゃ』

「この前の、数多の水──とか?」

『その通り。正にそれじゃ』

「そうなんだ。……みんなで助けてくれたんだね。ありがとう」


 温かい空気が流れる。


「ふふっ。ありがとうの応酬なんていいもんだね」


 リリスさんが立ち上がってお茶のおかわりを入れてくれた。



『それにしても叶うものならもう一度、龍王陛下の思念体にお会いできないかしら』


 ウンディーネが溜め息混じりに呟くと、真っ先にロスが食いついた。


『それなら姫にまた潜ってもらえばよいのじゃ。光の膜は何度も見たことがあるのじゃろう?』

「……は?」


『たしかに! 光の膜は何度か見たことあるから可能かも……』

「……は?」


 ウンディーネが反応を見せるが、私のお茶を持つ手は驚きで止まる。


『それは名案なの〜!』

「……ちょっと、待って……」

『ならば膜が出やすい時間帯を調べねばなるまい』

『すぐに調査するわ!』

「……ちょっと、待ってってば! 私、少し前にあの湖で死にかけたんだけど!」


『でも、生きてるじゃない』

『生きてるのね〜』

『なんなら明日はどうじゃ?』


 のほほんと話す二人若干イラっとして、映画に行くようなノリで話すロスにも頭が痛くなった。


『待つのじゃ。みんな』

 サンボウの静止の声に、ミレイは心の中で「救世主きたーー!」とガッツポーズをする。


 やっぱりサンボウは頼りになるわ!


『まずは呼吸法からじゃ』

「違うから! そこじゃないから! 

 怖いから嫌だって言ってるの。リリスさん、何とか言って〜」

「まぁ、あまり無理はね……」

「ほら、リリスさんだってこう言ってる!」


『リリスよ。姫の国の言葉で「習うより慣れろ」と言う言葉があるのじゃ。

 人に教わったりするよりも、実際にやってみて慣れた方が身につく……という意味だったはず。

そんな言葉が普通の国にいたのだから、実際に潜った方が良いこともあるのではないか?』


 ロスが何故か私の世界のことわざを披露してる。しかも使い方が合ってるだけに質が悪い。


「そうなのかい? まぁ国ごとに風習は違うからねぇ」


 リリスさんが懐柔された。やばいよ〜!


『みんなで湖畔に待機していれば大丈夫じゃ』

「でも、水龍さまもいつ来るかわからないんだよ?!」

『来られるまで潜ればよいのじゃ』

「……サンボウ、何気に鬼だね……」


 私が真顔で呟いたあと、クウか私の目の前に降り立ち、ニコっと頬を緩ませた。


『姫……諦めも肝心なの』


 私は頬が引き攣るのを実感した。


 妖精も精霊もなんでこんなに傍若無人なのよーー!

 少しはこっちの話も聞いてよーー!  


「もう……いや。自由すぎるのよこの子達……」


 私は深い溜め息をついた。




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