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第42話 ニウという男

 告白後のお話です。前半部分はカイの視点で書いています。





 ニウはどこに行った……?


 部屋を出てニウの部屋に向かったが、そこにニウの姿はなかった。辺りを見回すと、裏口のドアが少し開いている。

 窓から入る真っ赤な夕焼けが廊下の壁も茜色に染め上げていた。

 そっと覗き込むと裏庭でニウがうずくまっていた。後を追ってきたものの、カイはなんて声をかけるべきか考え倦ねいていた。



「俺は……俺はなんてことを……」


 微かに聞こえてくる言葉は、ここぞとばかりに負のオーラを纏っていた。カイは心の中で嘆息して「ニウ」と軽く声をかけた。



「カイ兄……。あっ。いや……」


 しまった、とばかりに口をつぐんだニウに、カイは一瞬だけ目を見開いたあと、ニウの隣に座った。



 ──ニウはオレやペールの二つ下だ。

 小さい頃は今みたいに「カイ兄、ペル兄」とよく後ろを付いて回るような、かわいい弟分だ。



「売り言葉に買い言葉で言うセリフではなかったな〜」

「………わかってるよ。俺だって──」


 二の句が告げなくなる。


「しかも、母さんやばあちゃんにも聞かれたし……もう最悪だ!!」



 ──それは、わかる。

 知り合いだけでも嫌なのに、親にマジ告白聞かれるとか……。普通に『殺してくれぇぇ』ってオレでも思うね。



「もう……嫌だ……」


 周りから見てると、ニウがミレイに好意を持っていることはバレバレだったが、当のミレイもかなり鈍かった。


 あの子もポーっとしてるからね。

 あー、でもこの前の蹴りも啖呵も凄かったな。一種の凄味を感じたよ。まぁ、アレもアリッサの為だし、いい子だと思うよ。胸もあるし……。


 しかし周知の事実だろうと、告白するしないは別の話だ。


「タイミングは最悪だったけど、これで意識してもらえるかもしれないじゃないか。ニウの気持ちに気付いてもいなかっただろ? 時には勢いも大事だよ」

「最悪……とか。少しはフォローしてくれたっていいだろ」

「今してるのが最大限のフォローだね」

「ひでぇ」

「ははっ。そうだ。……ニウ。うち来るか? 

 うちの親はしばらく家、空けてるから誰もいないよ」


 ニウが鼻を啜りながら顔を上げた。

 眉を下げて、目には涙を滲ませて、否が応でも幼い頃を彷彿とさせた。


「行く」


 その素直な物言いに、つい幼い頃のように頭をグシャグシャっと撫でてやりたくなったが、ぐっと堪えた。

 変わりに昔からの良き兄貴分としては「今夜は飲むぞ!」と背中をバンと叩き、鼓舞させてみる。



「…………はぁぁぁーー。なんで俺は……」

 それでもニウは、魂までも引きずり出されそうなほど、長い溜め息をついた。



「まぁ、とりあえず明日の朝、あのメンツで朝メシを食べるのは回避できたぞ」というと、

「それは……心の底から良かったと思う」

 ニウはオレ見ると、引き攣った顔で首を振った。


「ははっ」


 今夜は長くなりそうだ。

 ペールも呼ぶか。いや、むしろ呼ばないと臍曲げそうだな。



 とぼとぼと歩き出したニウに追いついて、頭をグシャグシャっと乱暴に撫でてやると、予想通り嫌な顔をされた。


 

 今夜は取っておきの酒も出して、とことん付き合ってやろう。

 ──おまえが前を向けるまで。



 

 ◇  ◇  ◇




 翌日の日も高くなった頃、ミレイが目を覚ました。


「……おはよう?」

『姫〜。起きたの』


 クウがヒシッと抱きついてきた。


「クウ平気? 元気になった?」

『元気なの。姫のおかげなの〜』


 ニコニコのクウを見ていたら、ぐぅ〜っとお腹が空腹を主張してきた。


『元気そうでよかったの。まずはリリスを呼んできて、それから食事にするの〜』

『クウ、ずるいのじゃ。姫が起きたなら呼びにこい』


 ドアにはロスとサンボウそしてリリスさんがいた。


「ミレイ、どうだい?」

「リリスさん、大丈夫です。むしろお腹が空きすぎて〜」

「はっはつはーー。なら良かった。食事にしよう」



 食事をしながら何気なく「フリジアさんとニウさんは?」と聞くと、リリスさんは少し間を置いて、「フリジアは朝から畑に行ったけど、ニウはわからないね」と言った。


「わからない?」

「あぁ。昨日はカイの家に泊まったからね」

「カイさんの家に……」


 そんな会話をしていたら、昨日の衝撃的な会話を思い出した。ミレイの顔はみるみる赤くなり、食事の手も止まってしまった。


「ようやく思い出したみたいだね。ホントにあんたって子は……」


 溜め息をつくリリスに、ミレイは動揺の目を向けた。


「リリスさぁん……」

「まぁ、今は寝な」

「えっ。寝るんですか? 丸一日寝て、起きたばかりなんですけど」

「横になるだけていいから」


 そう言われミレイはしぶしぶベットに戻った。 

 ふと昨日の告白を思い出す。


 夢じゃなかった……。

 まさか、ニウさんにそんな風に想われていたなんて……。


「はぁ~……どうしよ」



 コンコン。

 部屋をノックする音が聞こえた。はい、と返事をするとカイさんが入ってきた。


「体調大丈夫? 様子見に来たら、リリスさんに起きたって聞いたから」

「大丈夫です。いろいろお世話になりました」

「それはいんだけど、体調が平気なら少し話をしてもいい?」


 カイはにこりと笑い、ミレイは椅子を薦めた。


「ニウのことだけど……昨日はびっくりしたよね?」


 先程まで考えていた内容なだけに、ミレイはドキっとしたが、素直に頷いた。


「……あいつはさ〜。不器用だけどいいヤツだよ。昨日は空気読めなかったけどね」


 ははっと笑う。


「ニウさんがいい人なのは、少し知ってます。

 周りの人はもちろん村や森も……みんな大事にしてますよね……。素敵な人だと思います。

 ──カイさん達は昔から仲良しなんですか?」

「なんで?」

「だって、ニウさんのフォローに来てるし……」


 クスクス笑うと照れくさそうに頭をかいていた。


「まあね。昔からの付き合いだし、弟分みたいなものかな。

 ……ニウは昔から真面目でね。

 小さい頃に親父さんを亡くしてるんだけど、同時期に村長も体調崩して、フリジアさんが頑張って村を切り盛りしてた時期があったんだ。それを見てたニウが『家の手伝いだけじゃダメだから勉強する』って言い出してね。

 ぼくが母さんと村をまもるんだ、って……。

 だから街に見習いに行くって言った時も、オレも一緒に行って、残ったペールやみんながフリジアさんのフォローをしたんだ」


 懐かしそうに話すカイさんを、私はただ黙って見つめていた。


「街から戻ってフリジアさんのサポートをするようになってからは、ずっと村のために誰かのために……って生活なんだよね。

 まぁ。本人は満足してるって言ってたけどね。

 でも、少し前から楽しそうに()()()()()の事を話すようになったんだ。最近になって、やっと自分の気持ちに気付いて、戸惑ってたけどね。でもオレ達からしたら、やっと自分に目を向けられるようになったんだ……って思ったよ」


 カイさんは私を見て柔らかく微笑んだむと、ぺこりと頭を下げた。


「だからありがとね。ミレイちゃん。

 オレ達からしたら『切っ掛けをくれた』ってだけで感謝なんだよね。だから、どういう返事をしようと気にしなくて平気だよ。 ──寧ろ、もし駄目だったとしても普通に接して欲しいなぁ〜。アイツまた泣いちゃうから」


「それは……内緒の方がいいのでは?」


 くすりと笑うと、カイさんは「たしかに」と、軽口をたたいて立ち上がった。


「あんな告白だったし、あの後……なんなら今もすご〜く後悔してるよ、アイツ。

 でもペールに発破かけられて、頑張る!って言ってたから覚悟しておいて。あとアイツは男から見てもオススメ」


 カイさんはパチリとウインクをして出て行った。


「なっ?! 頑張るってなんですか? カイさ〜ん!」


 私の声はドアに阻まれた。

 ドサっとベットに仰向けに倒れ込むと、ニウさんの笑顔や心配してくれた顔……真剣な顔が思い出されてくる。



 ニウさん苦労してたんだ……。

 まぁ、お父さんは?と思ったことはあったけどね。



 これが日本だったら「とりあえず付き合ってみる?」……のノリかもしれないけど、到底そんな気分にはなれない。



 ニウさんは素敵だと思うし、かわいいところも男らしいところもあって、一緒にいたらきっと……うん。

 でも……私は帰る人間なんだよね。

 うう〜ん。


 くるりと横を向いて、そっと息を吐く。



 それにしても……妖精達もだけど、ニウさんやカイさんといい……この世界の男達は中身がイケメンすぎないか?!

 これが日本だったら、みんなモテモテだよ〜。



 欠伸がひとつ出てきて、瞼がゆるりと落ちてくる。



 そうだ……。イケメンと言えば……みんなに話さないと……。


 ………水龍さま。



 そのまま意識が落ちて、また眠りについた。


 私、寝てばかりだぁ……。





読んで下さり、ありがとうございます!

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