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第38話 それぞれの出会い①



 辺りがぼんやりと明るくなってきた。

 もう日が登る時刻らしい。


「ふぁ〜。さすがに少し眠いなぁ」


 私は日の出前からお弁当作りをしていた。森に入るリリスさん達と自分の分だ。


 みんなで軽めの朝食を食べてるなかで、村に向かう話になった。


「さすがにこの時間から村長さんの家に行くのは失礼だから、適当な時間になったら行くよ」

『本当か?』


 ロスが疑わしそうな目で見てくる。


「村長のところも早起きだから、この時間でも大丈夫さ。前にニウに会った時もこのくらいの時間だろ?」

「いや。でも……」


 常識的に、ね……。

 思わず顔を引きつらせる。


『送って行くの』

「大丈夫だよ。子供じゃないし……」


 クウの申し出を笑ってスルーすると、サンボウが真顔で話をしてきた。


『姫よ。この国では人攫いは珍しい事では無いのじゃ。この辺りは田舎だが、一人出たとなったら警戒するべきじゃ。……姫の色はこの国では()()()()なのじゃ』

『そうじゃ。村に行っても大人しくしててくれ』

「……」


 私は口角を少し上げただけで、無言で答えた。

 リリスさんと目があったので話題を変える。


「リリスさん。動物よけにクッキーを作ってみたんです。遭遇した時に、こう……遠くに投げて、向こうが気を取られた隙に逃げる〜って、イメージで」

「撒き餌ってことかい?」

「それです!」

「動物用に砂糖と塩は入ってないけど、こっちのドライフルーツと一緒に食べたら携帯食としてもアリかな、と思って。どうですか?」


 みんなの強さは知っているけと、リリスさんに危険が及ぶのは少しでも回避したいから、ミレイなり考えたのだ。


「いいね。使わせて貰うよ」


 そう言ってお弁当とクッキー等の携帯食、水をバックに詰めて、リリスさん達は森の奥地に向かって出発した。

 玄関で見送っていたら直ぐにサンボウだけが戻ってきた。


「どうしたの? 忘れ物?」

『姫にコレを預けて行くのじゃ』


 そう言うと小さな指から指輪を抜いた。

 ミレイの中指の爪に指輪を触れさせると、指輪は大きくなりミレイの指にピッタリのサイズに変わったのだ。


「何これ。不思議……」

『姫、この指輪は決して外してはならぬ。決してじゃ! 

 ……この指輪はわしの命よりも大切な物じゃ』


 サンボウ瞳に圧倒され、ミレイはただ頷くことしかできなかった。


『では行ってくるのじゃ』

「!……気をつけてね」


 みんなと合流して手を振る姿が、森の暗がりに消えて行く。


 何よ……。これじゃ、忘れ形見みたいじゃない


 ミレイは託された指輪を見て、複雑な顔でギュッと手を握りしめた。




 ◇  ◇  ◇




「たまには年寄りとゆっくり話すのも良いだろう」


 あれから数時間経った今、私は村長さんとお茶をしていた。


 ──村に着いて子供達と遊ぼうと広場に行ったら、村長さんに手招きされて、そのまま家に連れてこられたのだ。

 出発前のロスの言葉が思い出される。


 すでに根回し済みだったのね。


 ここ数日、蚊帳の外だった寂しさに加えて、置いていかれた気持ちと今回の過保護な対応に、ついつい仏頂面になってしまう……。


 役に立てない歯がゆさと、自分のためと解っていても「子供じゃないのに……」言う反発心も多少はあるからだ。

 そんなミレイをみて、村長さんは苦笑交じりにお茶とお菓子を出してくれてた。


「……いただきます」


 不貞腐れている自覚も、困らせている自覚もある。

村長は「ミレイは素直だな」と口にした。


「……そんなことないです。人の優しさも素直に受け取れないような、嫌な人間です」

「ふっ。それが解ってるなら嫌な子じゃないさ。それに自分だけ甘やかされてるのが嫌なだけだろう?」


 目から鱗だった。

 自分では子供扱いされて、みっともなく拗ねてると思っていたけど、見方を変えたらそうなるのか。


 ……でも、確かにそうかもしれない。


「ありがとうございます」


 へニャと、笑うミレイを見て、村長もまた笑みを零す。そのまま二人で何気ない世間話をしていると、男の人が村長さんを呼びにきた。


「気にしないで行って下さい」


 頬を緩ませてそう言うと、村長さんは私の頭を軽く撫でて出ていった。


 家主のいない家にいるのはさすがに気まずいから、散歩にでも行こうかな。



 村の中に行くとまた連れ戻されそうなので、森へと足を向ける。

 リリスさんの家の方向は「道」と呼べるくらい歩きやすくなっているが、他は土に足跡が残るくらい自然のままだ。


 とりあえず、前進かな!


 森の中を進むと、昼間と言うこともあり鳥達の鳴き声がよく響き、声も近い。


「それにしてもみんな過保護すぎるのよね〜。私25だよ! それに情報収集だって、資料纏めたり、本を整理したりできることもあると思うんだよね?!」


 誰もいないのを良いことに、ここ数日の不満を口にしてみると結構出てくる。出てくる……。


まるで()()()()()()()()みたいな……。


 考えないようにしてたのに、そのセリフが頭に浮かんでしまった。ズーンと落ちた気持ちで歩いていると、木々の先が明るくなってキラキラ反射する様に見えた。


「ここ……湖? ……綺麗」


 辿り着いたのは南の龍湖──ミレイが召喚された湖だった。



 ミレイは、ほう……っと息を吐くと目の前の景色に魅入ってしまった。

 周辺の木々の緑とキラキラ光る湖面の調和が見る者の言葉と思考を奪う。

 先程まで愚痴や不満をとうとうと言ってたことが嘘のように……そんな感情も忘れるくらいの光景だった。



『湖では動物達も争わない』

『常に動物がいる』



 ミレイの脳裏にニウの言葉が思い出される。


 一歩、また一歩と湖に近づくと、ミレイに気づいた動物達が反応した。一瞬ドキリとして足を止めたが、動物達はそのまま水辺で寝そべったり、毛づくろいをしたり、こちらに襲いかかる素振りは見せなかった。


「言った通りだ……」


 少し興奮した面持ちで湖に近づき、そっと湖面を覗き込むと信じられないくらい澄んでいた。手前は少し浅く見えるが、それでも湖底は見えない。視線を前方に移すと息を飲むほどに美しい、瑠璃色の湖面が広がっていた。


 リリスさんもニウさんも『水龍さまは守り神だ』と言っていた 。

 ミレイは湖の中にそっと手を入れると、ひんやりとした清涼な冷たさを感じた。サンボウから預かった指輪が水中でキラリと輝く。

 何の気もなく、ふと呟いてみる。

 


「水龍さま……」


 すると湖面が……揺らいだ。



 目を開けると何故か視界いっぱいに水が見えた。地上からの湖面ではなく、明らかに水中だった。水の冷たさもひしひしと感じている。



 あれ〜? ……私 落ちた? 

 ── 違う。引き込まれたんだ。



 ミレイの手が湖底に向かって引っ張られている。


 またコレ? ちょっと飽きたよこの展開!! 


 怒りが湧いてくるが、とりあえず今は息をしないと! 上に向かって泳ごうとしても、まず上に上がれない。


 ウィンディーーネ! いい加減にして〜!!


 心の中で悪態をついて、あの時のように腹式呼吸をやってみる。

最初は苦しくて「もう駄目!」と思ったが、三度目の正直でやっと息ができた。

 しかし体はまだ沈んでいく。

 よく見ると小さな女の子の形をしたものが二人、 私の手を引っ張っている 。


 もしかして別の精霊?


 抗議しようと息を吸ったところで、無意識に口呼吸をしてしまい、苦しさの余り湖面を見上げた。地上の光は僅かに届く程度で、自分がどれだけ深い場所にいるのか実感した。……いや、()()()()()()()()


 恐怖で頭がまっ白になり、精霊らしい女の子の姿を探すも姿が見えない。


 ゾッとした。

 必死にもがいて上に上がろうとした時、不意に背中に何か柔らかい物が触れた。動揺と新たな恐怖で急いで体を反転させると、暖かい水が体に纏わりついてきた。

 そしてそのまま誰かに抱きかかえられた……気がした。



 だれ……?


 地上からみたら綺麗な瑠璃色でも、湖の中は真っ暗だ。

 陽の光も僅かに届く程度の、この深い湖の中で私の視界は(まばゆ)い銀色に支配されていた。恐怖に震えた体はしっかりと支えられ、視線を上に移すと、男の人のように思えた。

 ゆっくりと下を向いたその男とミレイの視線が絡み合う。男の顔は言い表せない程に美しく、その瞳は……蒼く綺麗な瞳だった。


 その時ミレイは、何故かサンボウの言葉を思い出していた。



『──水面に映る満月の、淡い光を紡いだかのような艷やかな銀色の御髪。瞳は切れ長で澄んだ湖のように蒼く、深い蒼水色じゃった。あの凪いだ瞳に見られると──……』



 えっ……まさか、まさか……。


 水龍さまーー?!


とりあえず表題の方、登場です! 

……長かった。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます!!



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