表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/193

第37話 それぞれの感情



 いい天気……。

 畑いじりをするには絶好の天気と気温だよね〜。

 お日様……ぬくいなぁ。



 私は畑で雑草を抜き、野菜の苗を植えていた。周りには誰もいない……。そう()()

 この世界にきてから一人になる機会は少ないので、有り難いといえば、そうなんだけど、ちょっと気持ちが晴れないのだ。


  妖精達とリリスさんは調べ物があると言って、部屋に籠もっている。部屋と言っても奥の部屋ではなく、隠し部屋──地下室だ。





 隠し部屋?! 地下室!

 何それ〜?!


「私も手伝う!」


 リリスさんの家に戻った翌日。

 隠し部屋で調べ物をすると言ったみんなに、意気揚々と挙手をしたけど、却下されてしまった。


「どうして?」

「まず、ミレイには読めないんだよ。古い文字なんだ。それに書物ならまだしも個人の記述は書いた人のクセもあるから余計に読みづらいのさ」

『文字にも歴史はあるから。だから任せてなの〜』

「……」


 そう。何を隠そう、私はこの国の文字が読めない。

 会話はあの『激マズ薬』でクリアしたけど、文字まで網羅してなかったから日々、幼児のように字の勉強をしてる最中なのだ。


 異世界モノならその辺はチート能力で全クリじゃないの〜?!


 何度心の中で叫んだことか……。



 気を取り直して質問をしてみた。

 何かできることがあるかもしれないし……。


「何を調べているの?」

『周りには秘密なのだが……宝珠に纏る文献が地下にあるかも知れないと言うのでな』

「宝珠の文献?!」


 つい声を張った私に、ロスから『声が大きい』と嗜められた。


「ごめんなさい。でも、それなら私だって関係あるよね?」

『……でも読めないじゃろ?』

「……」


 結局はそこにいきつくのね……。


『ある程度わかったら、姫にもちゃんと教えるの〜。だからリリスのかわりに家の事をフォローして欲しいの』

「それは助かるね。いいかい ミレイ?」

「……はい」


 リリスさんに頼られたら嫌とは言えなかった。




 そして回想は終了……。




「世の中そう上手く行かないかぁ〜」 

 最後の苗を植えて、次は食事の支度にかかる。



 地下室は石造りで出来ていて、かなり冷えるらしい。

 リリスさんが言うには温度変化が少ないので、過去の文献や調剤の資料を保管するのに適しているそうだ。もし宝珠に関する文献や情報があるなら、あの部屋かもしれないと言うので、連日四人(?)で籠もっているのだ。



 そんなみんなの為に連日温かいスープを用意したら、リリスさんにとても喜んで貰えた。

 まだ少しだけ不貞腐れる気持ちもあるけど、老体に鞭打って頑張ってるリリスさんの為に、今日はパングラタンと温野菜のサラダにした。

 ぬくぬくメニューだ。


 あとはグラタンに焼き目をつければ完成! というところで、フラフラと奥の部屋──リリスさんの調剤部屋の前まできた。


 キョロキョロしてみても、反対側に倉庫が二つあるだけで、下に降りる階段は無い。


 本当に『隠し部屋』だぁ。

 どんな風に隠されてるんだろ。定番は本棚をスライドさせる方法だよね〜。俄然興味わくなぁ〜。


「やっぱり怪しいのはリリスさんの調剤部屋だよね〜」


 倉庫は食材が置いてあるからミレイも何度も入ってる。奥の部屋の前でじっと、仁王立ちをしていたら、後ろの倉庫からリリスさん達が出てきた。


「そっちーー?!」

「何がだい?」

「いえ……なんでもないです。……食事にしましょう!」


 冷静を装いながらも、頭の中はハテナマークでいっぱいだ。


『姫かわいいの〜』

『あれで誤魔化してるつもりなのじゃろう』

『ほんとに幼子のようじゃな』


 おじいちゃん妖精達の『姫愛』が止まらない。


 ちなみに、ぬくぬくメニューはみんなに好評だった。



 ◇  ◇  ◇



 その夜、ミレイやリリスが寝静まった頃、妖精達が目を覚ました。リビングで対傍受用の結界を張って、昼間の続きを話合った。


『それで、どうするのじゃ。あの女──昔の水姫が何故隠したのか、その意図は解ったが……』

『本当にあの場所にあるか、確認も必要なの』

『たしかに。先に一度見ておくか。

 奥に進むには危険が伴うから、今の我等で守れるのは一人じゃな』

『そうなると、共に行くのはリリスのみじゃな』

『可能なら長と話もしたいのね……』

『……ならば極力、森の同胞を傷つけぬようにせねば。ロス……可能か?』

『必要ならそうするまでじゃ。戦い方一つではない』

『よし、では決まりじゃな。明日一日でいろいろ詰めるぞ』

『……一番の難題は姫の説得なの』

『うっ、うむ……。宝珠を確認したら全部話す……でどうじゃろう? 駄目か?』

『う〜ん……』

『宝珠の下見に行くこと自体、秘密にしておけばいいのじゃ』

『ロス、それはオススメしないの。

 後でバレるし、バレるのがわかってる秘密はもはや秘密ではないの』


 全員の脳裏にミレイの顔がチラつく。


 『……素直に言うのはどう? 森の奥は危険が伴うから確実に守れるのは一人だ、と。だから姫は今回遠慮してほしいって説明するの。情けない理由だけど、リリスの安全の為だと言えば、多分姫はゴリ押ししてこないの』

『……なるほど』


 サンボウがちらりとロスを見る。ロスは溜め息をつきながら『情けない理由じゃが仕方が無いのじゃ』と了承した。


 それから妖精たちは部屋に戻り、眠りについた。



 ◇  ◇  ◇



 翌日は慌ただしい一日だった。むろん妖精達の話だが……。


 午後になり、ミレイに報告すると、クウの予想どおり「今わかっているだけでも教えて!」と請われたので『確信が得られるまで待って欲しい』と返した。


「一緒に行く!」と言われれば『リリスはもちろん、森の動物達もできればも傷つけたくない。その為には共に行けるのはリリス一人』と、押し問答を重ねた。


 結果、『わかってほしいの』……と言われたら、もうミレイも黙るしかなかった。



 その後の話し合いにはリリスも加わり、森にミレイ一人でいるのは危険と言うことで、明日、みんなが戻るまでミレイは村に行くことになった。


 勝手に話が纏まってるけど、みんな私をいくつだと思ってるの……?!


 ミレイの中にも納得できない、もやもやとした、怒りに似た気持ちが拡がっていた。




いつもお読み頂き、ありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ