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第25話 龍王国

 皆様のおかげで25話まできました。

 数多くの作品の中から本作をお読み頂き、ありがとうございます!


『もう目を開けていいわよ。ミレイちゃん』


 ミレイがそっと目を開けると、まつげの数も数えられそうな距離に、見たことのないような美しい顔があった。

 涼やかなアーモンド型の眼に見つめられ、思わず眼を反らした先にあるのは流麗な口元。ミレイが無意識にじっと見ていると微かに口元が緩まり、微笑が口角に浮かんだ。その魅惑的な笑みにふっと、膝の力が抜けた。


『ちょっと〜! どうしたのよ』


 ウンディーネの水が崩れ落ちそうな体を支えてくれた。


「すみません。あまりに綺麗で……」


 その視線はウンディーネの顔から逸れることは無く、何に対しての賛辞か一目瞭然だった。


『当然よ。私は精霊なのよ』


 そういうウンディーネも悪い気はしなかったようで、指で髪を弄んでいた。


『それよりもあなたが見るのは 私の顔ではなく下よ』

「下? 」


 言われるままに下を向いたミレイは眼科に広がる広大な森と湖に驚愕した。


「キャーー! 落ちるーー! 」


 反射的にウインディーヌに抱きつく。


『落ちるわけないでしょ これは私の意識の中なのだから』

「意識の中?」

『そうよ。私の中の過去の記憶 。眼下に広がるのは、昔の龍王国よ』


 言われるままに下を向くと、眼下には広大な森といくつもの湖。市街地のような居住区が見え、そして遠くに大きな宮殿らしきものが見えた。


「……これが龍王国 ……」

『かつて 絶大な力と権力を有し、龍王陛下が統治されていた国よ。……懐かしいわね 』


 その言葉に振り返ると、ウンディーネは寂しそうな横顔をしていた。ミレイがウンディーネさん……とひと言零すと、彼女は ハッとして、元の作られたような麗しい顔に戻った。


『奥に見えるのが龍王陛下が御座すおわす宮殿よ。西側にある白い塔が神殿で、東側の建物が龍騎士団の本舎』

「騎士団 って言うとロスがいたところかな?」

『ロス ? 誰のこと?』

「あっ。三人の妖精達に仮の名前をつけさせて貰ったんです。そのうちの騎士団長をしていた妖精には ロスという名前をつけました。だからいつもあの場所にいたのかな〜と思って……」

『名前を付けたって……。良く了解したわね。

……それだけ貴方にも忠誠を誓ってるってことかしら』

「忠誠?! いやいや、そういう事じゃなくて、私が仲良くなりたいのと便宜上必要だから、仮の名前をつけさせてもらったんです」


 ミレイは身振り手振りを加えながら、説明した。


『……まあいいわ。私には関係ないし』


 そう言って目を閉じた ウンディーネが再び目を開けると、そこは湖の前だった。湖には鎧をつけた 騎士と文官のような人たちが大勢いた。


『これから湖を浄化する儀式が行われるわ。貴方の知りあいもいるかもね』

「知りあい? 」


 質問を投げかけた時、前から鎧を身に着けた男達が走ってくる。 ミレイは慌てて避けようとしたところで、ふふっと笑われた。


『言ったでしょ これは私の意識の中だって。ぶつかるはずが無いじゃない』

「そうでした」


 わかってはいても避けちゃうのよ〜。これは条件反射で私の身体能力が高すぎるのが悪いのよ〜。


 羞恥に顔を赤らめていると、背後から男達の声が聞こえてきた。


「騎士団長! 第二部隊の到着が遅れるそうです。こちらに向かう途中で害獣被害が出た為、対応していると報告が入りました」

「……わかった。結界外の警護は第三部隊を散開させて対応しろ。周辺警護には本部より第四を至急向かわせ、 第二はそのまま駆除に注力するよう伝達しろ」

「了解しました! 」

「陛下のご到着まで時間がないぞ、各部隊への連絡を急げ! 」

「はっ! 」


 敬礼をして足早に去っていく騎士。

 その場には、見たことのある緑色の服を着た成人男性が一人。

しかしその身なりは、左肩にマントの様な物を身に付け、金色のモールや勲章が付いた威厳のある出で立ちで、立派な体躯に良く映えていた。


「あれは……ロス? でもおじいちゃんじゃないし、そもそも小人じゃない」


 ウンディーネに問いかけると少しの間の後、彼女は教えてくれた。


『あれが本来の姿よ。少なくとも 陛下が眠る前の団長さん。

 立派よね〜。実際かなり強かったし、周りからも慕われた良い団長さんだったのよ。精霊達にも人気があったの 』

「そうなんだ……。あのなんで、今は小人みたいに小さくなってるんですか? 」

『それは……』


 ウンディーネが言葉を詰まらせていると、ミレイの横を数人の男達が横切った。


 さっきの人がロスならもしかして……。


「宰相、内務宰相殿! お待ち下さい! 至急、ご連絡申し上げたいことがございます」


 男達が足を止めて振り向く。

 宰相と呼ばれた人物は、糸目に少し尖った耳。髪は薄い紫色だった。


 ……サンボウだぁ。


 ミレイは泣きたい気持ちになった。

 目の前の人物はおじいちゃんでもなく、細見の男性で、その特徴的な目元がなければ分からなかったかもしれない。


「どうした」

「はい。参列者に変更があった模様です」

「変更、 今更か?」

「はい。ベルク卿のご息女が参加希望の旨を申請し、式部側が許可をしたそうです」


 大きな溜め息をつくサンボウの傍らで、憤りの声を上げる者達がいた。


「式部はいったい何を考えているんだ」

「龍王陛下目当てはバレバレだよね〜。浄化は神聖な儀式なのに、ね 」

「式部の副長官はベルク卿に恩があるからな、断れなかったんだろう」


 サンボウはひと息つくと、伝達の騎士に了承の旨を伝え、会場や別の部署に指示を出しているようだった。


『宰相殿もできる男よね〜。見た目もいいんだけど、怖いからあまりお近づきにはなりたくないのよね〜』

「昔のサンボウ……いえ、宰相さんは怖かったんですか? 」

『えぇ。宰相殿は頭のキレる人物で、大抵の人は知らないうちに彼の手のひらの上で踊らされてるって聞いたわよ〜。あとは知略謀略に優れていて、味方になると心強いけど、敵には容赦ないとか〜』


 ウンディーネは俯むいて、しゅんとしているミレイを見て、慌てて言葉を付け足した。


『ただ、人情味というか 優しいところもあるから憎めない……とも聞いたわ! 』

「……そうなんですね」


 容赦ない? あの優しいサンボウが……?

 でも宰相らしいし……。

 綺麗事で国は動かせないはずだし……。

 うん、これはもう過去の話よ。私は私の知ってるサンボウを見よう!


 ミレイは自分の頬を両手でパシッと叩いて自分を納得させた。

 背後が大きくざわつき、ウンディーネに服の裾を捕まれ、指を指した方向に目をやると、長身の男性が湖に向かって歩いてくるのが見える。

 大勢の騎士達が、まるでモーセの十戒を思わせるように左右に別れ、合図と共に踵を打ち、剣を空に捧げている。その中央を一人の男性がスローモーションのように歩いてくる。背後から眩いほどの後光が差し、その表情は伺えない。


『あの方が龍王陛下よ』

「龍王陛下。──水龍さまですよね? 」


 ウンディーネは幼子が驚いた時のように、目を丸くしてミレイを見た。そして一度視線を逸らすと、ほんの少しだけ沈黙があった。


『それは龍の眷属の方々だけが呼べる呼称よ。なかでも陛下御本人に向けて声を掛けられるのは、ほんのひと握りでしょうね。……あの三人の妖精達のようにね』

「そうなんですね」


 ウンディーネは表ではたおやかに笑って見せたが、内心憤りを感じていた。 


 ここ数百年。心が動くことはなかったのに、ミレイのたったひと言で心がざわついたのだ。


 映像では、龍王陛下が湖の前に立ち、今にも儀式が始まるところだった。



 水龍さまか……。

 この子はとても簡単にその名を呼ぶのね。あの妖精達の側にいるのだから、仕方がないけど。わかっているけど! それでも私達精霊は「陛下」としか呼べないのよ。

 …………あぁ。これが羨望か……。

 久しぶりね。この数百年、心が動くことはなかったのに。



 気づくと儀式は進み、龍王陛下が両手を上げると湖面の水が割れ、互いに混じり合うように交差を繰り返す。この巨大な湖の水が循環し、浄化されているのが解る。



 ──本当に凄い御方だったわ。

 願わくばもう一度お会いしたい。あの瞳に見つめられたい。

 最後にお言葉を頂いたのはいつだったかしら……。

 会いたい……。

 お会いしたいのに、陛下が復活されると言うことは、この小娘が水姫としてあの方の隣に立ち、妻となることもある。

 あぁ……。心が暗く淀む。

 私は精霊の上位者、ウンディーネなのに……。



 心の中で羨望と僅かな憎悪がテトラポットのように互いを打ち消しあっていた。


「ウンディーネさん、すごいですね! 水がぱぁーっ割れて、左右に別れて映画にあったモーセそのものですよ! 」 


『モーセなんて知らないわ。あの方は龍王陛下よ』


 今までとは違い、硬質な声音と表情にミレイは居住まいを正し、すみませんとだけ口にした。

 二人しかいない空間に沈黙が落ちる。


『龍王陛下を拝見してどうだった』


 好きになったと言うはずだ。あの方の容姿に惹かれぬ者などいない。


「それが……良くわからなくて」

『……わからない? 』


「はい。あまりに後光が凄くて、眩しすぎて顔が見れませんでした。あっ。でも背が高い男性ってことはわかりました!」

『…………』


 真面目な顔で報告してくるミレイがおかしくて、ウンディーネは思わず吹き出してしまった。


『後光が強くて顔がわからないって、何よそれ?!  しかも唯一わかったのが背が高い、ってあの方の良さを何もわからないじゃないの』


 忍び笑いが止まらない。いや、すでに忍んでもいない気もする……。

 その間にもミレイは状況の変化について行けず、おろおろしていた。


『あ~おかしい。貴方いったい何を見てたの? 』

「湖を……。あの、何も持たない人間からすると、湖が割れるなんて本当に凄いんです。ウンディーネさんみたいに水を操るのも凄いです。

 ──私は水姫と言われても何も出来ないし、護られるばかり、助けられるばかりなんです。だからこれだけの力を持ってるのに、眠りにつかないといけなかった龍王陛下の事も知りたいと思うし、知らないといけないんだ、と思いました」


 ミレイは真っ直ぐウンディーネを見つめて、頭を下げた。


「ウンディーネさん、今日はありがとうございました。

 今までは妖精達の為に龍王陛下を目覚めさせようと思ってましたけど、今日、昔の龍王国を見て、何が何でも起きてもらおうって思いました。」

『……どうして?』

「だって、みんな幸せそうなんですもん。忙しそうだけど、誇りとやる気に満ちてるように感じ?」


 にっこりと朗らかな笑顔を向けながら「龍王陛下の顔は見えなかったけど、周りの人の顔は見えましたから」と伝えたら、ウンディーネはもう一度声を出して笑った。


 あーー。おかしい〜。少し前まで心の中にドロドロしたものがあったのに、今は清澄としているわ。それに眠りにつかないといけなかった、と言うのね、あの子は……。

 これが水姫となりうる者、か。まあ、悪くないわね。


 ウンディーネは憑き物が落ちたような晴れやかな顔でミレイの顔に手を添えた。そして『帰ろっか』と軽やかに言い、ミレイが反応するよりも早く、再び光と水に包みこまれていた。




 目を開けるとそこはミレイの部屋だった。


 ……えっ?!……うそ。アフターフォローとかないの? 連れてくだけ連れてって説明なしに帰宅って、それはないでしょう。しかも最後のなに? 帰ろっか、ってコンビニ感覚かよ!


 夜中なのはわかっているので、声には出さないが、できることなら声に出したい思いだった。

 すると頭の中に自分とは違う声が届いた。


『いろいろとごめんね〜。ミレイちゃん。……また逢いましょう』



 ミレイはなんとも言えない思いで、 天を仰いで嘆息した。


 寝よう……。もしかしたら全て夢かもしれないし。


 ミレイはベットに潜り、現実逃避に全力を注いだ。



 不慣れなところや拙い文章ではありますが、モチベーションの維持にも繋がります。


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