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第23話 宴



『姫、よかったの〜』

『ほんとじゃ。前回同様、姫の価値を見誤るようなら、こちらも考えがあったのじゃが、村人は愚者の集まりではなく良かったのじゃ』

「考え? 」


 なんだろう……サンボウの笑みが怖い。


『そうなのじゃ〜。姫を邪険にするようなら井戸水で巨大な水柱を作ろうと思ったのじゃ』

『うむ。ロスの案はとても良き案でな、仕置きもしつつ、 姫に巨大な噴水ショーを見せられるから興奮間違いなしだったのじゃ』

『他にも、村中にたくさんの大っきな水溜りを作るつもりだったの〜』

『一瞬で水上都市の出来上がりじゃ! 噴水ショーと合わせたら、なかなか楽しそうではないか。ロスもクウも名案じゃ』


 うん、うんと頷くサンボウ。


「噴水ショーって……。駄目だよ、その合わせ技は村が水没するよ」


 私は二の句が継げなくなり、リリスさんに至っては唇を開けたり閉じたりして、言葉を探しているようだった。


 この妖精達、過激すぎる……。


「前にも言ったけど、私になにかあっても村の人を攻撃しちゃ駄目だよ」

『攻撃ではない妖精のイタズラじゃ。かわいいものじゃろ〜? 』と……サンボウはしたり顔で反論してくる。


『かわいいレベルなの〜』

 クウは同調し、ロスも頷いている。


 いや、計算ずくめでかわいくないよ!


 私は心の中で反論した。


「…………まあ。とりあえず何もなくて本当に良かったよ」


 リリスさんの言葉に私も激しく同調した。


「とにかく、ミレイが頑張ったことにはかわりはないからね。今夜はミレイの好きな肉料理にしようと思って、注文しておいたんだ」

「すごい、大っきなお肉〜! 」


 でーーん! と交換音がつきそうな肉の塊が我らの前にお目見えした。これは十人中、九人がテンション爆上がりするような一品……。

 先日の一件から食卓に肉もでるようになったが、やはり主流はソーセージやベーコンなど日持ちする加工品が多い。それが今日は塊のお肉なのだ。これを見て肉好き女子としては、大人しくしていろと言うのが無理難題なのだ。


 すぐに食べたい気持ちを抑えて、みんなでハンコ遊びの片付けをした。リリスさんが夕食作りを始めたので、私も意気揚々として手伝おうとしたけど、少し休むように言われ、戸惑いながらもベッドに入ると、やはり疲れていたようで体の怠さを感じた。瞼も重力に抗えず、私はそのまま微睡みにおちた。




「……」



 なんだろう……

 声がきこえる よばれてる?


 おかしいな 声は……妖精達のはずなのに

 なんで……また



 一瞬浮上した意識は、また深く落ちていった




 ◇  ◇  ◇



『ーーめ』

『姫、起きるのじゃ』

『ごはんなの〜』

「……みんな? 」


 目を覚ますと、目の前に三人がふわふわと飛んでいた。


『大分疲れていたようじゃな。もう宵の口じゃ』

「そっか、なんだか体がダルくて……」

『疲れたのじゃな』

『お肉食べたら元気になるの〜』

『そうじゃ。リリスが張り切っていたぞ、今夜は宴だそうだ』

「宴? 」

『そうなの〜。だから急いで来るの〜。ごはんなの〜』


 クウの鼻息が荒い。

 よほど宴が楽しみなのだろう、かくいう私もキッチンから流れてくる、この芳しい芳香に抗えそうにない。私は起き上がるとリリスさんのもとに向かった。


「ミレイ、体調はどうだい?良く寝てると聞いたけど……」

「はは、緊張の糸が切れたみたいです」


 テーブルの上にはパンとマッシュポテト、サラダ、お肉のシチューが並んでいた。

「すご〜い、美味しそう! 」

「食べようか」


 憂いがなくなったせいか、その日の食事はいつも以上に楽しかった。

 なかでもクウがバターたっぷりのマッシュポテトに目を輝かせて喜び、顔を突っこんで食べ始めた時は、思わず目を皿のようにしてしまった。

 リリスさんは「こらー!」と怒りだし、また説教が始まると思いきや「まったくベタベタじゃないか」とぶつぶつ言いながら、濡れタオル持ってきたのには、みんなで笑ってしまった。


『……姫。もしかしたら、これがつんでれか? 』

「えっ。ツンデレ……? 」


 サンボウの不意の言葉に驚くも、思い起こすと…………うん。たしかに。


「うん。たしかにこれがツンデレだね」

 私も真顔で答えた。


「つんでれ?  なんだい それは? 」


 リリスさんはクウに文句を言いつつ、人差し指で丁寧に顔を拭いてあげている。


「ツンデレって言うのは……普段は『ツンツン』してぶっきらぼうな態度を とっているけど、基本は好意的な人のことをいうんです。それで『ツン』のあとにくる優しい態度を『デレる』と言うんですよ〜。それを合わせて『ツンデレ』です。

ようは優しいのに素直になれない天邪鬼な人ですね」


 ミレイの言葉を聞いたとたん、リリスの口を拭く手が止まった。

 

『姫もサンボウなみに説明が上手じゃ。わかりやすかったぞ』

『リリスはツンデレなのね〜。かわいいの〜』

「リリスさん? どうかしましたか? 」

『……姫。今のはなかなかの攻撃力じゃな』


 サンボウの言葉の意味が解らなくて、聞き返そうとしたが、それよりも早くリリスさんが復活した。

 ……顔を真っ赤にして……。


「馬鹿言ってんじゃないよ、あんた達! 年寄りをからかうもんじゃない! 」


 あまりの迫力にミレイは反射的に謝り、クウとロスは固まった。唯一、サンボウがフォローを入れたのだが、それにより事態は……悪化した。


『待て!リリスよ。決して悪い意味で言ったのでないし、からかってもいないのだ。

 バイブルによるとツンデレは物語のヒロイン、もしくはメインキャラの一人になるくらいの重要なんじゃ。 ほれ、ここを見るのじゃ。悪役令嬢の話だと……』


 必死にページを捲るも、リリスの顔は赤から青に変わり、怒り顔に微笑みが加わった。しかしサンボウは本に夢中で気づかない。


『 これじゃ! 読むぞ〜。“ 王子や攻略キャラは悪役令嬢のツンデレっぷりに振り回されながらも惹かれていく。ツンデレは鉄板の モテキャラなのだ! 

 ──女子は歯がゆい想いに心を寄せ、共感する。女子はツンデレが大好きだ。そして筆者も大好きだ ”……と書いてあるぞ』


 ニコニコして顔を上げた先にあるのは赤鬼? 青鬼? どちらだっただろう……。


 お説教されているサンボウの傍らで 私は内心思った。


 「筆者も大好きだ……」って何それ? 

そんな本 初めて見たよ。この本自由すぎるでしょ。


 結局、みんなで並んで頭を下げた。

 ……これ以降、リリスさんにツンデレの話題は禁止だと、暗黙の了解となった。


 そんな微妙な空気の中、ロスが話題を提供してくれた。


『そうじゃ、姫よ。リベンジは成功したのか?』


「リベンジ? …………あー、どうなんだろ。でも、私は自分を奮い立たせる為に言ってただけなの……かもしれない」

『奮い立たせるため? 』

「うん。……諦めないで前を向くのは、やっぱり大変だから。逃げたくなるし……。だからリベンジするぞ! って言葉で、自分自身に言い聞かせてたんだと思う。

 多分だけど、『私は大丈夫』って思いたかったのかも……」


 いつの間にかリリスさんが私の隣にいた。


「……誰でも弱い自分を受け入れることは難しいものさ。でも、それを受け入れたらそれが自分の力になる。ミレイ、 あんたはもう大丈夫だよ」

『そうなの〜! 姫は最強なの〜! 』

「最強ってなに?! 別に望んでないよ」


 騒ぐみんなの傍らで、ロスは『弱い自分を受け入れる……か。それは確かに難しいことじゃ』と、コップに映った自らの身を眺め、ぽつりと呟いた。


 ──食器を片付け、食後のお茶でほっとしているとサンボウが思いついたように話始めた。


『ふむ。今宵は姫の為の宴じゃ。我等からも労いの品を贈ろうぞ』

『いいのじゃ』

『賛成なの〜。姫、食べたいデザートとかある? 』

『クウよ、何故デザートなのじゃ? 』

『宴のシメと言ったら デザートなの』

「でも私、この世界のデザートよく知らないよ」

『大丈夫なの。姫の世界のデザートでも平気なの』

「どういうこと? 」

『本のように姫の世界のデザートも こちらに呼び寄せるのじゃ』


 リリスさんは「そんなことができるなんて、すごいね〜」と呆気に取られていた。


『姫、 何か食べたいものないの?』


 クウのつぶらな瞳で見られても、急には出てこない。


「…………いちご大福」

『いちご……大福?  よくわからないけど、姫の要望じゃ。皆の者よいな〜! 』

『おー! 』


 妖精たちは輪になり、空中に手をかざすと 光が集まり、だんだん渦を巻いて丸くなっていった。私とリリスさん一歩下がって、その様子を眺めた。


 いちご大福……。

 好きではあるが、はっきり言って私の大好物というわけではない。母の好物なのだ。 こちらの世界に来てから、母のことばかり思い出しているせいか、真っ先に浮かんだのは、いちご大福を頬張り、幸せそうに笑っている母の笑顔だったのだ。


 やばい。やっぱりホームシックだ。

 ここまでくると流石に恥ずかしいよ〜。私、25なのに……。


 顔を赤くしてそんなことを考えていると、光の渦は強くなり、大きくなり…………しん、と鎮まった。

 そこには綺麗な水の円がてきていた。


「綺麗だ。まるで水でできた鏡のようだねぇ」


 リリスさんが零した言葉も耳に入らなかった。

 それくらい不思議で神々しい光景だった。

 妖精達が厳か(おごそか)に口を開く。



『水よ 数多(あまた)の水よ 我等の力を依り代に 異空を繋ぎ 我等の望みを果たしたまえ


 我等の望みはただひとつ

 異界に存在する 至高なるもの

 その名は…………いちご大福 』


 「……」


 いちご大福……あわなーーい!!


 厳かな口調と「いちご大福」のフレーズが合わなすぎて、神々しさに魅入られた頭もすっきりクリアになった。

 ──突如、ぐにゃりと空間が曲がった気がした。



『今、我等の手に!! 』


 三人の気迫の籠もった言葉と共に……。

 ぽて、ぽて……ぽてぽてぽて〜

 ……白い大福が目の前に落ちてきた。

 次いで赤い何かがぽとぽと、と……。


 山盛りの大福越しに、成功を喜ぶ妖精達を見え、私は一人合点がいった。


 そういうことかぁ〜。


「いちご大福」は召喚?するには高度だったようで、おそらく読み取れた「いちご」と「大福」が届いたのだろう。


 まあ、ロスから聞いた話でも、微妙にズレてたしね。これはまだ「近い」と言える気がする。日本の宅配便ならクレームものだけど、ここは異世界だし、私は懐が深いから大丈夫よ。


 ふふっと笑いを浮かべるも、宅配便では無いことにミレイは気がついていない。


『姫も喜んでるの〜! 』

『ほんとじゃ! 』

『成功じゃー! 』


「ありがとう、すごく嬉しいよ。みんなで食べよう」


 実際、いちごも大福も久しぶりだ。

 大福を一口頬張ると、もちーっと良くのび、中身は私の好きなつぶあんだった。


「これは……なんだい? 」

『おいしいの〜! 』


 クウだけではなく、リリスさんからも感動の声が上がった。

 私達は大福といちごを美味しそうに頬張った。


 プリーズ! ほうじ茶



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