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第20話 リベンジ前夜





 半夜の頃。森の中から、そこかしこでぼとぼとと、雨粒が落ちる音がした。

 いつもなら夜鳥達が近くの木々で夜のコンサートを開いている頃だが、今日は彼等もお休みのようだ。ミレイは束の間の静寂の中、窓を伝う白糸のような、か細い雨に見惚れていた。


 綺麗……。


 窓を伝う雨は異界も元の世界も変わらない。

 もっとも元の世界にいた頃は、窓を伝う雨に見惚れることもなければ、気にする暇もなかった。



 ここはミレイの自室。

 テーブルの上では妖精達が眠りについている。三人で仲良く眠る様子は可愛らしい。



 ──あの後、ゼゴウスの中身をくり抜き、花や葉の汁と混ぜ合わせ「インクもどき」を作ってみたところ即席にしては良い出来だった。


「いいじゃないか、ミレイ。これは試作と言っていたが、このまま使えるよ。明日、早速実行したらどうだい?」

「実行? なんかするのか? 」


 私はニウさんに子供達、引いては村人と仲良くなるためのプランをはなした。

 もちろん「懐柔」や「ぎゃふんと言わせたい」といった内容は割愛し、耳障りの良い言葉だけを並べたので、まるで選挙活動みたいだ……と内心、自分で自分自身を皮肉ってみたものだ。


 人の良いニウさんは、即座に協力すると言ってくれたので、ありがとう。……と謝意を伝えたが、内心「ニウさんならそう言ってくれるかも」と想像していた。


 ──ひと癖あるおじさん達なら、なんとも思わないけど、人の良いニウさん相手だと罪悪感……あったなあ。


 積極的に作業に取り掛かろうとしてくれたニウさんに、耳と尻尾が見えた気がしたのは……気の所為ではないと思う。

 ミレイの中では愛嬌のある……柴犬だった。


 いやいや。いろいろとお世話になってる人が犬に見えるって、私ひどいでしょ?!

 ……いや、犬かわいいけどね。でもね……。


 ニウさんへの罪悪感が二割増しになった瞬間だ。


 その後、ニウはゼゴウスの果実を手にとり、手際良く半分に切って行く。中身もくり抜こうとしたところで、ニウの手にミレイの手がそっと手を添えられた。動揺するニウの顔はどんどん赤くなっていった。


「えっ!……あの。……えっーと……なに? 」

「ありがとうございます、ニウさん。でも、ここまでで大丈夫です」

「……なんで? 俺だって手伝うよ。男手があった方が早く終わるだろ?」

「そうですけど……それよりもニウさんには別にお願いしたいことがあるんです」

「別に? 」


 私はリリスさんにも作業の手を止めてもらって、まずは明日、ニウさんのお母さんに会って企画を話し、賛同を得たい旨を伝えた。

 各部署のトップに事前に話を通しておくのは、社会人の基本。ここでは若い女性達をまとめているのは、おそらくニウさんのお母さん──ニウママだ。


 ニウさんはしぶしぶ了解し、試しに作ったサンプルを持って帰宅してもらった。その背を見送りながらリリスさんに「……ニウさんに明日のこと、良いところだけ話しましたけど……怒ってますか?」と恐るおそる問いかけると、返ってきた答えに少し驚いた。


「何言ってんだい。一から十まで全部しゃべる事もないし、あんたはあの子に協力を仰いだだけだろ? 利用……ましてや悪用しようとしてるわけじゃない」

そうだろ?……と、真剣な目で逆に問いかけられ、私は全力で頷いた。それを見て、リリスさんも口角をふわりと緩めた。


「第一、女に秘密はつきものなんだよ」

「秘密ですか?」

「あ〜そうだ。秘密があるから男は関心をもつんだ……。覚えときな」


 作業を再開しつつ、ニンマリと笑う姿は格好良くて、つい笑ってしまった。


「でも不意に手を握る。……なんてマネができるなら素質はあるのかね〜」と、聞かれ、私は「手を握る? 」と疑問符付きで答えたら、リリスさんと妖精達は顔を見合わせて、何故か深い溜め息をついていた。


『あやつが少し気の毒になるのじゃ』

『姫に悪女は無理なの〜。本当の悪女なら全部作らせて、片付けまでさせてから帰らせるの〜』

「たしかにその通りだ」


 リリスさんと妖精達は楽しそうに口元を綻ばせていた。


 リリスさーん。少し前にニウさんを悪用したらダメ、みたいなことを言ったのは誰でしたっけ? 




 ──ふふっと、思い出し笑いをしたところでミレイはぶるりと身震いをした。

 長い間、窓辺に居たせいか体が冷えたようだ。

 雨音も弱くなり、窓辺の白糸も銀糸の雨跡に移り変わっていた。


 もう寝ないとね。風邪をひいたら意味ないものね。プレゼン前の体調管理、最も大事!


 ミレイはベットに潜りこむと、その温もりに自分の体が思っていたよりも冷えていたことに気がついた。ほっと、その温かさに身を委ねると、ミレイは揺蕩うように意識を手放した。



 ……窓の外では滴る雨も煙雨と化し、雨上がりの兆しをみせる。微かに、リーンリーンと虫の鳴く音も聴こえてきた。

 あと数刻で夜明けとなる。




 いつもお読み下さりありがとうございます!


 不慣れな点や拙い文章ではありますが、モチベーションの維持にも繋がります。


もし宜しければ、評価 いいね ブックマーク登録をして頂けたら嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。



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