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第1話 はじまりの海

念のためにR15指定にしてあります。

 


「……」


 バタン!


「水原。ボーっとしないで機材運んでおけよーー!」 

「時間ないよ〜」

「すみません!」


 慌てて車から機材を降ろして準備を始める。

 私は水原美澪。


 これから潜水艇で海底の調査に向かうところだ。

 好きで就いた仕事だし、気を抜いているつもりもないけど、この海に着いてからいつも以上に「呼ばれてる」気がする……。


 ──まぁ。昔から「呼んだ?」って振り向いても、いつも「呼んでないよ〜」って言われるんだけどね。


 のんびりな性格が幸いして、今では何も思わなくなったけど、思春期の頃はいじめかも、と真剣に悩んだ時期もあったのだ。


 おかしいなぁ〜。

 幻聴もここまでくるとマズイよね〜。

 でも病院に行っても……ねぇ。


 美澪はウエットスーツを着て、必要な物を運び込み、潜水艇の中に乗り込みながら考える。


「誰かに呼ばれてる気がするんです」なんて、一歩間違えたら……ねぇ? 厨二病? 20代女子で? 

 それはキツイなぁ……。


 潜水艇が海の中に入って行く。

 光も届かない、暗い海のなかを目指して……。




  ◇  ◇  ◇




『もうすぐじゃ』

『うむ。もうすぐじゃ』

『会えるかの〜』



 たしかに 呼んでいた


 目にみえなくても


 聞こえていなくても 



 ──微かな希望をこめて

 


 『──』と




  ◇  ◇  ◇




 ぱちっ ぱち。

 目を開けると、そこは……暗くて狭い箱の中だった。


 あれ……?


「おい。なに寝てんだ。 仕事しろ」


 不意にコツンと頭を叩かれた。


「……痛い」

「寝てるお前が悪い」

「私が悪いですけど、もう少し優しく起こしてくれてもいんじゃないですか? 」


 ……そうだった。今は海の中だ。


 狭い船内で隣で舵を取るのは主任の風木冬馬さん。8つ上の頼りになる良い上司だ。


「普通は海底に向かう時は、みんな多少の緊張や恐怖感があったりするもんだ。寝るなんてお前くらいだぞ」

「寝てたって言っても一瞬じゃないですか。

 それに私、昔から水が怖いって思ったこと無いんです。むしろ暗くて気持ちがよくて〜」

「潜水艇を揺り籠みたいみたいに言うな! 」

「さすが主任。上手いです」

「……もういいから仕事してくれ」

「すみません」


 気を取り直して、私が船外カメラの操作をしようとした時、突如機体が大きく揺れた。


「わっ! 何ですかこれ。私何かしました!?」

「わからん。舵が、効かない! 」


 こんなところにこんな変な海流は存在しない。 


 ぐるぐるまわる。


「主任! なんですかこれ!! 」

「わからん水原! 掴まれ! 」


 機体に水が入ってきた。


 私の意識は……そこで途切れた……


 


  ◇  ◇  ◇




「……」

「…………」



 なんだか騒がしい。

 人の気配が……する。


 ぱちっ ぱち。

 目を開けると、目の前には……無数の目があった。


「きゃあ!! 」


 慌てて飛び起きて周りを見渡すと、外国人風の人が大勢いた。男達は武器を持ち、女達と子供は後ろから訝しげに見てくる。


「αγεηδθκ」

「ρνζδψ」


 何を言っているのかまったく解らない。


 ここはどこだろう。

 主任は……?


 突然の出来事に怖くて泣き出してしまった。

 すると男達を掻き分けて一人の老婆が出てきた。何事か言い争っているが、やっぱり解らない。

 老婆は私に近寄るとゆっくりと何か話しかけ、言葉が通じない事がわかると、自分の上着を肩にかけてくれた。見上げると老婆は優しく微笑み、私に手を差し伸べてくれた。


 この人は怖くないかも……。


 老婆の後について森の中を歩くと一軒家に着いた。

 畑があり山羊みたいな動物もいて、室内は物は多いが綺麗に整頓されていた。

 老婆は私を椅子に座らせると奥の部屋に行ってしまった。キョロキョロと見渡したところ、テレビも家電製品もない。


 昔ながらの文明を大切にしている島なのかな……。


「主任、どうしたかな」ふと呟く。


 老婆が不思議な瓶を持って現れると、コップに注ぎ私の目の前に置いた。


 飲めってことかな?


 怪しく思うも、あの状況から助けてくれた老婆なら大丈夫だろうとコップの中身を口にする。


 んーー! 正直、美味しくない! 


 日本の美食に慣れた私の舌にはかなり不味かった。でも残しては失礼だ!と思って、ぐいっとコップを煽る。


「まっずー! 」

「そりゃ悪かったね」

「!!!!」


 びっくりして立ち上がる。


「なんで? 言葉が解る!」

「そりゃ、そういう薬だからね」

「そんな馬鹿な!」

「なんだい?」


 ジロリと見られた。老婆は瓶を持ってまた奥に行ってしまった。


「ははっ。人魚姫みたい……」


 人魚姫とは逆だし、むしろドラ○もんの世界かな?

 イマイチ理屈は解らないけど言葉が理解できるのは助かる。


「言葉が解るなら、何とかなる……かもしれない? 」


 老婆が戻ってきてから現在地を聞いてもアーブなんて国は聞いた事もないし、日本なんて国も聞いた事が無いと言う。


「あの、私と一緒に男の人がいませんでしたか?」

「男? いいや、あんた一人だったよ」

「そんな……」

「とりあえず私の服を貸すから着替えな。明日、村長のところに相談しに行こう」


 私は老婆に進められ、今日はそのまま眠りに着いた。


 主任、大丈夫かな……。



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