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第190話 ミレイの覚悟③

この話で終わりの予定でしたが、区切りが悪くて次回まで持ち越します。

よろしくお願いします



『どうしたミレイ?』


 クウやサンボウとの会話を遮り、甘い笑顔で歩みよると頭から頬に触れ、髪を一房掬い上げそっと口づける。


「……」


 流し目なんてキザったらしい! と、いつもの私ならドン引きするのに、嫌味なくキマっているからたちが悪い。

 人外の美しさに加えて大量に発せられる色気。


 ……こんなのまるでフェロモンの散弾銃だわ。


 顔が赤くなってる自覚はある。

 困ってるはずなのに、自然と緩む自分の頬も憎らしい



 これは……ダメだ。

 死守するどころか……自分から首に手を回市かねない!!

 

 もやもやと、想像と言う名の『妄想』が脳を支配していく。うっとりとした顔でしなだれかかる自分が浮かぶ。



「ダメ、ダメよ! まだ早いわ!」

『何がだ?』


 頭をブンブン振る私を怪訝な顔で覗きこむ水龍さま。銀の髪が揺れて蒼い瞳に影をおとす。

 それを直視したミレイは、真顔で数歩後ずさりした。


「……ほんとに恐ろしいひと」

『だから何がだ?』



 水龍は意味がわからなかった。

 ミレイが赤くなったり青くなったり、なんなら距離を取られている現状も。



 少し急かしすぎたか?

 しかし私に惚れていないミレイは、また「帰る」と言い出しかねない。それを避ける為には四六時中側にいて、私で満たさないと……。

 同情や妥協から生まれた愛ではなく


 心からの「愛情」が欲しいのだ


 

 先程の絶望的なまでの喪失感が拭いきれず、いつになく強引に進めようとする水龍と、あらぬ妄想をして貞操を死守しようとするミレイ。


 双方に行き違いが生じていた。



 ──そう。水龍は本当に『同じ空間を共にしたいだけ』だったのだ。


 全てはラウザの『俺だったらーー』という思考による刷り込みと、肉食獣というワード。それによりミレイは『据え膳喰わぬはーー』などど言う、古めかしい言葉が頭をよぎったためだ。



『ミレイ?』


 小首を傾げる水龍にミレイは「くっ……」と息を漏らす。


 かっこいいと可愛いが同居できるなんて。


「そんなの知らないよーー!」



『はぁーー。先程からどうしたのだ、お前は』


 不審な行動をとる私に、痺れを切らしたヒルダー様が声をかける。


「ヒルダー……さま? ──あっ。私、ヒルダー様にお願いがあるんです」


 反転した私に、少し体を仰け反らせながら『……私にか?』と、怪訝そうに返し、そしてチラリと斜め上を見た。

 ついさっき「お願いがある」と申し出たのは王に、だったからだ。

 もちろんそれに気づかない水龍ではなく、柳眉が僅かに歪んだ。



「ええ。私を──養女にして下さい!!」

『……』


 何の前触れもなく紡がれた突拍子もない言葉。


 もちろんヒルダーは驚き半分、呆れ半分でミレイを見据え、周りも何とも言い難い静寂が流れたのだった。そんななか、口を開いたのは水龍だった。


『……その意図は?』


 少し低音の水龍の声が静かな部屋に響き渡る。


「はい。私がもし王妃となった場合、僅かに王族の血を引いているとはいえ、平民の生活しか知らない異界の者ですから貴族の中には反発があると思うんです。 だから後見人が欲しいんです」


『……後見人』

「はい。この国での私の後ろ盾となる存在です」


 ──そう。ラノベや漫画の定番『後見人』

 たしか身分の低い令嬢が高位の人に嫁ぐ時に使う必殺技よね。まさか読みあさってた知識がここで役に立つなんて! やっぱりどんな本でも読んでおけば、実践で役に立つってものよねぇ~。


 感慨深く一人頷くミレイには、水龍の機微を察することはできなかった。水龍の後方で控えるクウはゴクリと生唾を飲み、目を伏せる。


『……私がいるではないか』

「水龍さまだけだと不安なんです」

『……』


 しれっと言ってのけるミレイに、周囲の者達は密かに、高速で視線を交わした。


『…………そうか』


 ゾワリと背筋が凍りつく。

 王の発する気が一段、冷えた気がする。


 水姫は何を言ってるんだ?!


 今すぐその口を塞いでやりたい、衝動に駆られた者は一人二人ではなかった。



「あっ。勘違いしないで下さいね。水龍さまの事はちゃんと信頼しています。でも女の世界はやはり女ありき、ですよね?」


 ──そう。女の世界は男の世界より陰湿でたちが悪い。男の前だと猫を被るような者が王の前で素を晒すはずもなく、今のミレイには牽制できる手段も手腕もないのだ。だから後ろ盾となるべき人に身を寄せようというのだ。


「エリザベート様から勉強させて頂きつつ、その庇護下に入りたいなぁ、と思いまして」

『ふむ……』


『なるほど。我が妻を利用したいと言うことか。……はっきり言うものだな』


 ヒルダーの言葉に緊張感が走る。


 しかしミレイはそれを真正面から受けとめ「本音ですから」と笑顔で返した。



『ふふっ。やはり面白いやつだな。──よかろう。これからは()()()ではなく()と呼ぶように』 

「えっ!! それじゃぁ……」

『あぁ。お前の後見人になってやる』

「やったーー!!」


 よし! これで布石はできた!!


 ガッツポーズで喜んだミレイは、そのままの勢いで水龍に向き直り「では今夜はこのままヒルダー様のお屋敷に向かいますね」と、にっこり笑って言い放った。


『『…………はっ?』』



 『鳩が豆鉄砲食ったよう』……なんて表現があるけど、こんな顔なのかな?

 そう思うくらい、みんな呆気に取られた顔をしていた。


 わかる。わかるよ?

 意味わかんないよね?

 でも私の貞操を死守する為には必要なんだよーー!


「駄目ですか? 急ではありますが、早速今夜から()()()の家に伺いたいのです」


 すがるように哀願の視線を投げると、さすが魑魅魍魎が蔓延る宮廷で生きてるヒルダー様。ミレイの言いたいことを察してくれたらしい。

ため息まじりに『わかった』と呟いたのだが、それに待ったをかけたのは水龍さまだった。


『ちょっと待てミレイ。せっかく想いが通じ合ったんだぞ? 私は片時も離したくないのに』

「……」


 片時も……かぁ。


 私が言葉を選んでいる間に、若干食い気味な『良いと思います』が耳に届いた。


「……サンボウ?」


 そう、今まであまり存在感の無かったサンボウだった。


『まぁ、たしかにそれも有りかもな』


 ロスも苦笑いを浮かべながら賛同してくれた。


『……お前達、私の邪魔をするつもりか?』

『滅相もございません。私共は姫の意思を尊重してるだけですので』


 恭しく下げられた頭に、水龍さまは忌々しそうにそっぽを向く。若干悪くなった空気を元に戻したくて「まあ。とりあえず明日の昼には一度こちらに来ますから」と、笑ってみせた。

 水龍さまは納得いかない様子ではあるが

『わかった。無理強いはしない』と言ってくれた。


 良かったーー。

 とりあえず守られたよ。私の貞操!


 ミレイは心の中でガッツポーズを決める。

 

『ふむ。ミレイが私の義娘となるならば、少し訂正しておくか』

「訂正ですか?」


 不意に投げられた言葉に、ミレイは衝撃を受けることとなる。


『お前はまだ正式な王妃ではないのだ』と……。


『『ヒルダー卿!』』


 窘めるように厳しい声音が響くなか、ミレイは呆然と立ちつくす。


「……えっ。私、まだ王妃じゃないんですか?」

『いかにも』

『兄上。なにも今、話さなくても』


 一番慌てているのはシリックだった。

 兄の側に駆け寄り、話を遮ろうとすると

『私は身内には誠意をもって接すると決めているのだ』と、逆に強い言葉で返された。


『仕事柄話せない事も多い。敵もたくさんいる。そんななかで家族に出来ることは──心を尽くすことだけだ』

『……』

『ミレイが私の義娘となるならば、ちゃんと話しておきたいし、そもそもこんな騙し打ちみたいな真似は好かん』


『好き嫌いの話ではないんですが……』


 権力者であり、実力者でもある兄弟の会話に入れる者がいないなか、大神官様は

『弟君の想いにも配慮してるからこそ、今の今まで口を噤んでいだんだろうて』 と、優しくヒルダー様の考えを口にした。



「あの、それで私は正式な王妃じゃないと言うのは?」


『……ふむ。ミレイよ、お前は陛下の御名を知っているか?』

「えっ?水龍さまの名前……ですか?」


 そんなの知ってるし


 そう思って、思い起こしても


 ──ん。……あれ?


「そう言えば……知らない……かも」


 そうなのだ。

 みんな陛下とか、王とか、水龍さまなんて呼ぶけど、名前を呼んでいるのを聞いたことがないことが無い。


「えっ……どうして?」


 今まで疑問に思わなかった私も問題だけど、なんで誰も呼ばないの?


 その場にいる全員を見渡しても、誰も何も言わなかった。





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