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第187話 怒りと釈明②

 


 天窓から柔らかな光が部屋を照らす夜半の頃。満月も僅かに傾きをみせる。


 この部屋に入ってからどれほどの時間が経過したのだろうか。


 ──王族に連なる者が異界に存在した事実に始まり、王の暴走と収束、そして王の婚姻……一夜の出来事と済ますには、あまりにも濃密な夜だった。


 しかしまだ夜は終わらない




  ◇  ◇  ◇




『簡潔に申しますと、出生率の低下です』


「………………。本当に簡潔ですね」


 焦らした時間は何だったのか、と問いたくなるくらい、あっさりとシリック様は言ってのけた。


『ここ数百年もの間、貴族平民に関わらず国全体での出生率の低下が著しいのです』


「まぁ……私の国でも出生率の低下は問題になっていますけどね」


 意外にも馴染みのある問題だった、と言ったら語弊になるかな。

でも龍族特有の問題とか、国政が〜……なんて重い話が出てくると覚悟してただけに、少し肩透かしを喰らった気分だ。


 そんなを空気を察したのか、カリアス様に、人間の寿命は百年くらいか?と、聞かれた。

 そこまで生きられる人は少数だし、実際のところ百年生きたら大往生と言ってもいいレベルだよね。でも、事細かに話す必要もないかなと、とりあえず頷いておく。


『龍族は五百年くらいは普通に生きる種族です』

「!! 五百年」


 改めて聞いたことはなかったけど、そんな長命だったとは。それじゃ私が赤子扱いされたのも納得がいくよ。


『だからこそ、出生率の低下は国家の存亡に関わる案件なのです』

「……」


 カリアス様の言葉に、部屋は静寂に包まれる。重い空気がこの問題の重要性と難しさを物語っているように思える。



『……まったく生まれないわけじゃないんだ。でも生まれても一人か、多くても二人だな。だからこそ長年、手つかずの案件でもある』


 髪を無造作にかきあげながら、困ったように眉尻を下げるラウザ様がいた。


『例外もありますけどね。マルティーノ家は三人も生まれましたし』

『あぁ、当時は「神の奇跡」と騒がれていたな』


 みんなの視線がクウとマルティーノ卿に注がれる。


 たしかクウにはお兄さん二人いたよね。一人はあのいけ好かないヤツ。

 それでも三人は稀なことらしい。


『……しかし三人とも男です』


 マルティーノ卿の言葉にもう一度場が静まりかえる。私は何が悪いのか分からずに、周囲を窺っていると、カリアス様が教えてくれた。


 ──出生率が下がってるだけじゃなく、生まれてくるのも男児が圧倒的に多い、と。


 思い起こしてみるとそうかもしれない。

 クウの家は全員男だし、サンボウの家もそうだ。親も二人も男兄弟で、その子供も同様だ。カリアス様も兄弟はいないと言う。しかも水龍さまに至っては、ただ一人の直系王族らしい。

 それが何代も続いてるって話だから、それはたしかに誇張してるわけじゃなく、国の存亡の危機……だよねぇ。


「お城に男性が多いのは、男社会なのかと思ってたけど……」


『官僚は男だから男社会は間違っていないけど、使用人は別なの。むしろ侍女が少ないから侍従を多く雇っているのが現状かな』

「そうなんだ」


 近侍頭としても頭の痛いところなのだろう。



 あーー……そうか。


 ミレイは何故こんな茶番ともとれる暴挙に、常識ある国の重鎮達全員の足並みが揃ったのか、納得がいった。



「……ひとつ家族で考えたら、数百年の間に子どもが一人ってことになりますよね」


 長命種ゆえの弊害だろう


『えぇ、だからこそ今代の王の伴侶にニンゲンの女性を迎えることは決定していたのです。』


 前の水姫のこと、ね。


『紆余曲折の末、我々が得たニンゲンの女性は異界から呼ばれた者でした。調べて行くうちに、僕はどうしても貴女が欲しくなったのです。

貴女の世界では三、四人の子を成すことは普通のことなのですよね?』


シリックの言葉に

『三、四人?!』

『そんなに?!』などと、驚きの声が上がる。


「それは人によるとおもいます」 


『それでも……希望がもてる話です。──漠然とした不安を抱く民に、まずは王家から明るい未来を示すことができれば、国は再生の一歩を踏み出せます』


「王家だけに生まれても解決にはならないと思いますが……」


『もちろんです。それについての対策も考えてあります。しかしまだ話せる段階ではありません』

「……」


 悔しいけど、シリック様はやはり出来る男なのだろう。広い視野を持ち、常に一手二手先を読み、こちらの疑念をことごとく論破していく。


「話をしぶった論点もそこにあるのかしら」

『まぁ、そうですね』

「……」


 気になるけど、話せないと言われたらそれは納得するしかないだろう。


『おそらくですが、ニンゲンの世界との交流を再開するつもりだと思いますよ』


 不意に投げかけられた言葉はサンボウからだった。その回答にシリックは眉を寄せた


『……要職に就く者が憶測て発言するなどあってはならないことですよ。内務宰相殿?』


 あえて息子を役職で呼ぶとか……


『内密にしなければならないほどの内容には思えなかったのですみません。ここにいる方々ならば皆さん、容易に想像できると思いますが』


 うわーー……。なんかバトル始まった?

 ……っていうか居たんだねサンボウ。

あまり静かだったから存在忘れてたよ。ハハッ……


 それにしてもここの親子は仲悪いなぁ〜。

 たしかにシリック様の話は気になってはいたけど、バトルまでは望んでないんだよ、サンボウーー!


 そんなミレイの心の声が聞こえるはずもなく、サンボウは話を進めて行く。


 ──話を要約すると、人間との国交を再開することで、昔のように人間と龍族の混血児を増やすことが目的らしい。その際、龍族の人間に対する意識を変える為に『優秀なニンゲンの王妃』が必要になるって話だ。


『その逆もある。ニンゲンの女性がこちらに来る場合も、王妃はニンゲンだと言うだけで、不安が軽減されるとものだ』


「……なるほどね」


 それって責任重大じゃない?

ただの小娘にそこまで期待しないでほしいんだけと……



『……だからこそ、話したくなかったのですよ』

「えっ?」


『今、面倒だとか責任が……とか考えていませんか?』

「えぇ……まぁ」


 ヘラっと笑って場を濁そうとしたけど無理だった。二十代の小娘が背負うには重すぎる案件だよ。


『貴女に背負わす気はありません。だだ、この国に再生となるべく新しい息吹を吹き込みたいだけなのです』


 心からの言葉に、つい今までのことを許したくなってしまう。






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