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第184話 最適解①

かなり間があいてしました!

訪れてくれた方々すみませんでした!

次からはいつものペースに戻りますので、あと少しお付き合いください。



 ………………えっ?



 水龍は何が起きたのか分からなかった。


 ──柔らかい感触と微かな温もり



 それはほんの一瞬の出来事

 でもずっと待ち望んでいた感触でもあった。



『ミレ……』


 たしかめたくて言葉を紡ごうとしたその時、不意に口内に異物を感じた。


 ──ゴクリ。


 普段ならば、わけのわからない異物など決して嚥下しない。しかし思考停止に陥った頭は役にたたず、反射的に飲み込んでしまったのだ。


『なにをっっ!!』

「大丈夫ですよ。…………たぶん?」


 たぶんって何だ、多分って?!


 いい加減な返答に反論しようとした時


 ──ドクリッ。



 不意に心臓が大きく跳ねた。


『なん……だ?』



 再びドクリッと跳ね上がる


 なんだ? 心臓が──



『ハァッ……ハァァ……』


 大きく息を吐いてみるが、心臓は尚も力強く早鐘を打つように暴れ、体温が上昇していくのを感じる。体が自己防衛を優先してるのだろう、水龍の体から微かに湯気のようのものが立ち昇っていた。


「えっ……。これ大丈夫なの?」


 息は荒くヴゥッと呻き声を上げる様子に、口の中に突っ込んだ張本人であるミレイは、焦りを隠せなかった。


 そもそもさっきの何?!

 ロスを信用して何も考えずに口に入れたけど……。


 なんか……湯気出てるよ?



 不安に駆られて片手を伸ばすと、龍の鼻に手を掛けてただけのミレイの手が、ツルッと滑った。


「…………あ……れっっーー?!」


 背中から落下していくなかで、見上げた先には苦しむ龍体の水龍さま。しかし金色の瞳は視線が合うや否や、手を差し出してミレイの体を抱きとめたのだ。


『ミ…………レイ』


 龍体なら片手の手の平で十分収まるミレイの体。間近に見る爪は黒く鈍い光を放ち、その大きさはミレイの太腿から爪先まであるくらい大きかった。

しかしその巨大な爪がミレイに向けられることはなく、むしろ傷つけないように硬直してるようにさえ見える。  


「……水龍さま?」


 湯気のように見えるのは、放出された妖気らしく霧のように二人の姿を覆い隠す。



 不意にミレイの視界が揺らいだ。


 目の前の気配が龍から人型へと揺れ動くのを感じ、ホッと息を吐いた。

 そしてミレイを支える手も収縮していく。




『…………大丈夫か?』


 銀髪がサラリと揺れ、私を抱きとめるのはがっちりした人の形をした両の手。その瞳は金色ではなく、いつもの蒼の瞳だった。



『……はい』


 霧のような濃い妖気が霧散すると、そこには龍体から元の人型へと戻った水龍とミレイがそっと寄り添う姿があった


『やったな!』

『ほんとに、どうなることかと……』

『これで一安心ですねぇ〜』


 歓喜と安堵の声があちらこちらから湧き上がる。




「水龍さま……大丈夫?」


 その声をどこか遠くに聞きながら、水龍はミレイの憂わしげな表情を見つめた。


『……』

「水龍さま?」


 ──あぁ。わたしの腕の中に ミレイがいる


 もう 離さない……



 水龍は昂る高揚感のまま、ミレイの体を抱きしめた。


「いっ、いた、痛い!!」

『……あっ。すまない』


 咄嗟に手を緩めるが、ミレイからは離れることなかった。


「もう。ちゃんと力加減してください」


 恨めしそうに上目遣いでこちらを睨む目に、更に感情が昂っていく。

その感情のまま、もう一度『愛』を告げようとして、ある事にきずいたのだ。


 ──そうだ。私はミレイを監禁しようとして……


『あの……あれは……』

「……」


 まずは赦しを請わねば


『先ほどのことだが……。お前の気持ちも考えずに、その……すまなかった!』


まるで新人営業マンの如く、両手を身体に沿わせ頭を下げるではないか。さすがのミレイもコレには毒気が抜かれた。


「いいですよ。私も悪かったので……ごめんなさい。でも! 次に監禁とかしたら怒りますからね?」


ここ重要。

あんな怖いの、二度目は嫌だ。


『………………善処しよう』

「そこは、わかったじゃないんですか?」

『約束できないからな』


 まさかの確約もらえず、なんて。

 でもそれよりも今は……



「……あの。さっきの伝わりました?」


 せっかく勇気を振り絞ったのだから、伝わって欲しくて、確認してみると、案の定。水龍さまはとキョトンとした顔で『なにを……だ?』と聞いてくるではないか。


 あーー。これ伝わってないな。

 このまま有耶無耶にしちゃう? 

 それでもいいんだけど……

『婚約者』なんてめんどくさいし、その覚悟も()()ないし……


 でもあの瞬間。本当にいいと思ったんだ。


 このままこの人が苦しい思いをするなら、たとえ全部捨てることになったとしても構わない……って。この国で生きていく……って


「……」

『……』


 なんとも言えない二人だけの沈黙に、周りの者も何も言えなかった。水龍は水龍で、先程の失敗を挽回すべくミレイをつぶさに観察した。


 右手で片方の腕をさすりながら、視線は上を向いたり、足元を見たり、何か伝えるか迷っているふうに見える。


『何か伝えたいことがあるなら言ってくれ。私はもう間違えたくない』


 真摯に言われれば、話も聞かず監禁しようとしてくれたことを反省してくれてるのだと、話を聞こうとしてくれてるのだと嬉しく思う反面。…………退路を断たれた気がしたのだ。


「……その。……わからないんですか?」


 顔を上げたミレイは、紅潮した頬に非難混じりの上目遣いでをしていて、普通に「可愛い」と思ってしまった。


「……へんじ……です」

『返事?』


「だから! ……ぅこんの……返事、なんです……けど」

『??』


 こんなに多くの視線のなか、口にするのは躊躇われたが、このどこかニブイ男は気づいてくれそうになかった。

 ミレイは覚悟を決めて叫んだ。


「もぅぅーー! にぶいんだから!

 求婚の返事だってば!!」


 顔を真っ赤にして肩を震わせながら睨みつけると、ようやく理解したのか、水龍はハッとして目を見開くと口元に手を添えた。


 そうか。先程の口づけは……



 水龍は満面の笑みに喜色の色を浮かべると、もう一度ミレイを抱き寄せた。


『すまなかった!』

「もう! 鈍すぎるんですけど!

それで良く王様やってられるわね!」

『ふふっ。そうだな』


 どんなに憎まれ口を叩かれようが、今の水龍には全部「愛の言葉」としか思えなかった。



『これでミレイは私の婚約者だ。私のものだ』


 ミレイの手を取るとその小さな手を頬に寄せて、頬ずりをする。


『破顔』

ともとれる満面の笑みにミレイは「とりあえずの婚約だからね?」と、予防線を張ってみた。


『大丈夫だ。逃がすつもりはないから』

「……」


 しかし返ってきた言葉は、爽やかな口調でありながら、思った以上に重い言葉だった。


 こんなセリフは活字で読むもので、実際に聞くモンじゃないなーー……。


 ミレイは早くも「早まったかも」と、後悔したことは内緒の話だ。




『王よ。歓談中失礼しますが、勘違いなさっておいでですよ』


 その激甘な空気に口を挟んだのは、ある意味()()()()()()()()シリックだった。


『勘違いだと?』


 邪魔をされたあげく、横槍を入れられて水龍の機嫌は乱気流の如く急降下を見せた。


『はい。恐れながら申し上げますと、お二人の間の「婚約の儀」は、すでに済んでいるものと思われます』


「…………は?」

『なにを……』



 これには水龍さまも「わからない」っといった顔をしている。

 シリックはグルリと周りを見渡した。


『各々、先程の諦観鏡(ていかんきょう)の映像を思い出して下さい。眠りにつかれた王を、水姫様はどのように起こしていましたか?』


『どうって……水盤を上から落として、だろ? 

 ──俺らなら絶対にやらないけどな』


 警務長官のラウザが腕を組みながら答えると、ミレイの胸がツキンと痛んだ。


 ひとこと余計だよ……。


『最終的にはそうですね。でもその前は……?』


 シリックの口端は優美に弧を描き、首を微かに横に倒した。


『まえ?』


 場違いなほどに美しい動きに、ラウザは奇妙な違和感を覚える。


『前と言うと……叩いて蹴って、怒鳴りつけてましたね。 あぁ、そう言えば口づけもしていたような……。──水姫様あれにはどういった意味が?』


 真面目な顔でカリアスがミレイに質問をする。


 そんなこと聞かないでよ……

 もう終わったことでしょ?!


 片眉をピクリと上げたミレイは、無機質な声でそっぽを向きながら、人界にいた時にロスに提案されたからだと、自己保身の為に、嫌々ながらも説明をした。



『なるほど。アレはヤン騎士団長の指示でしたか。良い仕事をしますねぇ』


『シリック様はなんでそんなに上機嫌なんですか?』


 胡散臭いやり取りに、思わず敬語になるラウザと同じ頃、ヒルダーが『そうか』と呟いた。


『ヒルダー卿は気づいたようですね。その様子だと大神官様も……?』

『さて……』


『どういうことですか?』


 ロスは自分の名前が出たうえに、イヤ〜な薄ら笑いを浮かべられたものだから、若干問いただすように質問をした。



『水姫様はすでに口づけをしてるんですよ。眠っている龍王陛下に……』


 シリックは人差し指を唇に当てると、そっと微笑んだ。




 逃がしませんよ……水姫






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