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第177話 邂逅②

 


 諸悪の根源にひとこと言いたくて口を開けたその時


『まさか。……嘘だろう?』


 と、非難の対象が信じられない物を見るかのように、ぽとりと雫のように呟いた。そちらに視線を向けると、「私」が水盤に手を掛けていた。


「あっ……」


 周囲のざわめきも大きくなる。


 しまったーー!!

 たしか水盤って国宝なんだよね?!

 たしかあの後……アレを上から落として、水龍さまの頭に直撃……させた、はず!


 スーッと血の気が引いた気がした。


 叩くよりもキスよりもヤバい気がする。これより先は、見せたらアカンって、やつじゃない?!


「水龍さま。もういいんじゃないでしょうか?!」


 ロスの胸元から走り出して、水龍さまに提案してみるも『あの日、何が起こっていたのか私も知りたいんだ』と真摯に言われてしまえば、次の言葉を繋げるのは難しい。


『ここから先が重要なんです。

 大丈夫ですよ。貴女の罪については日を改めましょう』


 そう笑いながら言ったのは、隣にいるシリック様。


「罪……って」


 目を見開いて反論しようとした時、


──「根性みせろーー! わたしーー!」



 その声に振り返ると、次の瞬間

 ガシャッン ガラーーン!!

と、大音量のけたたましい音が王の間に響き渡った。



 ──水盤の水は下の水龍さまの頭にかかり、水盤も見事な角に引っかかっている。


「やっ、やったーー!!」



 歓喜のあまりその場から飛び降り、水龍さまの頭の上に着地した過去の私。



 …………終わった


 これは確定だよね?

 叩いて蹴って、暴言吐いた上に頭から水をぶっかて? 更に王の頭の上に乗る人間。

 うん……。生き残れる気がしない。



 当の私は絶望の縁に立っているのいうのに、映像は更に進み、水盤の水が渦となって、水龍の体全体を覆うまでになっていく。当然ながら、水龍の頭の上にいるミレイもその渦に飲み込まれていく。


 もがき、溺れ、ついに息絶えるかの如く、だらりと全身の力が抜けていく。まるで映画のワンシーンのようで、記憶してなければ、それが自分だと結びつけることは出来なかっただろう。



『グォォーー!』


 龍の咆哮が王の間の壁を震わせた。

 水龍の体を覆っていた水が一箇所に集められ、凝縮しミレイの体を下から支える。

 溺死を免れた私と対面したのは、金色の瞳あらわにした巨大な龍。

 笑いあい、そっと体に触れ談笑する様子に、私は今更ながら頑張って良かったと、自分を誇らしく思えた瞬間だった。



 そんな余韻が覚めやらぬなか、フッと映像が切れた。

 長い沈黙が場を支配する。



 ……マズい。もしかしてこれから断罪が始まるの?


 不気味な沈黙に、息を潜めた私の前に黒い影が落ちる。上を見上げると目の前に水龍さまが立っていた。


 ゴクリと生唾を飲む。

 そんなミレイを見て、水龍は苦笑し、その場にひざまずいた。


「?!」


 胸に手を当てて真っ直ぐに私を見る水龍さま。

 その瞳はいつもの蒼色で金色じゃない。でもどちらも宝石のように綺麗だった。


『ミレイ、改めて礼を言おう。この国の為に尽力してくれたこと、王として心からの謝意を伝える。……ありがとう』


 その場にいた全員が王にならい、膝をついて頭を下げる。

 ロスやクウだけでなく、いつも飄々としているラウザや大神官様までも、ただ一人の人間に膝をついた。


「あの! 頭を上げて下さい。気持ちは……受け取りましたから」


 居た堪れなくてなって、困り顔で水龍の腕を取り、立ち上がらせようとする。

 その愛くるしい様子に、水龍の頬も思わず緩み、その小さな手を自身の頬にそっと寄せた。



『おぅおぅ。カリアス見てみろ、あの緩んだ王の顔。とても自分ら知ってる王ではないな』


 楽しそうにクックッと笑うラウザに、話を振られたカリアスは


『そうですね。でもあんな王の一面も私は好ましく思います』


 と、微笑ましい二人を見つめたまま答えた。そんな宰相を見てラウザも、嬉しそうに『……同感だ』と、独り言ともとれる口調で呟いた。



「あのーー。この流れだと私、不敬罪で処されるのは回避できたと思っていいんですか?」


『不敬罪?』


 水龍さまが首を傾げた。

 イケメンなのに、こんなところはちょっと可愛いなんて反則だと思う。


「だって私、いろいろやらかしちゃいましたし……」


 思わず視線を逸らして頬をかく。


『あぁ……。でもあれは私を起こすためにやむを得ずにやったことだろう?』


「もちろんです! はい! やむなくやりました!」


 ここぞとばかりに同調して、チラリとシリック様の様子を伺う。


『その目はなんですか?』

「だからやむなく、なんです!」


 シリックの方を向いて、懇願するように訴える。


『わかってますよ?』

「じゃあ。さっき言ってた罪って」

『あぁ。あれは陛下を籠絡した罪です』


「……ろう……らくぅ? 」

『はい』

「身に覚えがありません!」


 そんな意味不明な罪をかけられるなんて心外だ!


『ははっ。まさか。自分と国の為に命までかける女性を見て、何も思わないとお思いか?』


「いや、それは……。こっちも必死だったからであって……」


 モゴモゴと、言い訳がましい物言いになってしまう。


『そう、それですよ。決して計算ではない純粋な想いが、陛下の御心を震わしたのでしょうね』


 恥ずかしい言葉を口にしながら、ニッコリ笑うシリック様に思わず顔が熱くなる。


『不敬罪などならんことは、私も補償しましょう』

「大神官様……」


 たっぷりの白い顎髭はかつてのロスを思わせて、目頭が熱くなる。


『そもそも。このわしが膝までついて礼を取った相手を不敬罪などに処するわけもない。のうヒルダー卿』


『……心配しなくていい』


 変わらない仏頂面で、その一言だけ告げる。


「ヒルダー様……」


『だから安心しなさい。これでも私は王族に次ぐ権威の持ち主じゃ。我が意は神殿の総意。そなたの身は護られる』 


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げて謝意を述べると、目を細めて嬉しそうに笑ってくれて。その様子は、ただの人の良いおじいちゃんにしか見えない。


「良かった〜。 それじゃ、これで一件落着ですね! 」


 ほっとして肩の力を抜いた時、思わぬ方向から指摘をうけた。


『勝手に終わらせないで頂きたい。諦観鏡の御力に頼ってまで、この映像を映したのは、貴女の力の根源を見つける為でしたよね?』


 マルティーノ卿はシリック様を見定めるかのように、冷ややかな視線を送った。


『えぇ、その通りです。マルティーノ卿。話を戻して下さって感謝致します』


 返すシリックは、変わらない笑顔で礼を述べる。

 それに一瞬目を見開き、マルティーノは『いえ』とだけ、返すにとどめた。


「力の源を探るため?」

『そうですよ。忘れてしまいましたか?』

「いいえ、そんなことはありません!」


 力の限り否定をする。 


 なぜかこの人に無能者判定はされたくないって、思っちゃうのよね。苦手なはずなのに、なんなら嫌いの部類に入るのに……不思議。


『では、話を戻しましょう』


 シリックの一声で、緩んだ空気に適度な緊張感が走る。

 有能たる者のなせる技だろう。


『先程のご覧になった映像からわかるように──』



 王の間に朗々と響く声。

 私が自室に戻れるには、あと少しの時間が必要そうだ。


 あぁ……ベットにダイブしたい。







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