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第176話 邂逅①



『それでは皆様方、こちらへ』


 ヒルダーの言葉に、離れていたラウザ達も諦観鏡(ていかんきょう)の前に移動し、全員で鏡を取り囲むこととなった。


「あの鏡って……?」

『あれは諦観鏡と言って、万物を見通す鏡なの』

「それは……すごいね」


 胡散臭い……と思うのは私だけなんだろうなぁ。


 『詐欺の謳い文句』みたいだと、冷めた目を向けていても、思わず信じてしまいそうになるのは、その鏡の存在感だろう。


 私の背丈ほどありそうな大きな鏡は、『鏡』と呼ばれてはいても何も映してはいない。


 そんな鏡を日本で売ったら、鼻で笑われるか、純粋な方が購入して消費者センターに解約相談の鏡がジャンジャン鳴るか、どちらかだろう。



『陛下。お願い致します』


 シリックは真面目な顔で恭しく頭を下げ、水龍は無言で一歩踏み出すと諦観鏡(ていかんきょう)にそっと触れた。



『──星屑に宿る(いにしえ)の智慧よ 

 深き奥底に眠る記憶よ


 時空を超え 銀の糸を辿り 

 古き言霊(ことだま)を呼び覚ませ


 我は龍王 

 我が力を糧に真実を映し出せ 』



 水龍さまの詠唱のあと、鏡は一瞬ぼわっと光った後、一瞬の間をおいて再度光を放った。

 今度は先ほどよりも強く、そして光は青へと変化し、部屋を覆うように駆け巡る。


「えっ。……なにっ?!」

『大丈夫だ』


 ロスが私の肩を抱き寄せて、優しく言った。私は肩の力を抜くと、目を瞑って光が収まるのを待つことにした。


 不意に懐かしい声が耳に届く。



 ──『いでよ 水雲』

 『待って、ロスだって疲れてるのに』



 顔を上げると、空中に映像が映し出されていた。それは私達が結界を突破し、この国に入ったばかり頃のように思われる。


「……えっ? ……なんで? 」

『しっ。諦観鏡(ていかんきょう)は過去の出来事を再現することができるの』


 クウがそっと耳元で教えてくれた。


「過去のできごと……」



 廃屋の屋上と思わしき場所にいるのは、私と小さな小人のような生き物。 

 顔にはふさふさの顎髭を生やした老人で、声も低く、その姿は私の手の平に乗るくらいの背丈。


 それは紛れもなく、私の隣にいるロスだった。


 ロスだ……!


 もう会うことが叶わない、もう一人の私の友達。



 ──『大丈夫じゃ。水雲なら姫の怪我も防げるし、徒歩よりも早いからな。行くぞ』


 喚く私の手には二人の小さな妖精。

 その顔は真っ青で、あの時の恐怖が呼び起こされる。


 映像は城内を進んでいくつもの階段を下り、真っ暗な螺旋階段を進む。




『……まさかここまで酷かったとは』


 誰かの呟きが漏れたが、言葉を繋げる者はいない。みんな一様に映像を食い入るように見つめていた。


 ……そうだよね。みんなは復活した水龍さまが、元に戻した世界しか知らない。

 数百年間放置された、本当の惨状を知らないんだ。



 窓は壊れ、雨風に晒された室内は黒く汚れて雑草まで生えている。とても今の美しい王宮とは似ても似つかない。


「……」

『……』


 映像は進み、大きい扉の前にたどり着いた。

 王宮の最奥 『王の間』だ。



 ロスは妖精から大人の姿に変え、扉の壁面に埋め込まれている水晶に両手を添えて妖力を注ぎ込んでいる。



 ──『ロス! 光ってる……光ってるよ!」


 ミレイの声にロスは更に強く妖力を手の平に集め、持てる力全てを注ぎこむ。


『ぁ゙ぁ゙ーー!』

「ロス頑張ってーー!!」


 ロスに呼応するかのように水晶は煌めき、そしてズズッと重低音の音を出して、扉が動いた。


「うご……いた。ロス開いたよ! 」

『……良かった……』


 その言葉を最後にロスはポンと妖精の姿に戻ってしまった。


「ロス!」


 慌てて抱きとめる私。

 でも手の中のロスは、まさに虫の息と表現しておかしくない状態だった。

自分の涙を飲ませてみるも、ロスは『あとは……たのむ』と呟いて、目を瞑ってしまう。


「ロス! ……なんで。なんで駄目なの!」


 ぐったりしてる二人にも、無理やり涙を飲ませるが、何も変わらない



 ──そうだ。あの時私は、大切な人を失うかもしれない恐怖を……初めてしったんだ。



 ゾワリとあの時の感覚が忍び寄る。

 無意識に両手で自分の体を抱きしめると、ロスがグッと胸に抱き寄せてくれた。反対側からは、クウが私の背中に手を添えてくれる。


 誰も何も言わない

 でも伝わってくる想い


 ……そう……だよね。


 これは過去の映像。

 みんな生きてるんだもん。……大丈夫



 何度かゆっくり息を吐いて、顔を上げる。


『…………大丈夫か』

「うん。私は……平気だよ」


 少しぎこちなくなってしまったが、笑ってみせる。



 再び視線を移すと、映像の中の私は滂沱の涙を流しながら、『王の間』に足を踏み入れたところだった。




 ──ここまでは、正直、感傷的な気持ちで見ることができた。



 映像は進み、過去の私は必死に水龍さまを起こしている。


 ……ヤバい。

 これは流石にヤバい気がする。



 何度も叩いて

 たまに蹴とばして

 言葉使いも、甘めに採点しても酷いものだった。


『あーー。姫? ……これは』

「違うのよ! 起こすことが最優先だったの!」


 さすがのロスもなんとも言えない表情で、言葉を探している。


 も~! さっさと映像切ってよーー!


 と、地団駄する思いで目を向けると、過去の私はあろうことか、水龍さまにキスをしていた。


「!!」


 そういえば御伽話につられて、そんなことしたかもーー!


 もう。赤くなったらいいのか、青くなったらいいのかわからない。


『ひめ……』


 クウかボソリと私を呼んだが、恥ずかしさのあまり顔も上げられない


 なにこれ。恥ずかしいんですけど?!

 水龍さまの方向けないよーー。

 もう、本当にさっさと切ってよぉぉ!!


『なるほど。このタイミングで口づけですか……』 

「それは!!」


 シリック様の言葉に、ミレイの肩がヒュッと上がる。


『とりあえず、今は静かにしていなさい』


 弁明をしようとしたところで、ヒルダー様に遮られて口を噤んだが、正直、納得いかなかった。


 なんなのこれ!

 そもそもキスしろって言ったのは……!


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