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第174話 王の間④



『どこから話そうかのう〜。

 ふむ、姫の国では結婚は自由結婚か?それとも政略的なものか?』


「少なくとも私が育った国は自由結婚です」


 そうかそうかと、目を細めて笑う大神官様に、ほっと肩の力がぬけた。豊かな髭は白髪かと思ったら銀髪が混ざっているらしく、明かりに反射してキラキラ透けて見える。


『それでは姫から見て、この国の婚姻体制はどちらだと思いますかの?』


「えっ……と」


 自由じゃないの? あっでも……


「貴族の方は政略結婚もあると聞いています」


 そうだ。淑女教育でも聞いたし、実際シャーリー達は、良い家柄の男性と知り合うために王宮に足を運んでいたのだ。


『その通りです。平民でも利を求めて政略的に縁を結ぶこともありますし、貴族に至っては七割の者達が政略婚です』

「七割……」


 唖然とした。思っていたよりも高い数値だったし、平民でもあるなんて。


『残りの三割は恋愛婚ですな。ほれ、そちらのヒルダー卿のように』

「……あぁ」


 全員の視線がヒルダーに注がれた。

 今の奥方を想うあまり、かなり無茶をしたことはある種の「武勇伝」として広く知れ渡っている。


『私のことはどうでも良いことです。さっさと話を進めて下さい』


 地を這うような低い声で、あろうことか大神官様を牽制した。


『大神官様とヒルダー卿は、若かりし頃からやり合ってる旧知の仲なの』


 驚いた私に、クウがそっと耳打ちしてくれた。


 なるほどね。

 でも、結婚の話と青い水に何の関係があるの? 


『ふむ、脈絡のない話と、思っていそうな顔をしておるのぉ~』


 ……ばれてる。


「すみません。でも、先程のお話ですが、もし本当に私が王族の血をひいていたとしても遥か昔の事だし、関係ないですよね? 」


『かなり昔ってほどではないが、ニンゲンの年月に換算すると、たしかにはるか昔になるのかのう』


 本当に何が言いたいんだろう。

 婉曲すぎて意味も意図もはかれない。


『龍王の血に連なる方々は膨大な妖力をその身に宿しておるのじゃ』


 えっ、話変わった?

 ……ここで?


『肉に血に体液に……。その身を構成するもの全てに力が宿っており、その御力は生まれながらに強大なものになっております。それは我々、民とは一線を画すものであり、それ故に王族には結婚のしばりが無いのです』

「……」


 少し水龍さまの生い立ちを思い出した。

 強大な力を持って生まれたために、お母さんに疎まれたって……。悲しい話だ。


『全てを飲みこみ、塗り替える。龍王の血にはそれだけの力があるのです。

 ……たとえ水姫ですらない、全く力を持たないニンゲンであろうとも、風や他の部族であろうとも、最強の龍王の前では無意味な存在となるのですよ』


 全てを飲みこんで……塗り替える?


 イマイチ理解できない私に、マルティーノ卿は溜め息をひとつつくと補足を始めた。


『……もっとわかりやすく言ってさしあげましょう。……龍王国の王族と縁を結んだ娘とその子孫は龍族になります』


「………………は?」


 子孫も龍族……だって?


「いやいや、私人間だし! 

 生まれた時から人間やってますよ?!」


 馬鹿みたいな会話だけど、こっちは大真面目だ。


『その身に宿る血の話をしているんですよ。僕らも通常は人型をとっていますが、この身に宿る力は龍族ですよ』


 シリック様は変わらず、シレッと口を挟んできた。


『少量でも龍王の血または体液を、その身に取り込むと、体の中で時間をかけて龍王の血に塗り替えられます』


「それって……」


 マルティーノ卿が何を言わんとしていることをようやく理解した


 私もおばあちゃんも、その前の御先祖様も少しずつ昔、関係をもった龍王さまの血に侵略されてるってこと?

 そんなの……。


『その情報を掴んでいたからこそ、ペトラキス家は儀式を邪魔していた。……そういうことですよね』


 マルティーノ卿の視線がシリックに向けられた。

 それは内密にしていたことを、咎めるような厳しいものだった。


『僕が邪魔をしていた理由はたしかに()()ですね。 

 ──すでに龍族である身に、龍族に帰化するための儀式を行うなど、過去に例がありませんからねぇ。ましてや末端とはいえ王族。無礼極まりない行いと、言わざるを得ないでしょう』


 しかしその視線を受けて尚、受け流すように笑うシリックはいい性格をしてるのだろう。


『でも勘違いしないで頂きたい。僕は息子とはいえ、半人前と不確かな情報の共有など致しません。息子が邪魔をしていた理由は僕とは別件ですよ』


『……そう、なのですか?』


 サンボウはぶっきらぼうに『……はい』とだけ答えた。

 父親の公衆の面前での半人前扱いにカッと血が昇るのを感じたが、そこは現役宰相。ゆっくりと肺から息を吐き出し、辛うじて冷静さを保った。


 仮に反論するにしても、自分の理由はあまりにも稚拙すぎた。

 洞察力に冷静さ、大局を見通す視野……全ての実力が父とは、前宰相とは違う。


『では宰相殿が妨害していた理由とは?』


 マルティーノ卿の問は当然のものだろう。

 それに対し、サンボウは口を濁すことしかできやかった。


『まぁ、それはおいおい、と言うことで』

『シリック殿!』


 話題を広げた本人が話を遮り、邪魔をするなど意味がわからない。


『今、その話を掘り下げてしまうと、()()()()()を受ける方がいるんですよ。そうなると、とてもじゃないがこの先の話を進められなくなるので、今はご容赦願いたい』


 あくまでも自分優位の姿勢を崩そうとしない前宰相に、マルティーノ卿はカミソリのような鋭さでキッと睨み返した。


『フォッフォッフォ。ヒルダー卿よ。

 そなたの弟は相変わらず性格が悪いですなぁ』


『それについては申し訳なく思いますよ。……自己主張が激しいヤツでして』


『いやぁ~。良いことですよ。若い者同士がぶつかり合う様は見ていて心地よい』


 この空気感のなか、豊かな髭を揺らしながら楽しそうに笑うのだから、やっぱりただのおじいちゃんではない。


『若い……ですか。三人の成人した子供を持つ私は、世間一般では若い部類に入りませんが』


 うん。人間でいうなら四十後半であろうマルティーノ卿の気持ちもわかるよ。


『何をいうかと思えば。若さとはその精神、心の在りようでしょう。未熟と若さを同じように見えますが全くの別物。混同しては、見えるもの見えなくなりますよ』


 自分の上司に苦言を呈したつもりが、まさかヒルダーからフォローをもらうことになろうとは、マルティーノは複雑な心境だった。


『…………はい』


 しかし食って掛かるほど子供でもないし、自分の地位がそうはさせない。



「なんか分からないけと、やっぱり年長者は最強だね」

『それでまとめる姫もな』


 ロスと顔を合わせると、ミレイはニッカリわらった。


「じゃあ。私は龍族で実は王族の一員だった。……ってことで、終わりでいいですか?」


 なんとなく話をまとめてしまったが、そろそろ部屋に帰ってゆっくりしたいという欲望が頭をもたげていく。


『姫、勝手に話をまとめないの』

「だってぇ……」


『姫は、動揺しないの? 』

「うーーん。衝撃的な話ではあったけど、今の自分を揺るがすような内容じゃない……かな」


『まじか! やっぱり姫は大物だなぁ〜』

「何よそれ! 私だって動揺してるのよ!」


 ロスの言葉にむきになって反論してしまう。

 でも私が龍族だからなんだというんだ、って話だ。


『動揺しないのはありがたいな。話がさくさく進められる』


 ヒルダー様の言葉にミレイは「はぁ〜?」と素っ頓狂を上げてしまった。


『話はまだ終わっていないぞ』

「まだあるんですか?!」


『ある。お前の涙が結晶化したものは、鑑定の結果、遥か昔に存在された「癒しの聖女様」と同じ代物だった』


「いやしの……聖女ーー?」


 もう帰れると思ったところでの、ヒルダー様からの爆弾発言。


 ……これ以上はもういいよ。

 しかも聖女って……なにそれ



 ミレイは心の底からそう思った。






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