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第15話 女神より麗しい男とは誰のこと



 あれから一週間が経った。

 初めはぎこちなかったリリスさんと妖精達だったが、今では共に洗濯をしている。クウとロスが洗濯物を持ち上げ、リリスさんが干す。ミレイはその様子をキッチンから眺め「良かった」と呟くと、後ろからサンボウに声をかけられた。


『姫は見かけによらず空気を読むのじゃな』

「見かけによらずとはなによ」

『褒めているのじゃ? 』

「褒められてる気がしない」


 私が口を尖らせて反論すると、サンボウは楽しそうに笑った。  


『この前のクッキー作りは楽しかったのじゃ』


 ぎこちない関係のなにか突破口になれば、とクッキー作りを提案したのだ。


 共同作業は関係改善の定石だよね!


「そうね。ロスが小麦粉に埋もれたのはおかしかったわ」

『その後は大変じゃったな〜』


 そうなのだ。小麦粉に埋もれただけなら良かったが、慌てた二人が手から水を出したので、粉が湿ってベトベトになり、更にロスも暴れたので、良い具合に練られ粘土のようになってしまった。結果は大惨事……。


「ロスが『苦しい』って言い出した時は、ほんとに焦ったよ〜」

『まさかあんなことになるとは思わなかったのじゃ』


 サンボウは思い出して、しゅんとする。


「ふふ。助けなきゃって思ったんでしょ? 」


 粘土状の小麦粉の中からロスを救出して、慌てて私とリリスさんで小麦粉を洗い流したのだ。

 二人でホッとしたところにサンボウが現れて『すまぬ〜』と言いながら、大きなタオルで拭いている様子は可愛くて和んだものだ。


 小麦粉粘土も片付けて「再開するわよ」と意気込んだところで、クウがいないことに気がついた。

 みんなであちこち探していたら、あろうことか砂糖壺の中にいた。しかも『幸せなのじゃ〜』ってローリングしてて……。唖然とする私の傍らで、リリスさんの雷が静かに落ちた。


『まさかこの年になって──食べ物で遊ぶんじゃありません!……なんて怒られるとは思わなかったぞ』


 サンボウは空中であぐらをかきながら、リリスさんの剣幕を思い返していた。


「たしかに」

『しかも、わしとロスはとばっちりじゃ』


 腕組みをして、少しお怒り気味のようだけど糸目のせいか解りづらい。私は笑いながら奥の棚から豆を取りだした。夕食用の豆は今から浸さないと調理が出来ない。


「そうだね。おじいちゃんには新鮮な怒られ方だよね」

『またその話か。やはり姫はじじぃより若いイケメンが好きなのじゃな 』

「若いイケメンの比較対象がおじいちゃんなの? 

 なかなか無いね〜」


 随分と差がありすぎて、思わず苦笑してしまう。

 

『じじぃのイケメンと若いイケメンならどっちが好きなのじゃ? 』

「……それは若いイケメンじゃないかな」

『やっぱり若いのが好きなんじゃないか』


 サンボウは拗ねたようにそっぽを向いてしまったが、これは私は悪くないと思う。


 誘導尋問でしょ……これ。


 目の前をふよふよと浮いているサンボウに、どう声をかけようか思案していたら、サンボウが振り向きこう言った。


『そうじゃ。水龍さまはイケメンじゃぞ』


 少し沈黙したあとで「そうなんだ」と同調してみたけど、はっきり言って関心は無い。むしろイケメンの話まだ続くの? と思っていた。


『姫はその辺に転がっているイケメンと我等の王を一緒に考えておるな?

 よろしい。わしがあの御方の素晴らしさを教えてやるのじゃ! 』

「……イケメンは転がってないよ」


 豆の選別をしながら、きちんと訂正を入れたのに私が話半分に聞いていたのが気に入らなかったみたいで、サンボウはムキになって言葉を続けた。


『水龍さまの麗しさと言ったら天界の女神ですら、扇で顔を隠すほど、と言われててなぁ……』


 サンボウは遠い眼をして語り出した。


『水面に映る満月の、淡い光を紡いだかのような艷やかな銀色の御髪。瞳は切れ長で澄んだ湖のように蒼く、深い綺麗な蒼水色じゃった。あの凪いだ瞳に見られると、思わず平伏する者が続出しての〜。それでも瞳を交わしたいと望む者が大勢いたのじゃ。

 もちろん見る者を魅了したのはお顔だけではないぞ! 』


 サンボウの意気揚々と語る姿にミレイは安堵し、口元を綻ばせた。


『立派な体躯に金糸の刺繍が入った衣を纏う姿は威風堂々としていて、他者を寄せ付けぬ貫禄。なのに、臣下には優しくての〜。労いの言葉をかけて頂いた日には、天にも登る気持ちになるのじゃ。

 あの方にお仕えできたのは、臣としての至上の喜びじゃった……』


「そっか。素敵な方だったのね」

『そうじゃ。類を見ない程に麗しく、仕事もできてお優しい。しかも強さは折り紙付きじゃ。更に財はてっぺん知らず、地位に至っては水の最高位、王龍の位をお持ちの御方じゃ。

 あのような御方はこの世にも、姫の世界にもおらん。完璧! なのじゃ。気になるじゃろ〜? 』 


 この表情はなんだろう……。

 昔、近所の人に「ミレイちゃんいい人できた? 良かったらおばちゃん紹介するわよ~」って言ってきたご近所さんの顔に似てる。


 ……いや、ないよ。大切な王様に会ったばかりの小娘を紹介しないでしょ。


「ははっ」と笑って濁したところに、クウもやって来た。


『どうしたの〜』

『うむ。今、姫に我等が王のイケメンぶりを教えていたのじゃ』

『それはいいのね〜! 』


 クウが目を輝かせてノリノリの顔してる。


 やばい、王様自慢はもうお腹いっぱいだ。

 隆々たる美辞麗句ももう辛い。クウまで参戦してくるのは勘弁願いたいよ〜。


「そろそろ食事の支度しようか」

『ごはんなの〜』


 やはりクウは食べ物の話に釣られてくれた。

 私は豆を水に浸し、葉野菜を洗いながらふと考える。


 それにしても水龍さまってお綺麗なのね。

「女神が顔を隠す」なんて表現、初めて聞いたよ。しかも完璧? 完璧ねぇ……。まあ臣下の贔屓目があったとしても良い上司なんだろうね。


 ふと、自分の上司を思い出した。


 風木主任もいい人だったなぁ。


 ミレイののんびりした性格を落ち着きがある、と言ってくれて、小さい背丈は潜水艇向きだと言ってくれた。童顔に至っては「年をとってからがお前のマウントだ!」なんて言われたものだから、私も「年をとってからなんて寂しいですよー」と笑いながら食って掛かったものだ。


「会いたいなぁ〜」

『誰にじゃ』

『誰なの? 』


 いつの間にか二人が私の正面にいた。垂れ目と糸目が私を見てる。


「一緒に乗っていた上司だよ」

『またあの男か。姫はあの男を好いているのか?』


 あまりの唐突さに違うよ、と軽く訂正をいれると『風の男なんてダメなの〜!』とクウがすごい剣幕で怒ってきた。


「風の男? 」

『これ! 』


 サンボウが嗜めると途端にクウはしまった、と言う顔をして口元を押さえた。 


「風の男ってなあに? 」

『なんでもないのじゃ』

『そうなの。早くごはんにしようなの〜』


 二人は外にいるミレイさんとロスのところに行き、昼食のメニューを聞いているようだ。


 なに風の男って。

 風……? 風木さん? 私は水……原だよね。いやまさかね〜。


 私はふと、考えついたことを即座に打ち消した。でも、妖精達は水の眷属だと言っていた。それと同様に考えるなら「風の眷属」がある可能性も捨てきれない?


「まさかあの遭難に風木さんも関係してるの……? 」


 私の零した一言に反応する者は誰もいなかった。




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