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第136話 忘れていたわけではないけれど

今回はサンボウ達、三人の視点で書いています。

読みづらかったらすみません。よろしくお願いします。


 警邏隊が到着し、男達が連行されて行く様子は穏やかな街中で、物々しさ残す事となった。


「エリーさん達に聞いたけど、あいつら人攫いみたいだね」

『あぁ。最近はこの辺りにも出るようになって、騎士団でも巡回してるんだ』


 そう話すロスはいつものふざけた感じではなく、騎士団長の顔をしていた。


 人攫いか……。


 ミレイはリリス達のことを思い出していた。

 龍王国に来てからは外出禁止と言われてカンヅメ状態になり、やっと解除されたと思ったら夜会のレッスンに諸々の事が重なり、クウに手紙を託すだけに留まっている。


 早く動かないと。でも……


「南の龍湖にはいつ頃行けるようになるんだろぅ……」

『南の龍湖?』


 不意に零した言葉はロスの耳に届いていた。


「うん。いろいろあったけど、夜会も終わって、少し落ち着いたと思うんだよね。それなら──」

『ちょっと待ってくれ。いきなり何を……』


 慌てたロスを見て、ミレイの眉が僅かに寄った。


「……いきなりって。別に突拍子もない話じゃないでしょ? 

 私達がここにいるのは、ニウさんや精霊、動物達の協力があってこそだし、みんなの望みは龍湖の浄化だもの。……まさか忘れたの?」


『わ、忘れてなどいない』


「そうだよね〜、良かった。受けた恩を忘れて自分さえ良ければ……なんて考え方は私、好きじゃないから。危うくロスを軽蔑するところだったよ〜」


 そう笑う姫はいつもと同じ朗らかな笑顔だった。でもそれが警告や牽制を含んだものに見えてしまうのは、自分の罪悪感からなんだろうか。


 そうだ、忘れてないぞ。

 最近忙しかっただけでもちろん忘れてない!


 ロスは自分に言い聞かせるように、心の内で謎の弁明をしてみる。それくらいミレイの『好きじゃない』『軽蔑』の言葉の威力は凄まじかった。



『どうしたの?』

『……クウ』


 クウとサンボウも話に加わり、笑い話的に話をすると、二人の表情が瞬間的に固まった。


 あーー。きっと自分もこんな顔してたんだろうなぁ〜。姫は普段『拒絶』するような強い言葉は使わないから尚更、一撃がおもいんだよな。


「ねぇサンボウ。夜会は終わったし浄化の儀式をすることは可能かな?」

『自分の一存では……』 

「もちろん分かってるよ。でもあの件が落ち着いてきたからサンボウは今日お休み取れたんだよね?」

『う……うむ』

「この後はしばらく催事は無いはずだって、サンボウのお父さんが言ってたけど……。違うの?」


 父上ーー!


 サンボウは舌打ちしたい気分だった。

 龍湖の浄化を反対してるわけじゃない。ただ、この世界と人間の世界繋ぐことを何故か、本能的に拒否してるのだ。


『まぁ急ぎの行事は無いが、滞っていた通常業務や神殿からの要請などもあってな……」

「……」


 姫に瞬きもせずに見つめられるなど、幸せな気分になるはずなのに、今は少しも嬉しくない。


 何だ、私は()()忘れている気が……。


 冷静を装いながら、必死にその()()を思いだそうとする。



『おーー。気圧されてる宰相サマなんてレアだなぁ〜』

『ロス……』

『わかってるよ』


 クウに窘められて、サンボウの援護をするべく会話に加わろうとするも、本音はこのまま一歩も動きたくない。


 同じ詰め寄られるのでも、ベッドの上なら大歓迎なのに……。これなら害獣相手の方が気が楽だ。



「ねえ、サンボウ。龍湖を浄化する話を議題に出してもらえないかな。まずはそこからだと思うのよ」


『しかし浄化は主に陛下の御力によるものが大きいから、どれほどまで復活しているかにもよるのじゃ』

「……わかった。今度水龍さまに相談してみるね」


 視線が反らされ、会話の終わりを実感した。

 のらりくらり躱したのは私なのだから当然なのに、姫に突き放されたような気になってしまう。

 私ではアテにならないと思われたのだろうか。


 渦巻く想いに思考が囚われそうになったとき、姫の話は続いていた。



「水龍さまに聞きたいこともあるしね」

『聞きたいこと?』


「龍王国に来る前に言ってたじゃない。水姫は入国したら外には出れない。

 ──つまり帰れないって……」



 ザァーー。

 一陣の風が吹いた気がした。


 それが本当の風なのか、自分達の胸を穿つ風なのかわからない。

 三人の鼓動が早くなり、思考が停止する。頭から冷水をかけられたかのように、頭の芯から冷えていく。


 そうだ、コレだ。

 なぜ忘れていたんだ。



『──ひ、姫は……帰りたいの?』


 クウが上擦った声で絞り出すように質問をすると、ミレイは当然とばかりに


「……この国も素敵な国だと思うけど、向うには家族や友人達もいるしね」


 ニコッ笑ってスカートの裾を翻した。


『そっか……。たしかにそうなの、ね』

『……』

「でも私の扱いどうなってるんだろ? 潜水艇の事故だったし、行方不明扱いだろうなぁ〜。これでいきなりピンピンして帰ったら、メディア対応大変そう〜」


 ミレイが独りごとを言ってる間に、三人は顔を寄せて互いの顔色を伺う。


『忘れてたわけじゃないが……本当に帰るつもりなのか?』


 ゴクリとロスの生唾を飲む音が聞こえてくる。


『たしかに言ってたの。その話はしたの……』

『……したな。姫に「見限られた」と、我らが絶望した時の話じゃ』

『そう、だったな』

『『……』』


『とりあえず、帰る云々は可能かどうかわからないから保留にしておくの。ここで話しても結論はでないし』

『たしかに』

『それよりも今は、さっきの話を水龍さまに相談するってことの方が重要なの。

 ──せっかく好ましい相手を見つけたのに、その相手が自分の前から居なくなる。……陛下がどういう行動に出るか』


『……王族は好む相手には一途で時に盲目的とも言われている。数代前の王の中には、妃を他の男の目にふれさせたくないと、監禁した王もいたくらいじゃ』

『我らの敬愛する王が、何の罪もない姫を監禁すると言いたいのか?』


 ロスが非難めいた視線を送る。


『昔の話じゃ。でも夜会の御様子を見れば、水龍さまが笑って送り出すとは……』

『それでも監禁などさせては駄目なの。互いの為にならないし、何より姫は自由の中で生きてこそ姫のな』

『わかってるじゃねーーか!』


 バシッとクウの背中を叩くと、ミレイが「どうしたの?」と寄ってきた。

 ロスが一歩前に出て、散策路の下を流れる川を指指すと「わぁっ」と声を上げて手摺りに走り寄る。


『まったく。相変わらずの馬鹿力なの。

 とりあえずヒルダー様に根回ししてから水龍さま。会議が順当だろうと思うけど……』


『……我らは姫に捨てられるのだろうか?』

『……はぁ?』


 限りある時間しかない今、要点のみを簡潔に話したいのに、肝心の宰相サマが腑抜けになっていた。


『サンボウ?』

『独占したいなどと思ってないし、いや、できたらこの上なく最高だが、それよりも姫の顔を見ることが出来なくなるのは……辛すぎる。でもこんな頼りない男では……』


 百面相をしながら感情を思うままに吐き出し、終いには両手で顔を覆うこの男は、王宮では名だたる方々からも一目置かれる程の、キレ者宰相だったはず。

 『智の一族』でありながら、妖界術まで極めたと言われる、当代一の宰相閣下……の、はず!


『……誰なのこいつ』


 クウの声が1オクターブ低くなる。

 無言でサンボウの脛を蹴飛ばすと、当の本人は『なに?』とばかりに視線を投げかけてくるから、不愉快極まりない。


『脳内お花畑の直情宰相が』

『…………えっと。脳内花畑? ……誰が?』


『お前だよ、サンボウ。

 感情抑制もできず、ひたすらたれ流すのみ。バカみたいに直情的な割には卑屈だし、そのくせ一丁前に独占したいとか、いい加減にするの。このエロ糸目が!』


『…………く、くう?』 


 身長的に自分が見下ろしてるはずなのに、何故か見下されている気になる。


『そんな顔しても無駄なの。何が智の一族なんだか。ほんと使えない! 今のサンボウの脳みそならロスの方がまだマシなの』

『……そ、そんなにか?』


 クシュン!

 僅か先でロスがくしゃみをする。それを見て、二人の頬が僅かに緩む。



『……すまなかった』

『……はぁ〜。最優先事項は?!』

『浄化ができる環境にあるかの確認じゃ』 

『その通り。水龍さまにはまずクウから話を振るから、詰めるのは宰相サマがやって』

『あいわかった。……すまぬ』

『そう思うならチャキチャキ頭働かすの! 

 サンボウの価値の半分は智略なんだから。ソレ潰してどうするつもりなの? まったく!』

『半分か? 私の価値など、この頭くらいだと思っていた』


 目からウロコと言わんばかりに、クウを見つめる。


『ほお〜。頭脳明晰だと言いたいのね!?

 まったく! その人の価値がたった一つのわけないの。

 ──免疫のない純情オジサンが急に色恋に目覚めると本当にたちが悪いし面倒くさい。……脳みそ壊死したんじゃないの?』


 三十前でオジサン呼ばわりは物申したかったが、当然、訂正できるような空気でもなく


『………今日はいつにも無く辛辣じゃな』


 と、だけ口にする。

 これしか言えなかった。と、言うのが正解である。




「ねぇ二人共! いい事思いついちゃったーー!」


 ロスの腕を取ってミレイが駆け寄ってくる。

 その姿は可憐な少女のようだと、先程までの殺伐とした空気が一気に和らいだ。


『いい事とは?』

「私は救国の姫君なんでしょ?」

『あぁ、そうだったな』


 子供達が満面の笑みでバケツを重そうに運ぶ姿が視界の隅に映る。そろそろ日の入りも近い、子供達は家路につく時刻だ。


「それなら、一つくらい私の要望を聞いてくれても良い気がするのよね」

『…………えっ?』

「だからぁ〜。国……救われたんだよね? だったら龍湖の浄化してくれてもいんじゃなぁい?……って、お願いするの! どう?」


 三人が絶句したのは仕方がないと思う。

 たった数秒前に『可憐な少女』だと認識した存在が、脅しとも取れる内容を爽やかに提案してきたのだ。


『それはお願いなのか?』

『……脅迫の気がするの』

「お願いだよ〜。お願いだよね? 宰相サマ?」

『えっ……あぁ。……うん』


 有無を言わせぬ問答に、つい頷いてしまうサンボウだった。


 ──その後、クウとロスの説得により、脅迫じみた『お願い』は却下して、ついでに水龍さまへの『相談』も保留にさせた。




 そろそろ帰ろうとクウが促し、行きの橋の上まで来たところで、ミレイが突然「忘れた〜」と叫びだした。何かと思ったら、水龍さまへのお土産を買い忘れたと言いだしたのだ。


 少し道を戻るハプニングはあったものの、無事帰ってこれたのだから良しと思うことにした三人だった。



  ◇  ◇  ◇



「今日はありがとう。すごく楽しかった!」

『それなら良かった』

「またみんなで行こうね。おやすみなさい!」



 ミレイを部屋に送り届けた帰りみち、王宮の廊下を歩く三人は、同じことを考えていた。


『姫はやっぱり想像つかないことばかりするなぁ〜』

『まったくじゃ。会議といい夜会といい、もう少し想像できる範囲内の行動をしてくれたら、こちらも心穏やかになるのに』


 はぁ〜と重い溜め息を吐いたサンボウは、夜会関連ではずっとミレイを気にかけていただけに、仕方がないのだろう。


『まぁ……脅迫を「いいこと思いついた」と言われた時は驚いたけど、でも世話になった者達のためにって言うのが姫らしいの』


 三人は顔を見合わせて『まったくだ』と笑いあう。



 この先も今日みたいな日を過ごせることを願いながら、各々、自分の戦場に帰っていく。



 窓からは黄昏色の空が一面に拡がっていた。今夜は良い月が観れそうな、そんな綺麗な空だった。






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